「かんぽの宿」売却先決定の不透明なカラクリ
マスメディアは「かんぽの宿疑惑」を掘り下げることを忌避(きひ)し、報道する場合は日本郵政の弁明だけを説明する対応を繰り返している。「かんぽの宿疑惑」の解明が進行する場合、「「郵政民営化」の実態が「郵政利権化」である」と広く国民が認識するようになる可能性が高い。
「かんぽの宿疑惑」解明が進む場合、2010年度ないし2011年度に郵政株式を上場し、「郵政民営化=郵政利権化」の収穫期を迎えるとの利権互助会のタイムスケジュールに大きな狂いが生じる可能性が高まる。論議の推移、ならびに総選挙結果によっては「郵政民営化=郵政利権化」の巨大プロジェクトそのものが瓦解(がかい)するリスクさえ浮上する。
「政官業外電の悪徳ペンタゴン」は、いま、「郵政民営化=郵政利権化」全体の根本的な見直しにまで事態が発展することを阻止することに全力を注いでいると考えられる。外国資本とも直結する「電波=テレビメディア」が「かんぽの宿疑惑」を徹底して忌避するのは、この推論と整合的である。
2月3日放映の読売テレビ「ミヤネ屋」は、「かんぽの宿疑惑」を取り上げたが、読売テレビ所属のコメンテーターである春川氏が、日本郵政サイドに立った弁明を繰り広げ、司会の宮根氏が「これまでのコメントで最高のコメントだ」と絶賛した。事前の打ち合わせどおりのやり取りが実行されたのだと考えられる。春川氏は通常は、中立の立場からコメントする傾向を持つが、この問題についての対応は極めて奇異なものだった。
小泉政権時代に「メディアコントロール」が激しい勢いで強化された。竹中氏が関与した「郵政民営化広報」では、IQの低い国民を「B層」と命名して、「B層」を「郵政民営化広報」のターゲットにするとの戦略に則って実際に広報活動が実行されたことが、国会で明らかにされている。
小泉政権のメディアコントロールに深く関わったと見られる飯島勲元秘書は、「スポーツ紙」、「ワイドショー」、「婦人週刊誌」が情報伝達媒体としてとりわけ重要であるとの考え方を示していたと伝えられている。小泉竹中政権は「B層にターゲットを絞った情報操作」を基本に据えていたと一般に指摘されている。
「ワイドショー」では、「かんぽの宿疑惑」がほとんど取り上げられていない。貴重な国民資産である「かんぽの宿」が1万円で売却され、わずか半年後に6000万円で転売された事実、2400億円投入された施設と時価47億円の首都圏社宅不動産が合計で109億円で売却された事実、価格競争入札と言いながら、極めて不透明な落札の経過、などが長時間、各地の売却物件の映像を交えて報道されれば、主婦層は「郵政民営化」に対する認識を根本から修正する可能性が高い。
「ラフレさいたま」は300億円程度の資金が投入された施設であり、現段階でも150億円程度の時価評価を受ける物件である。「ラフレさいたま」は「かんぽの宿」ではないが、一括売却リストに潜り込まされた。「ラフレさいたま」からの中継も分かりやすい映像を生み出すだろう。
年金関連の宿泊施設「グリーンピア」、雇用能力開発機構の宿泊施設「スパウザ小田原」の問題が表面化したときに、メディアはこれらの施設をどれほど報道したことか。国民は「情報操作」の驚くべき実態についての知識を持たねばならない。
この問題について、「晴天とら日和」様が引き続き、丁寧に情報をまとめて提供してくださっている。いつも参考にさせていただいている。
また、社会民主党議員の保坂展人氏が「かんぽの宿疑惑」について、重要な情報を次々にブログに公開してくださっている。2月3日付記事に「第1回社民党・かんぽの宿・郵政民営化調査PT」での日本郵政担当者に対するヒアリング結果が示された。
極めて重要な事実が明らかになっている。
日本郵政が文書で回答した今回の入札形態についての説明は以下のとおりだ。
保坂展人氏のブログ記事から転載させていただく。
・本件は単なる不動産の売却ではなく、従業員も含む事業全体を譲渡するものであり、雇用の確保や事業の発展・継続性についての提案も評価する必要があるため、譲渡価格のみを入札して候補先を決定する、単純な「競争入札」は馴染まない判断し、今回の手続を選択したものです。
・具体的な手続としては、平成20年4月1日から平成20年4月15日までホームページにおいて競争入札による譲渡を実施する旨の公告を行った後、各応募者から提出された、従事する社員の取扱い、取得後の事業戦略、ホテルの運営実績(投資実績)、応募先の信用力、取得価格等の企画提案内容を総合的に審査した上で、最終的に最も有利な条件を提示した応募先と契約を締結しており、手続の内容としては「競争入札」の範疇に入るものと認識しております。
(ここまで引用)
二つの問題点を指摘する。
第一は、
「平成20年4月1日から平成20年4月15日までホームページにおいて競争入札による譲渡を実施する旨の公告を行った」
とする部分だ。ホームページ上のどのページにどのような掲載を行ったのかという点だ。HP表紙に重要事項として掲載したのかどうか。これだけの資産規模であるから、公告の期間はあまりにも短く、また応募締め切りの期限も非常に早い。広く情報を周知させれば、より多くの優良な入札参加者を募ることができたはずだ。
第二は、
「各応募者から提出された、従事する社員の取扱い、取得後の事業戦略、ホテルの運営実績(投資実績)、応募先の信用力、取得価格等の企画提案内容を総合的に審査した上で、最終的に最も有利な条件を提示した応募先と契約を締結」
との部分である。「総合的に審査」すれば、どのような結果を出すことも出来る。
2月2日の参議院本会議で自見庄三郎議員は次のような質問を示した。
「オリックスの109億円が最も高かったのか、総務大臣にお尋ねを致します。」
これに対して鳩山総務相は、
「最終競争入札は、なぜか二社のみでございまして、オリックス不動産の方が高かったという風に聞いております。」
と答弁した。
入札情報はできるだけ、広く国民に知られることのないように、形式的に告知されたのだと思われる。それでも当初、27社の応募があったとされる。
ところが、最終的には入札に参加したのは2社で、オリックス不動産の提示した価格は他の1社よりは高かったとのことだ。
自見議員の質問は、当初の27社の提示した価格のなかで、オリックスが最も高い価格を提示したのかどうかを質したものだが、日本郵政が詳細な情報を提示していないため、現段階では詳細な事実が不明である。
今回の一括譲渡を適正だと主張する立場の意見は、「入札が公明正大に行われた」ことをすべての大前提に置いている。ところが、この「価格競争入札」とされているものが、「価格競争入札」とは程遠い、不透明極まりない代物であったことが判明しつつある。
「雇用維持」などが、「低価格売却」を強行実施する「隠れ蓑(みの)」として利用されたとの推論は正しかったと考えられる。「出来レース」疑惑は拡大するばかりである。
2月1日付「しんぶん赤旗」は、109億円の譲渡価格が2007年10月の郵政民営化時に、日本郵政自身が明らかにした価格の3分の1であることを明らかにしている。
「狐と狸とカラスどもに怒りを」様が「おいしすぎるおまけつき・かんぽの宿とオリックス」と題する記事で、オリックスの昨年12月26日付プレスリリースを紹介された。
プレスリリースには、
「オリックスグループは、本事業譲渡を受け国内最大規模の温泉旅館ネットワーク(総室数4,200超、年間宿泊者数250万人超 ※オリックス不動産調べ)をリテール・運営事業の新たな柱と位置づけ、」
と記載されている。
一括譲渡を希望したのは「オリックス」サイドだったのではないかとの疑惑が浮上する。
また、同プレスリリースには、
「団塊の世代を中心に現在110 万人を超える「かんぽの宿メンバーズ会員」の皆さまに、新たなリテール商品・サービスの提供も可能です」
と記述されている。「かんぽの宿メンバーズ会員」名簿は、オリックス傘下の生命保険会社が注力している医療保険商品、生命保険商品販売の格好のターゲットにかかる個人情報であり、「巨大な宝の山」である。
また、同プレスリリースに、
「オリックス不動産㈱は、・・・温泉旅館・・・の再生事業に取り組んでいるほか、研修施設、水族館、ビジネスホテル、高齢者向け介護施設、京セラドームなどの施設運営を手掛けており」
と記載されている。「かんぽの宿」は老人福祉施設に転用することも有効な利用法である。オリックスにとっては、まさに「のどから手が出る」物件であると考えられる。
こうしたニーズを持つ事業者は多数存在すると考えられる。入札情報が広く告知されるなら、間違いなく多数の入札参加者が登場し、109億円よりははるかに高い価格で売却が出来たものと考えられる。
日本では、老人福祉施設の不足が極めて深刻になっている。定額給付金の2兆円を100億円で除すと、「「かんぽの宿」70施設(「ラフレさいたま」を含む)プラス首都圏9箇所の社宅」の施設を200セット購入することが出来ることがわかる。
入札経緯が明らかになるにつれて、オリックスへの109億円での一括譲渡が、公明正大なディールでないことが白日の下に明らかにされる可能性が高い。
「かんぽの宿」は簡易保険加入者に帰属させるべき物件であり、これが「かんぽ生命」から分離されていることも極めて重大な問題である。疑惑は深まるばかりだ。問題の完全な解明が絶対に必要である。