露だけの問題でない五輪の矛盾
北京五輪女子フィギュアスケートでのロシア・ワリエワ選手のドーピング疑惑問題が尾を引いている。
一連の騒動はロシア選手が極めて厳しい訓練、管理を受けていたことを浮き彫りにした。
まだ15歳の少女が極めて過酷な環境下で訓練を受けてきたことが窺われる。
ロシアの問題だと批判する向きも多いが、ロシアだけの問題とは言えないだろう。
五輪のあり方、スポーツのあり方について、根本的に見つめ直すことが求められていると思う。
東京五輪もさまざまな問題を浮き彫りにした。
北京五輪においては五輪が政争の具とされるという側面も浮上した。
それでも、東京五輪も北京五輪も開催が強行された。
背後には巨大な利権事業として開催を強行しようとするIOCの基本姿勢があった。
五輪を取り巻く巨大資本および利益追求機関と化しているIOCは収益事業として五輪を捉えている。
オリンピズムの根本原則には
「オリンピズムは肉体と意志と精神のすべての資質を高め、バランスよく結合させる生き方の哲学である。」
「オリンピズムはスポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求するものである。」
「その生き方は努力する喜び、良い模範であることの教育的価値、社会的な責任、さらに普遍的で根本的な倫理規範の尊重を基盤とする。」
と記されている。
さらに、
「オリンピズムの目的は、人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てることである。」
と明記されているが、現実の五輪がこの根本原則から大きく離れてしまっている。
「生き方の哲学」
「生き方の創造」
「普遍的で根本的な倫理規範の尊重」
と列挙されるが、そのすべての言葉が虚ろに響く。
「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指す」
なら、国家間でメダルの数を競うことなど意味を持たない。
また、大きな危険を伴う競技が次々に導入されているが、スポーツを「曲芸化」することも「普遍的で根本的な倫理規範の尊重」と相容れない。
アスリートが切磋琢磨して努力を積み重ねることは尊いこと。
その努力の発表の場があることはアスリートにとっての励みになる。
しかし、五輪が推進されるのは、そうしたスポーツ競技を商業利益に活用することが可能であり、現実に商業利益として利用しようとする資本が存在するからだ。
つまり、五輪が本来の理念を離れて、巨大な利潤追求事業に転落してしまっているのだ。
スポーツに励む人が存在し、スポーツを観戦したい人が存在する。
スポーツは産業として成り立つ基盤を有している。
したがって、スポーツ産業が出現することは当然の流れだが、その商業ビジネスを一種の慈善事業に偽装しようとしているところに無理がある。
その無理がさまざまなトラブルを発生させる原因になっている。
東京五輪は、国威発揚、滅私奉公、学徒動員の三原則によって開催が強行された側面があった。
慈善事業、公益事業を装いながら、この事業から巨大な利益を獲得しようとする資本や各種団体が入り乱れ、他方で、国民は「ただボラ」に象徴される搾取の対象とされた。
各種スポーツ事業はビジネスとして成り立つ基盤を有している。
したがって、それらの興行を、ビジネスとして各種営利団体に委ねればよいのだ。
五輪にはかつてアマチュア規定が存在した。
スポーツは金もうけの手段ではないとの理念の下に五輪が遂行されていた。
しかし、IOCは1974年にアマチュア規定を五輪憲章から削除。
この結果、1980年代から五輪の商業化が急速に進展した。
五輪をかつてのアマチュアリズムの祭典に引き戻すか、そうでなければ、五輪を完全なる商業イベントに転換させる。
ダブルスタンダードの五輪制度が多くの問題を生み出す背景になっている。
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