麻生太郎氏ナチスに学べ発言擁護論の意味不明
安倍晋三政権の副総理を務めている麻生太郎元首相が憲法改定問題に関連してナチス政権に言及した問題に関する論議に、この国の病理がくっきりと浮かび上がる。
麻生氏の発言の最後の部分は次のものだ。
「憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。」
ワイマール憲法がだれも気づかないで変えられた。その憲法改正を実行したナチス政権の手口を学んだらどうか、
と発言している。
この発言が問題になるのは当然のことだ。
民主、みんな、共産、生活、社民の野党5党は8月7日、この問題について、
「釈明の余地のない暴言で、国際社会におけるわが国の信頼を大きく傷つけた」
として、安倍首相に麻生氏の罷免を求める声明を発表した。
野党代表者は首相官邸を訪れ、安倍首相に申し入れを行なおうとしたが、安倍首相は面会を拒絶した。
同時に野党は開会中の国会で集中審議を求めたが、安倍政権はこれも拒絶して国会を閉幕した。
日本の民主主義は死を迎えたとしか言いようがない。
このなかで、さらに驚くべき光景が広がっている。
麻生発言が罷免に値するものであることは明白であるなか、この麻生発言を擁護する支離滅裂な主張が横行している現実である。
テレビでコメンテーターなどを務めている青山繁晴氏などは、麻生発言に問題は皆無であることを絶叫するが、まさにこの人物の正体を鮮明に表す事例である。
独自の視点や主張を持つことを私は否定しないが、客観性のないことを、疑いようのないこととして断言する人物は、まったく信用に値しない。
麻生氏の発言全体を詳細に検証してみると、その段階で改めて、麻生氏の発言は妄言であるとしか判断できない。
これが、日本語についての常識、学識を持つ者の標準的な判断であると、私は思う。
青山氏が個人的な事情で麻生氏を擁護したいとする気持ちは推測がつくが、それを合理性のある説明によって主張しないのでは、青山氏の信用そのものが地に堕ちると言わざるを得ない。
これ以上信用を落とす心配はないと高を括っているのかも知れないが、筋の通らぬ主張でも、大声でがなり立てれば道理も引っ込むと思っているなら大間違いだ。
麻生氏の発言を以下に改めて示す。
「僕は今、(憲法改正案の発議要件の衆参)3分の2(議席)という話がよく出ていますが、ドイツはヒトラーは、民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って、ヒトラー出てきたんですよ。ヒトラーはいかにも軍事力で(政権を)とったように思われる。全然違いますよ。ヒトラーは、選挙で選ばれたんだから。ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わないでください。
そして、彼はワイマール憲法という、当時ヨーロッパでもっとも進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた。常に、憲法はよくても、そういうことはありうるということですよ。ここはよくよく頭に入れておかないといけないところであって、私どもは、憲法はきちんと改正すべきだとずっと言い続けていますが、その上で、どう運営していくかは、かかって皆さん方が投票する議員の行動であったり、その人たちがもっている見識であったり、矜持(きょうじ)であったり、そうしたものが最終的に決めていく。」
(中略)
「しつこく言いますけど、そういった意味で、憲法改正は静かに、みんなでもう一度考えてください。どこが問題なのか。きちっと、書いて、おれたちは(自民党憲法改正草案を)作ったよ。べちゃべちゃ、べちゃべちゃ、いろんな意見を何十時間もかけて、作り上げた。そういった思いが、我々にある。
そのときに喧々諤々(けんけんがくがく)、やりあった。30人いようと、40人いようと、極めて静かに対応してきた。自民党の部会で怒鳴りあいもなく。『ちょっと待ってください、違うんじゃないですか』と言うと、『そうか』と。偉い人が『ちょっと待て』と。『しかし、君ね』と、偉かったというべきか、元大臣が、30代の若い当選2回ぐらいの若い国会議員に、『そうか、そういう考え方もあるんだな』ということを聞けるところが、自民党のすごいところだなと。何回か参加してそう思いました。
ぜひ、そういう中で作られた。ぜひ、今回の憲法の話も、私どもは狂騒の中、わーっとなったときの中でやってほしくない。」
(中略)
「憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。
わーわー騒がないで。本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね。ぜひ、そういった意味で、僕は民主主義を否定するつもりはまったくありませんが、しかし、私どもは重ねて言いますが、喧噪(けんそう)のなかで決めてほしくない。」
青山氏は、麻生発言の全文を正確に読むと、
「ワイマール憲法を民主主義を使ってナチの憲法に変えたあの手口、そういうことが起きてしまうんだということを反面教師にして、そういうことが起きないように憲法改正もきちんと静かな環境で国民が考えつつやりましょうと発言されている」
と述べて、麻生発言を問題視したメディア報道が、麻生発言の文脈を完全に逆さまにした誤報であると述べる。
あえて私がここで反論する必要もないような低次元の素材であるが、テレビなどに登場する人物が、このような奇怪極まる発言をすると、その発言に付和雷同する人々が登場してくることは、驚きを超えて恐怖である。
国が進路を誤るときには、常にこのような世論の暴走が席巻するようになる。正論が排撃され、暴論がはびこるのだ。
日本が直面している巨大な危機の断面を端的に示す事例である。
麻生氏の発言を精査したときに、青山氏が示す「解釈」が生まれることはあり得ないと私は判断する。
青山氏は自己のユニークな解釈を絶対的な真実であるとして、この解釈に反する論評は認めないとの姿勢を示しているが、この姿勢の異常さに気付かぬ人々が増えることが本当の「恐怖」である。
続きは本日の
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