あまり意味がない最高裁の判断
沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設先となっている名護市辺野古での軟弱地盤改良工事をめぐり、工事を承認しない県に対して国が行った「是正の指示」が違法かどうかを争う裁判で、最高裁判所は9月4日、「国の指示は適法」として上告を退ける判決を示した。
NHKは
「沖縄県の敗訴が確定し、辺野古への移設に反対してきた県は工事を承認する義務を負うことになり、今後の対応が焦点となる」
と伝えた
最高裁の判断がどうなるかは事前に明らかだった。
最高裁は「法の番人」でなく「政治権力の番人」であるからだ。
人々は裁判所が「法の番人」と勘違いしてしまうが実態は異なる。
人々が裁判所を「法の番人」と勘違いするのは日本国憲法に次の規定があるからだ。
第七十六条
3 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
裁判官は「良心」に従って「独立」して職権を行い、「憲法及び法律」にのみ拘束される。
この規定から裁判所は独立の機関で裁判官は「法の番人」として行動すると判断してしまう。
しかし、ここに書かれている「良心」が曲者。
日本国憲法には次の条文がある。
〔思想及び良心の自由〕
第十九条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
「良心の自由」が定められている。
裁判官にも「良心の自由」が認められている。
「良心の自由」とは何か。
「良心の自由」とは
「人の精神的活動がいかにあろうとも法律で禁止・強制されないこと」
「心の中で何を考え、何を思うかは、他人から一切干渉されない自由」
のこと。
「良心」と表記するから誤解が生まれやすいが、言ってみれば「良い良心」もあれば「悪い良心」もあることになる。
裁判官が「良い良心」の持ち主であるとは限らない。
裁判官の行動を規定する最大の力は何か。
圧倒的多数の場合、それは「人事」。
裁判官の「人事」はどのようなものか。
日本国憲法に規定がある。
第六条
2 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
第七十九条
最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
第八十条
下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。
その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。(後略)
最高裁長官は内閣が指名し,天皇が任命する。
最高裁の長官以外の裁判官は内閣が任命する。
下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣が任命し、十年ごとに再任される。
最高裁が指名する名簿を作成するのは最高裁事務総局。
再任も含めて下級裁判所裁判官の人事権は最高裁事務総局が握っている。
つまり、裁判官の人事権を握っているのは内閣=政府=政治権力である。
最高裁事務総局のメンバーは出世街道を歩む者で彼らが出世するには政府=政治権力の覚えがめでたくなければならない。
この制度がもたらす帰着は、圧倒的多数の裁判官が政治権力にひれ伏すということ。
最高裁に至ってはすべての裁判官が内閣の指名または任命によって就任している。
内閣は内閣にとって都合の良い人物を最高裁裁判官に据えるだろう。
したがって、政府と沖縄県が裁判で争って沖縄県が勝つことは基本的にない。
NHKが本当の意味の公共放送なら、こうした背景を説明することが重要なのだ。
日本の裁判所の仕組みがこうなっているから、政府の主張を認める判断しか示されないことを分かりやすく説明することが重要。
しかし、公共放送でない国営放送のNHKはそのような言い回しをしない。
「沖縄県の敗訴が確定し、辺野古への移設に反対してきた県は工事を承認する義務を負うことになる」
と表現する。
重要なことは国の主張が合理的であるのか、沖縄県の主張は間違っているのかを客観的に論じること。
裁判所の判断は「絶対」でない。
裁判所は政治権力の一翼を担う「権力機関」である。
このことを銘記することが重要だ。
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