カテゴリー「金融政策」の32件の記事

2016年8月 9日 (火)

日銀量的金融緩和政策が孕む巨大損失リスク

財政法第5条の条文は以下のものである。


第五条 すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。


国債の日銀引受けは財政法によって禁止されている。


国債の日銀引受けが認められると、政府は無制限に財政を拡張できる。


財政の放漫化を招き、最終的に財政の破綻がもたらされ、国債の償還も不能になる。


中央銀行が過大な信用を供与すれば、激しいインフレを引き起こし、通貨価値が暴落する。


第2次大戦に際して政府は日銀引受けで国債を大量発行して軍費を調達し、戦後、激しいインフレを引き起こして通貨価値を暴落させた。


この教訓から戦後に定められた財政法において、国債の日銀引受けが法律によって禁止された。


中央銀行による財政ファイナンスは禁止されている。


しかし、いま、日本では実質的な財政ファイナンスが実行されている。


2014年10月31日に日銀は、


1.マネタリーベースの年間増加額が年間約80兆円に拡大する


2.そのための長期国債買入ペースを国債の保有残高が年間約80兆円増加するようにする


3.ETFとREITの保有残高が、それぞ年間約3兆円、約900億円増加するペースで購入する


ことを決めた。

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国の財政赤字、すなわち、国が発行する新規国債の発行額が40兆円を下回っているなかで、日本銀行が年間80兆円を上回るペースで国債保有残高を増やしている。


財政赤字の2倍の資金供給を日本銀行が行っているのである。


日銀が保有する国債残高は2015年末で288兆円に達し、総資産は400兆円を突破している。


そのGDP比は80%を超えて、大規模な量的緩和政策を実施してきたFRBの資産残高GDP比の3倍に達している。


このことは、二つの大きなリスクを内在している。


ひとつは、長期金利が何らかの要因で上昇する場合に、日銀資産の時価が暴落し、巨大損失を計上することである。


いまひとつは、こうした過大な資金供給が将来の激しいインフレをもたらす潜在的な原因になり得ることである。


2013年3月に黒田東彦氏が日銀総裁に起用されて以降、日銀は「異次元」の超金融緩和に突進してきた。


その背後には、この超金融緩和を推進する安倍政権が存在する。


1998年4月に施行された新・日本銀行法は、日銀の独立性を高める者であると期待されたものだが、日銀総裁、副総裁、および審議委員の人事権を握る政府が恣意的な人事を強行すると、日銀は完全に政治権力の支配下に置かれることになる。


米国の場合、FRB理事の任期は14年であり、大統領の2期8年でも、FRB理事をすべて恣意的に揃えることはできない。


日本の場合、総裁、副総裁、審議委員の任期が5年であるため、長期政権が登場し、その政権が恣意的な人事を強行すると、日本銀行は政治権力の


「機関銀行」


と化してしまう。


日本の中央銀行は、いま、歴史的な危機的局面に立たされている。

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長く日本銀行金融研究所長を務め、日本銀行理事、衆議院議員の経歴を有する、日本の金融経済論研究の第一線に立ち続けてきた鈴木淑夫氏が


『試練と挑戦の戦後金融経済史』(岩波書店)

https://goo.gl/B5Phne


を公刊された。


第Ⅰ部 発展期の日本経済と金融政策


第Ⅱ部 日本経済の挫折


第Ⅲ部 金融政策の新たな挑戦


の構成で、時系列で金融政策、金融経済史を総括的に記述、検証されている。


とりわけ、第Ⅲ部では、1999年以降の内外のゼロ金利政策、量的金融緩和政策、マイナス金利政策を詳細に分析、検証している。


そして、今後の政策運営の方向についても提言を示されている。


夏休みは、こうした「硬派」の本格的な専門書をじっくりと読み解く恰好のチャンスでもある。


詳細について、ある程度の専門性を要求する箇所もあるかも知れないが、現実の経済金融の歩みを正確なデータと正確な分析をちりばめて分かりやすく解説されている。


現実の金融経済変動を正確に読み抜いてゆくには、こうした骨太の研究書をベースに置くことが必要不可欠である。


経済金融を深く洞察したい人にとっての必読の書であると思う。

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2016年2月 6日 (土)

賞味期限3日日銀政策と安倍政権の下り坂

1月30日付ブログ記事およびメルマガ記事


「政治支配下日銀のマイナス金利政策賞味期限」


http://goo.gl/uBWJ6y


「黒田日銀のマイナス金利導入政策に関する考察」


http://foomii.com/00050


に、


「マイナス金利導入で、目先は局面の変化があり得るが、弥縫(びほう)策の域を出ない」


と記述した。


安倍政権が甘利明経済相の「政治とカネ」スキャンダルに伴う閣僚引責辞任で根幹が揺らぐなかで、安倍政権支配下に置かれている日銀が政治的に動いた。


安倍政権が起用した日銀政策決定会合のメンバーだけが賛成して、マイナス金利導入を決めた。


極めて筋の悪い政策決定である。


その政策決定による円安誘導・株高誘導の効果は3日しかもたなかった。


賞味期限3日の悲惨な政策決定になった。


1月30日記事に記述したように、事態を打開するには、安倍政権の経済政策路線の根幹を転換する必要がある。


第二次安倍政権は3年の時間を経過して長期政権となっているが、政権発足以来の「登り坂」はすでに終焉している。


昨年6月から8月が頂点で、すでに「下り坂」に転じている。


この「下り坂」がいつか「まさか」に転じることになる。

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振り返って見て、「登り坂」から「下り坂」への明確な転換点を形成したということになると思われるのは、


昨年9月19日の戦争法制=安保法制の強行制定ということになるだろう。


日経平均株価は政権発足の事実上の起点である衆院解散決定の2012年11月14日が8664円。


これが、2015年6月24日に20868円、8月10日に20808円を記録した。


ドル円レートは、政権発足時点が1ドル=78円で、これが2015年6月に1ドル=125年台をつけた。


政権の「登り坂」は、


ドル円が1ドル=78円から1ドル=125円へとドル高に推移し、


日経平均株価が8664円から20868円に上昇した時期と重なることになる。


このドル円と日経平均株価が、昨年6月から8月を境に方向を変えた。


ドル円は1ドル=115円へ、日経平均株価は16000円に反落している。


政権運営の暴走が頂点に達したのが昨年9月19日である。


憲法の内容を憲法改定によらず、憲法解釈の変更によって変えてしまうという、「立憲主義の否定」=「憲法の破壊」に突き進んだのである。

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2月5日、米国の1月雇用統計が発表された。


非農業部門の雇用者増加数は15.1万人にとどまった。


巡航速度での経済成長が維持されている際の雇用者増加数を20万人と考えると、米国経済も減速傾向を強めつつあることが改めて確認された。


1月29日に発表された米国の2015年10‐12月期GDP成長率は年率0.7%となり、7-9月期の2.0%から急減速した。


米国では昨年12月に、ついに利上げに着手されたが、このころから景気の減速が鮮明になり始めているのである。


『金利・為替・株価特報』


http://www.uekusa-tri.co.jp/report/index.html


では、昨年6月以降、ドル円でのさらなる円安進行の可能性が低いことを指摘してきた。


そして、他通貨に対する日本円の変動を見る限り、


「もはや円安ではない」


状況に移行していることを指摘してきた。


安倍政権の政権発足後の「登り坂」は、円安と共に存在したのである。


その円安の一部は、安倍政権が推進した金融緩和によっても促されたものであるが、主因は米国の金利上昇にあった。


米国金利上昇によるドル高=円安という「波」に上手く乗ることができたことが、安倍政権の「登り坂」を支えたのであるが、ドル円は購買力平価をはるかに超えて円安に振れた。


陽極まれば陰に転ず、


そして、


陰極まれば陽に転ず


のが世の常である。


為替の基調は「円安」から「円高」に転換している。


このことを明確に認識して経済政策を運営しなければ、日本経済の健全な運営は不可能である。


たそがれのアベノミクス。


根本を変えなければ「下り坂」は止まらない。


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2016年1月30日 (土)

政治支配下日銀のマイナス金利政策賞味期限

日銀がマイナス金利採用に踏み切った。


日銀は1月28、29日に金融政策決定会合を開き、マイナス金利採用を決定した。


しかし、採決では賛成5、反対4ということになった。


賛成したのは


黒田総裁、岩田副総裁、曽根副総裁


と審議委員の


原田泰氏


布野幸利氏


である。


原田泰氏が審議委員に就任したのは2015年3月、


布野幸利氏が審議委員に就任したのは2015年7月だ。


原田泰氏は経済企画庁のOB、布野氏はトヨタ自動車の副社長経験者である。


日銀の政策決定会合の議決権を有する参加者は9名である。


5名を押さえると政策決定できる。


原田泰氏は宮尾龍三氏の後任、布野氏は森本宜久氏の後任である。


2014年10月31日の追加金融緩和策決定においては、森本氏は反対票を投じた。

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何を言っているのというと、安倍政権は安倍政権の意向に沿う金融政策を遂行するために、日銀政策決定会合の9名の議決権者のうち、5名を支配下に置いているということである。


金融緩和推進=インフレ誘導


は可能であり、これを実行するべきだと主張する人々が、


リフレ派


と呼ばれる。


安倍政権は国会同意人事を通じて、第二次安倍政権発足後に起用した5名の総裁、副総裁、審議委員のすべてをリフレ派に染め抜いたのである。


したがって、安倍政権が指示すれば、日銀は安倍政権の指示通りに動く。


これは、政治権力による中央銀行の支配であり、極めて不健全なことである。


権力を握る内閣総理大臣が、中央銀行幹部人事では、中央銀行の独立性を尊重することが必要だが、このような正論は、安倍晋三氏には通用しない。


安倍政権の支配下に日銀を置いているのだ。


2015年7月に、布野氏が審議委員に起用されて以降は、日銀の政策決定会合は基本的に極めて意味の薄いものになっている。


政治権力の意向で金融政策が決定されるからである。


今回は、マイナス金利導入を決めた。


市場には驚きが生じ、日経平均株価は476円上昇し、ドル円レートは1ドル=121円台にまで円安回帰した。

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『金利・為替・株価特報』2016年2月1日号


http://www.uekusa-tri.co.jp/report/index.html


は、1月29日の印刷・発送で、この号には日銀によるマイナス金利導入についての考察を盛り込めていない。


そのフォローアップを含めて、本記述を提示している。


金利低下でメリットを受けるセクターを中心に株価が上昇したが、金融政策の効果波及メカニズムから考えると、効果は未知数である。


この問題は、そもそも、インフレ誘導が可能であるのかどうかなどという問題と深く関わるものである。


リフレ派と呼ばれる人々は、


「量的金融緩和でインフレ誘導は可能である」


と主張してきたが、第二次安倍政権発足からの3年間の現実は、この主張を否定した。


量的金融緩和は大規模に実施されたが、インフレ誘導は成功しなかった。


短期金融市場残高が増大しても、マネーストックが増大せず、インフレが実現しなかった、と要約してもいいだろう。


そこで、日銀は、今度は短期金融市場残高=ベースマネーではなく、金利そのものを引下げることを打ち出した。


金利効果に着目したということになる。


しかし、市中の金融機関が日銀に預ける準備預金に対して、「利子を払う」のではなく、「手数料を取る」ということになると、市中銀行は、日銀預け金をできるだけ圧縮しようと努めることになるだろう。


この行動は量的金融緩和拡大政策と根本的に矛盾を来すことになる。


サプライズ効果で市場は反応しているが、その効果が持続するかどうか、慎重な見極めが必要である。


つまり、金融政策全体がかなり手詰まりな状況になっているというのが現状なのである。


結論から言えば、事態を立て直すには、財政政策の方針転換が不可欠である。


円高傾向に回帰している為替市場動向を踏まえると、財政政策を超緊縮から、少なくとも中立に回帰させることが必要不可欠であろう。

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2014年8月28日 (木)

黒田氏の日銀総裁起用が間違いだったわけ

日銀総裁に黒田東彦氏を起用した人事は失敗であったと考える。


その理由は、黒田氏が中央銀行としての日本銀行の立場、職責、使命感に基いて行動しているのではなく、出身母体である財務省の利害、財務省の立場に立って行動していると見られるからである。


米国ワイオミング州のジャクソンホールで開催されたシンポジウム。


米国金融政策関係者の夏の恒例行事である。


避暑と観光を兼ねての下記研修である。


誰でも夏にこのような風光明媚な場所でくつろぎたいと考えるようなところだ。


黒田氏は昨年に引き続いて今年もこのシンポに参加した。


そこで述べたのは、日本経済が7-9月期から回復するという見解だった。


黒田氏によると、輸出が伸びて成長率が回復するのだそうだ。


時事通信社が発表したシンクタンク11社の2014年度日本経済成長率平均値は実質で0.5%である。


これに対して、日銀は1.0%成長を予想している。


1%成長も景気堅調と言える数値ではない。


しかし、民間予測は軒並み下方修正されて0.5%に引き下げられた。


8月13日に発表された4-6月期GDP統計を見れば、日本経済の現状先行きに対して警戒論が浮上するのは当然のことだ。


ところが、黒田氏は景気強気論をぶち上げている。

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黒田氏の最重要関心事項は2015年度増税である。


安倍政権は11月17日に発表される本年7-9月期のGDP統計を見て増税を判断するとしている。


本年度の増税実施の判断は、昨年8月発表の昨年4-6月期GDPを見て決めるとされた。


去年は4-6月期統計を見て決定し、今年は7-9月期統計を見て決めるとの違いが出ているのは、財務省が増税決定に都合の良い数字を選んで使っているだけのことに過ぎない。


昨年は円安・株高・補正予算の影響で4-6月のGDP成長率が高く出るように仕組まれた。


本年は消費税増税の影響で4-6月期が大幅に落ち込むのに対して、7-9月期には反動でプラス数値が記録されると予想されている。


増税に日本経済が耐えられるのかどうかを吟味検討するのではない。


増税を強行するために、都合の良い数値を選別して利用しているだけなのだ。

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4-6月期のGDP統計を精査し、現在の日本経済の状況を、虚心坦懐に、冷静に見つめるならば、黒田東彦氏がジャクソンホールで述べたような、能天気な日本経済見通しは示し得ないはずである。


かつて日銀の経済分析能力は高かった。


日銀による政策判断ミスは過去に何度か散見されるが、経済分析については、基本的に手堅い、隙のない対応が示されてきた。


ところが、黒田氏の発言は根拠に乏しい。


輸出が牽引して日本経済が回復すると主張するが、実は円安進行下でも日本の輸出は大幅拡大を示していない。


製造業の行動様式が構造変化している。


製造業は二つの理由で生産の海外移転を推進している。


一つは生産コストの問題だ。


ドルベースでの人件費コストにおいて、日本での生産は有利ではなくなっている。


製造業の特徴は生産物を運搬できる点にある。


運搬できるなら、グローバルに生産コストの低い立地が選ばれるだろう。


製造業の拠点は、このために、時間の経過とともに構造変化する。


日本の製造業が躍進したのは、日本のドルベース人件費コストがグローバルな基準で低かったからである。


この比較優位が消滅して、現時点では、エマージング市場がその比較優位を確保している。


製造業生産拠点の海外シフトは、今後も継続する可能性が高いのだ。


二つめに、企業が為替リスクを回避する意向を強めていることだ。


企業が為替レートを操作することはできない。


そして、為替市場では、時に、思いもよらぬ大変動が生じる。


日本で生産して輸出するというビジネスモデルは、企業が巨大な為替リスクを負うことを意味する。


プラスに出ることもあるがマイナスに出ることもある。このような攪乱要因を除去するには、海外需要を満たす生産活動は海外で行うことが合理的になる。


2015年を展望して、海外経済が力強く成長率を切り上げるとの見通しは成り立たない。


したがって、輸出が伸びて日本経済が力強く回復する可能性は高いとは言えない。

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黒田氏が公約に掲げているインフレ率2%も実現しない可能性が高い。


これまでインフレ率が上昇した最大の要因は、円安進行であるが、円ドルレートは昨年5月以降、円安に振れていない。


中央銀行総裁である黒田氏が、中央銀行マンとして、公正な経済分析を示さず、財務省の増税路線を支援することだけを考えて行動するなら、日銀の信頼はこれから大きく毀損されてゆくことになる。

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2014年8月25日 (月)

FRBイエレン議長が示唆する金融市場の落とし穴

金融市場関係者が強い関心をもって臨んだイエレンFRB議長の講演が8月22日に行われた。


米国経済の見方について、これほど見解が割れていることは珍しい。


失業率が6.5%を大幅に下回っているから、従来の尺度で考えれば、FRBは金融引締め政策に着手してもおかしくない状況である。


イエレンFRB議長の前任者であるバーナンキ前議長は昨年5月に、量的金融緩和政策を縮小する方針を示唆して、金融市場を震撼させた。


バーナンキ議長の当時の発言の流れからすると、現在の状況では、すでにFRBによる金利引上げ措置が実行されていてもおかしくはないものと推察される。


本年2月にバーナンキ氏からイエレン氏にFRB議長のバトンが引き継がれたが、FRB議長の交代に前後してFRBの金融引締め措置が始動するのではないかとの憶測さえ持たれていたのである。


ところが、現実には、金融引締めが実行されるタイミングは、本年中はおろか、2015年後半にまでずれ込むとの見方が広がっているのである。


たしかに、物価統計や雇用統計、あるいは賃金関連統計は、米国のインフレ懸念を煽り立てるものにはなっていないから、FRBによる金融緩和政策の維持は説明のつくものにはなっている。


とはいえ、失業率がリーマンショック後のサブプライム金融危機不況で10%水準にまで上昇したことを想い起こせば、まさに隔世の感がある。


この状況下で、金融引締め観測が広がっていない、最大の要因は、イエレンFRB議長の言動にあると言えるのだ。

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イエレン氏が強いリーダーシップを発揮して、金融市場の多数派意見が形成されている。


FRB議長の言動がまったく違ったものであったら、金融市場には利上げ観測が蔓延して、大きな波乱がすでに生まれていた可能性もある。


この意味で、イエレン氏の指導力は極めて強力であると評価できるのである。


ただし、その功罪を評価するには早すぎる。


中央銀行家の業績評価には時間がかかる。


短期的に不評を買う中央銀行家が優れた業績を後に与えられることは決して少なくない。


逆に、短期的には金融市場から賞賛を浴びながら、中長期で厳しい批判の対象にされてしまう中央銀行家も少なからず存在してきた。

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中央銀行家のなかには、実は、現状でも、FRBの金融政策対応がインフレに対して寛容すぎると批判する者が存在する。


FRBによる金利引上げ措置は2015年初に行われるべきであると公言している中央銀行家が存在するのだ。


このなかで、イエレン氏が講演でどう発言するか。市場は固唾を飲んで見守ったのである。


しかし、結果は、事前の大方保予想通りであった。


事前の予想とは、基本的に金融緩和政策の維持を印象付けるものであることと、しかしながら同時に、いつどのように行動するのかについて「言質(げんち)」を取られぬ発言を示すこと、の二つだった。


イエレン氏の講演内容は、まさに、この二つの予測に沿うものだった。

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イエレン氏が強調し続けてきたことは、米国の労働市場が、失業率の水準が示すほどには逼迫していないこと。


インフレの兆候は基本的に確認できないことである。


FRB議長がこれほどまでに強く、労働市場の「緩み」を強調してこなかったなら、金融市場はとっくの昔に金利引上げ警戒モードに移行していただろう。


しかし、FRB議長がことさらに、労働市場の緩みとインフレ警戒の必要性の低さを強調し続けてきたために、金融市場は、この「イエレン説」に基本的には染め抜かれてきたのである。


昨年後半から年末にかけて3%水準に達した米国10年国債利回りは、本年入り後に再低下した。


直近では2.4%水準にまで低下したのである。


イエレン議長は、労働市場の弱さとともに、住宅市場の基調の弱さも強調する。


ところが、実際に住宅価格指数統計などを見ると、住宅価格が再下落に転じているとの確かな実績を確認することができない。


ひょとすると、金融市場はイエレンマジックにかかってしまっているのかも知れない。その真偽は、もう少し時間が経たないと判明しない。

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ただ、ひとつの仮説として浮上することがらがある。


それは、イエレン氏が、米国長期金利の大幅上昇を極度に恐れているのではないかということである。


極度に恐れるということは、極度に恐れなければならない、何か特別な事情が存在するのではないかということである。


この点について、イエレン氏は何も明かさない。


しかし、議会証言の質疑応答などにおいて、その片鱗を垣間見せることがある。


米国金融市場には、あまり公言できない「何か」が潜んでいる可能性があるのだ。


その「何か」を見抜く洞察力が求められている。

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2014年4月14日 (月)

4月末に見込まれる日銀追加緩和効果は一時的

安倍政権が発足して間もなく1年半の時間が経過するが、安倍首相がアピールするほど日本経済は改善していない。


2007年に安倍首相が総理の職を放り出して以来、内閣総理大臣の交代は年中行事と化してきた。


毎年首相が交代してきたのだ。


それが、2007年以降では初めて、2013年は首相交代のない年になった。


最大の背景はねじれの解消である。


安倍晋三自民党は2013年7月の参院選で勝利した。


これによって、衆参ねじれが解消したのである。


2006年に民主党が解党の危機に直面して、小沢一郎氏が民主党代表に就任した。ここから民主党の大躍進が始まり、自民党支配の政治にくさびが打ち込まれた。


小沢氏が率いる民主党が2007年7月参院選に勝利して、参院で与野党逆転が生じた。


そして、小沢-鳩山民主党は、既得権益の激しい攻撃を跳ね除けて、ついに2009年8月総選挙に勝利し、政権交代を実現させた。


この小沢-鳩山政権が2010年7月参院選に勝利していれば、小沢-鳩山政権の下でねじれが解消し、日本は名実ともに新しい時代に突入したはずである。


逆に言えば、日本の既得権益勢力は、その実現だけは何としても阻止しなければならなかったのである。


彼らは目的のためには手段を選ばぬ行動を取り、小沢ー鳩山政権は卑劣な猛攻撃を受けて政権転覆に直面し、クーデター政権である菅直人政権が2010年7月参院選に大敗して、日本政治刷新の機会が失われたのである。

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こうして、安倍晋三氏が首相だった2007年に自民党が参院選に大敗して発生して生まれたねじれ現象が、6年間にわたって持続してきた。


ねじれの下では、参院で与党が追及を受けると政治が停滞する。


政権は追い込まれ、退陣に追い込まれる。


2007年の安倍首相退陣以来、2012年の野田首相退陣まで、実に6人の首相が毎年退陣に追い込まれてきた。


日本の既得権益勢力は小沢-鳩山政権による安定政権樹立を阻止したうえで、状況の大転覆を画策した。

民主党の中の既得権勢力に寝返った勢力に政治権力を奪わせ、この傀儡政権に消費税大増税の汚れ仕事を押し付け、その消費税大増税によって、政権を再び自民党側に奉還させたのである。


そして、メディア情報を操作することによって、2013年7月参院選でも安倍自民党の勝利を誘導し、状況を大転覆させての「ねじれ解消」を強引に誘導したわけである。

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2013年7月参院選に際して、メディアは「ねじれの解消」を前面に掲げた。


ねじれさえ解消してしまえば、政権が何を行おうが、厚顔無恥に政権に居座れば、長期政権を実現できる。


振り返ってみれば、小泉政権も失策続きの政権であったが、国会がねじれていなかったために長期間、政権を維持できたのである。


私が昨年7月に『アベノリスク』(講談社)を上梓したのは、この点への警戒感に基づくものだった。


参院選で安倍晋三自民党が勝利すると、ねじれが解消し、安倍政権が日本の重大問題を独断専行で決定してしまい、主権者である国民がその決定に口をさしはさめぬ状況が生じる。この現実を警戒したのである。


残念ながら、この懸念が現実のものになった。


安倍政権の政権運営は極めて多くの問題を有しているが、与党が衆参両院を支配してしまっているために、すべてのものごとが、ごり押しで通されてしまう状況が生まれている。


公明党が自民党にブレーキを掛けるそぶりを示すが、本当のところは疑わしい。


自民党元参議院議員会長の村上正邦氏は、著書

『だから政治家は嫌われる』(小学館)


で、公明党の政権批判は「やらせ」であると指摘している。


安倍政権の政権運営に対する世間の批判を和らげるために、公明党が「やらせ」で安倍政権の暴走をけん制する「ふり」を示しているだけなのではないか、と指摘する。


公明党は与党でいることに価値を置いていると見られ、結局は「下駄の雪」のように、自民党に追従してゆくことになるのではないだろうか

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安倍政権がいまも飛行を続けている原動力は、政権発足後の半年に実現した株高である。


これをメディアが絶賛し、その「慣性力」で安倍政権はいまも飛行を続けている。


しかし、薄っぺらなメッキは剥がれ、アベノリスクの醜悪な現実が姿を現し始めた。


労働者の所得は増えず、物価は上がり、ここに消費税の巨大な負担増が乗せられる。


頼みの綱の株価上昇も、年初来、株価下落に転じている。


安倍首相は4月中に日銀総裁と会談すると報じられているが、4月30日に予定されている日銀の政策決定会合で追加金融緩和政策を打ち出すための「出来レース」である。


この会談を受けて日銀が追加金融緩和政策を決定し、安倍首相の指導力を演出しようというわけだ。


瞬間的には市場が反応するだろうが、大きな効果を期待できない。


安倍政権の政策失敗は徐々に明らかにされてゆくが、国会がねじれていないと、政治のねじれが解消されない。


私たちは「ねじれの効用」を見直すべきである。

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2013年10月 9日 (水)

イエレン氏が次期FRB議長に指名される見通し

いまから2ヵ月前、8月4日付の本ブログ記事


「金融市場を読み解く鍵は米経済とFRB議長人事」


http://goo.gl/cFCHr7


同日付メルマガ第630号記事


「イエレン副議長が次期FRB議長最適任者」


http://foomii.com/00050


に次のように記述した。


「FRBのバーナンキ議長は来年辞任すると見られている。


その後任に誰が就任するか。


ローレンス・サマーズ氏とジャネット・イエレン氏の二人の人物が有力候補として浮上している。


私は、イエレン氏の議長就任が望ましいと思うし、そうなると予想している。」


当時の金融市場では、次期FRB議長に就任するのは、ローレンス・サマーズ元財務長官であるとの予測が支配的であった。


日本経済新聞などは、9月14日付朝刊の一面に


「FRB議長サマーズ氏」


の見出しを掲載して、サマーズ氏が次期FRB議長に選任されるとの見通しを記述した。


ところが、オバマ大統領は、次期FRB議長に、現FRB副議長のジャネット・イエレン氏を指名することになる見込みである。


予測を外した報道機関はこのニュースを大きく取り扱わないが、結局、もっとも適正なところに着地点が見出されることになる。

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私は、次期FRB議長にサマーズ氏ではなくイエレン氏が指名されるべきであるし、また、そうなるであろうとの予測を記述した上記のメルマガ記事のなかで、次のように記述した。


「ウォール・ストリート・ジャーナル紙に、プリンストン大学教授で元FRB副議長のアラン・ブラインダー氏が、「イエレン氏がFRB議長の最適任者」と題するオピニオンを寄稿した。


http://goo.gl/O6VKMi


私は、ローレンス・サマーズ氏、ジャネット・イエレン氏、アラン・ブラインダー氏の3名全員に面識がある。


とりわけ、ブラインダー氏には、以前は年に数回、定例でプリンストン大学を訪問してきた。


イエレン氏は、同氏がクリントン政権下で経済諮問委員会(CEA)委員長を務めていた際、クリントン大統領の訪日の際に、東京で日本のエコノミスト数名と意見交換会をした際に会談した。


サマーズ氏は、同氏が初来日した際、私がアテンド役を命じられた。


知名度ではサマーズ氏が上回っているが、FRB議長に適任であるのは、イエレン氏であると私は判断する。


ブラインダー氏も同じ判断を示している。

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FRB議長は極めて重要な職責である。


米国経済に影響を与えるだけでなく、世界経済、世界金融に影響を与える、世界でもっとも大事な人事であると言って過言でない。


バーナンキ議長の前任者であるアラン・グリーンスパン氏は、「マエストロ」と評されたが、やはり、極めて有能な中央銀行トップであった。


FRB議長に必要な資質とは何か。


それは三つあると私は判断する。


第一は、経済・金融情勢を正しく洞察する鑑識眼


第二は、経済金融情勢判断に基づいて正しい政策対応を判断できる政策対応能力


第三は、その判断をFRB内部でまとめ、議会を納得させ、国民に理解させる調整能力と説明能力


この三つを備えることが、FRB議長に求められている資質である。


グリーンスパン氏とバーナンキ氏は、この三つの基準を満たす稀有の人材である。


ブラインダー氏もこの三つを兼ね備えている稀有の人材である。


しかし、ブラインダー氏の場合は、この上に求められる「政治的駆け引き」の技量を発揮しなかった。能力の問題というよりは、意志の問題であると思う。


ブラインダー氏は、政治的駆け引きまで駆使してFRB議長になろうと思わなかったのだと思われる。


しかし、資質としてはFRB議長にふさわしいものを有していると私は判断する。

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金融市場では、イエレン氏がインフレに対するハト派であるとの情報操作が行われているが、これは間違っている。


その誤りをブラインダー氏が的確に指摘し、そのうえで、次期FRB議長にふさわしいのは、イエレン氏であると唱えているのである。


ブラインダー氏は、三つの重要な歴史事実を摘示する。


第一は、1996年の事例である。FRBは1996年、金融政策を引き締めから引締め緩和へと、たくみにかじ取りし、「完璧なソフトランディング」へと導く手助けをした際に、イエレン氏が極めて重要な役割を果たしたことだ。


FRBは94-95年にかけてインフレの危険性を回避するために大幅な引き締め策を取り、その後、緩和策に転じて経済を完全雇用という「滑走路」に穏やかに「着陸」させた。


ブラインダー氏は、FRBのこの離れ業は当時のアラン・グリーンスパン議長の手腕によるところが大きいとしながら、イエレン氏の有意義な脇役ぶりを正当に評価する。


ブラインダー氏によると、当時の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録に、イエレン氏が同僚たちに引き締め過ぎることがないよう促していた事実が記載されている。

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第二は、サンフランシスコ連銀総裁を務めていた時代である2005年の時点で、「不動産市場というタイタニック号が氷山に向かって突き進んでいる」と警告していた事実だ。


米国のサブプライム金融危機が火を噴くのは2007年後半以降のことだ。2007年から2009年の大混乱は、グリーンスパン氏が「100年に一度の金融津波」と表現した、歴史的大混乱である。


NYダウが史上最高値を記録したのが2007年10月であるから、イエレン氏の警告が、まさに稀有のものであったことがよく分かる。


イエレン氏は銀行の安易な融資姿勢に警鐘を鳴らし、FRB理事会の甘い対応にも明確な不満を示していた。


イエレン氏は銀行セクターに対しても厳しい姿勢で臨むことが予想され、このことから、ウォール・ストリートがイエレン氏を攻撃する情報を意図的に流布しているのである。


サマーズ氏はウォール・ストリート金融機関の顧問職を引き受けてきており、ウォール・ストリートとの癒着関係が、FRB議長就任への障害になるとの見方も浮上している。


ブラインダー氏の指摘は、暗にサマーズ氏が不適任であることを示すものであるとも思われる。

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第三は、2007年夏に金融危機がヒートアップし始めた際、この問題が深刻なリセッション(景気後退)を招く可能性があることに最初に気付いたメンバーの一人がイエレン氏であったことだ。


2007年8月7日のFOMC後の声明が、「インフレが抑制されない危険がFOMCのもっぱらの懸念である」とした際、イエレン氏は次のように反論していた。


「それではまるで、(景気の)大きな下振れリスクは認識しているが気にすることはない、今後ももっぱらインフレを注視していればいい、と言っているようなものだ。これには私は納得できない」


この発言が、のちに公表されたFOMC議事録に記載されていることをブラインダー氏が指摘するが、イエレン氏は、FRBの金融緩和の遅れにも的確に警鐘を鳴らしていたのである。

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この三番目の事例から、イエレン氏には「ハト派」のレッテルが貼られることになったとブラインダー氏は指摘する。


しかし、上記の三事例を見れば、イエレン氏が金融緩和に偏りを持った、いわゆる「ハト派」の人物でないことは一目瞭然である。


サブプライム金融危機の原因になった、2000年代前半の金融緩和の行き過ぎに対しても、誰よりも早く警鐘を鳴らしていたのがイエレン氏なのである。

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ウォール・ストリートは、金融機関との「関係」が深いサマーズ氏のFRB議長就任を求めるだろうが、FRB議長への最適任者はイエレン氏である。


ブラインダー氏は、FRB議長に求められる何よりも重大な職責は、百家争鳴、唯我独尊のメンバーが参集するFOMCをまとめ上げるためには、


「知性、外交的手腕、説得力を絶妙に併せ持っていることに加え、相手を不快にさせることなく反論できる能力」


が必要であり、これらのすべてを本質的に兼ね備えているのがイエレン氏であると指摘する。


オバマ大統領に決定権があり、オバマ大統領が賢明な判断力を有するなら、オバマ大統領は必ずイエレン氏を次期FRB議長に起用するはずである。」


この予測が適正であったことが、間もなく示されるだろう。

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2013年9月19日 (木)

FRBの金融緩和政策縮小先送りをどう読むか

9月7-18日に開かれたFOMC=米国FRB公開市場委員会で、FRBは量的金融緩和措置の縮小決定を先送りした。


事前の市場では縮小決定会合を見込む見通しが優勢であったが、FRBは慎重な姿勢を示した。


9月6日に発表された8月雇用統計で示された非農業部門雇用者数は前月比16万9000人増で市場予想より小幅な伸びにとどまった。


失業率は7.4%から7.3%に低下し、2008年12月以来4年半ぶりの低水準となったが、失業率低下は失業者の減少ではなく労働参加率の低下を反映したものだった。


失業率は働く意思を示す人の中で実際に失業している人の比率を示す。


景気が悪く仕事を求めても仕事を得られないと諦めてしまうと、人は仕事を求める求職の状況からさえ撤退してしまう。


労働参加率の低下とは、求職を諦めて労働市場に参加する意思を取り下げてしまった人が多いことを示している。


失業率は労働市場に参加意思を示している人の中で失業している人の比率を表示するものなので、景気が悪く、労働市場参加率が低下する局面でも失業率が低下することがある。


しかし、この時の失業率低下は景気改善を示す指標にはならない。


雇用者数の増加は事前の市場予想値をわずかに下回るものであった。


このために、9月のFOMCでFRBが金融緩和縮小を決定するかどうかは、見方が交錯していたのである。

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今回のFRBの決定の背景として、もうひとつの要因を指摘できる。


次期FRB議長人事の影響だ。


金融市場では、次期FRB議長にローレンス・サマーズ氏が指名されるとの見方が有力だった。


日本経済新聞などは、1面でサマーズ氏がFRB議長に指名されるとの見通し記事まで掲載してしまった。


ところが、その後、サマーズ氏がオバマ大統領にFRB議長候補から降りるとの意思を伝えたことが報じられた。


表向きはサマーズ氏の議長候補からの辞退であるが、内実は、オバマ政権によるサマーズ氏指名断念ということだった。


サマーズ氏のFRB議長就任に対する反対意見が、実は、きわめて根強かった。


私も、サマーズ氏のFRB議長就任に反対の見解を本ブログ、メルマガ、会員制レポートなどに執筆してきた。


同時に、多数派の見解ではないが、最終的にイエレン氏がFRB議長に就任することになる可能性が高いとの予測も示してきた。


最大の理由は、FRB議長に求められる最重要の資質の一つに、FRB内部、FOMC参加メンバーの考えを統一できる説得能力、根回し能力が存在するということだった。


この点において、イエレン氏はサマーズ氏をはるかに上回っている。


私はサマーズ氏とイエレン氏の両氏に面識があるが、私の印象としても、この点は重要であると判断した。


表にはあまり出ないが、今回の一連の動きの中で、アラン・ブラインダー教授の果たした役割も大きい。


ブラインダー氏は、かつて、次期FRB議長候補としてFRB副議長に就任した経歴を持つ人物である。


このブラインダー氏が自身のFRB内部での経験をも踏まえて、サマーズ氏よりもイエレン氏が適任であることを広く」訴えてきたのである。


オバマ氏は次期FRB議長に誰を指名するかをまだ公表していないが、イエレン現FRB副議長は依然として有力候補の一人である。

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9月6日発表の8月米雇用統計で、失業率は0.1%ポイント低下して7.3%になったが、非農業部門の雇用者数は市場予想値を下回り、また、

6、7月分の非農業部門雇用者数も当初発表から合計で7万4000人下方修正された。


8月の雇用統計は米経済が7月以降、景気回復の勢いを取り戻せずにいる可能性を示唆するものになった。


バーナンキ議長は本年5月以降、量的金融緩和政策を縮小する方針を明示してきているが、バーナンキ議長自身が来年1月末のFRB議長の任期満了をもってFRB議長職を辞任する意向を明確にしているから、次期FRB議長に円滑に業務を引き継ぐことの重要性を強く認識している。


二人の有力候補であったサマーズ氏とイエレン氏を比較した場合、量的金融緩和策縮小に、より積極的であるとみられてきたのがサマーズ氏である。


イエレン氏の場合、量的金融緩和縮小措置をより慎重に実施すると見られている。


このなかで、今回のFOMC直前にFRB議長候補からサマーズ氏が脱落したことは、FRBにより広範な自由度が与えられたことを意味する。


来年1月末のFRB議長交代までに、拙速に金融緩和縮小を進めなくてもよい状況が生まれたのである。


しかしながら、これらの事情は、イエレン氏がインフレ抑制に後ろ向きであることを意味しない。ブラインダー教授が指摘してきたように、イエレン氏はすでに2005年の段階で、その後のサブプライム金融危機につながる金融機関による野放図な融資拡張に警告を鳴らしていたのである。


イエレン氏の姿勢は、「インフレに甘い」という、対インフレハト派というものではなく、それぞれの状況に応じて、適時適切に対応するというものだと理解すべきである。


FRB議長人事を取り巻く環境変化、FRBのより慎重な金融緩和縮小姿勢は、米国経済の成長持続にとってはプラスに作用すると判断しておくべきと思われる。

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2013年9月16日 (月)

日経新聞がFRB議長人事予測記事で大誤報か

8月4日付の本ブログ記事


「金融市場を読み解く鍵は米経済とFRB議長人事」


http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2013/08/post-4bcb.html


ならびにメルマガ第630号記事


「イエレン副議長が次期FRB議長最適任者」


http://foomii.com/00050


に、FRB議長人事について既述した。


私は次期FRB議長にはローレンス・サマーズ氏よりもジャネット・イエレン氏が適任であり、最終的にそう決定される可能性が高いと記述した。


金融市場では、サマーズ氏のFRB議長就任の可能性が高いとしてきた。


9月14日付の日本経済新聞は1面で、


「FRB議長サマーズ氏」


の見出しでサマーズ氏がFRB議長に選任されるとの見通しを記述した。


ところが、その直後に、サマーズ氏自身がFRB議長候補から辞退する意向をオバマ大統領に電話で伝えたことが報じられた。


経済を専門とする日本経済新聞の事実上の「誤報」が明瞭になりつつある。


FRB議長について、正確な情報を提供することは、経済専門誌を標榜する日本経済新聞のレゾンデートル=存在意義である。


そのFRB議長人事報道で「誤報」を流してしまうことは、日本経済新聞にとっては致命的な失態である。


責任者の更迭は免れないだろう。

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日本経済新聞は国内の金融関連報道などでスクープを記録することがあるが、これらのほとんどは、インサイダー的な情報の入手によるものである。


金融関係の閣僚などと癒着してインサイダー的な情報を入手してこれをスクープ記事としてきたことが多い。


公務員の守秘義務違反、公務員の収賄事案と背中合わせの不正な情報のやり取りがこうしたスクープ報道の裏側に存在する。


米国の場合にはこのようなインサイダー的な情報の入手が困難であると考えられるから、本来の取材力が問われるが、そうなると、今回のような誤報を流してしまうというのが、日本経済新聞の実力なのだろう。

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オバマ大統領は声明を発表し、サマーズ氏の決断を受け入れたことを明らかにしたと報じられている。


サマーズ氏はハーバード大学長時代に、女性蔑視発言により学長辞任に追い込まれた。


また、ウォール・ストリート金融機関との深すぎる関係も批判の対象とされてきた。


FRB元副議長を務めたプリンストン大学のアラン・ブラインダー教授は、サマーズ氏ではなくイエレン氏のFRB議長が望ましいことを訴えてきた。


私はかつてブラインダー氏と頻繁に接触していた。


また、サマーズ氏、イエレン氏の両氏にも面識がある。


8月4日付記事に記述したように、私もブラインダー氏と同様に、次期FRB議長にはイエレン氏の就任が望ましいことを主張してきた。


FRB議長に求められる資質と各候補者の持つ資質を比較検討する場合、イエレン氏がFRB議長に就任することがもっとも適切であると私は判断する。

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サマーズ氏がFRB議長候補であることを辞退したが、オバマ大統領が誰を次期FRB議長に指名するかは、現段階で明らかでない。


しかし、依然としてイエレン氏は有力なFRB議長候補の一人である。


私が提示するFRB議長に必要な資質は次の三つである。


第一は、経済・金融情勢を正しく洞察する鑑識眼


第二は、経済金融情勢判断に基づいて正しい政策対応を判断できる政策対応能力


第三は、その判断をFRB内部でまとめ、議会を納得させ、国民に理解させる調整能力と説明能力


この三つを備えることが、FRB議長に求められる資質である。


幸いなことに、グリーンスパン氏とバーナンキ氏は、この三つの基準を満たす稀有の人材であった。


かつてFRB副議長を務めたブラインダー氏もこの三つを兼ね備えている稀有の人材である。


ブラインダー氏はFRB議長就任を目指したが、FRB議長に就任するための政治的な駆け引きを実行しなかった。そのためにブラインダー氏はFRB議長に就任することなくFRB副議長を退任した。


FRB議長に就任するには、この意味での「意志」も必要になる。

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サマーズ氏がFRB議長候補であることを辞退したことは、オバマ政権にとって幸いすると思われる。


オバマ氏が誰をFRB議長に指名するか、現段階では明確でないが、サマーズ氏の事態により、イエレン氏がFRB議長に指名される可能性は高まった。それでも、コーン前FRB副議長が指名される可能性は残っている。


現段階で確実な状況ではないが、結果として、イエレン氏がFRB議長に就任することになれば、これが、オバマ政権にとっての最善の選択になる。


FRB内部をまとめて、最適な金融政策運営を実現することが最重要の課題であり、この課題に鑑みれば、イエレン氏をFRB議長に指名することが最適であると考えられるからである。

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2013年5月14日 (火)

麻生氏が軽視するほど甘くはない長期金利の上昇

金融市場の変動というものは、基本的に循環的なものである。


円高があり円安がある。


株安があり株高がある。


変動が生じる原因は基本的に変動が行き過ぎるからである。


円高が行き過ぎれば円安に振れる。


株安が行き過ぎれば株高に振れる。


循環変動であることを忘れられない。

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昨年11月以降の円安・株高をもたらした原因は、二つある。


ひとつは、金融政策の運営が変わるとの予想が浮上したことだ。


日銀の独立性を排除し、日銀に無理やりにでも、量的金融緩和を強制する。


その効果があるのか、ないのか。それははっきりしない。


しかし、金融市場がその変化に反応すると予想されることから、その予想に乗る投資資金の増加が生じて、金融緩和=円安の市場反応が生まれてきた。


このことによってある種の「ウソから出たマコト」のようなことで円安が進行した。

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実際、安倍政権は日銀人事において、日本銀行法が定めている日本銀行の独立性を蹂躙するかたちで幹部人事を行った。


この人事で総裁、副総裁に就任した黒田東彦氏、岩田規久男氏は、「結果」を出すことを迫られる。


別の言い方をすれば、無理をしてしまう傾向をビルトインされていると言える。


日銀による金融緩和策強化の評価は短期的にはできない。


短期的には円安・株高の反応が生まれたから、一見、日本経済にプラスの効果を与えているかのような印象が強いが、金融政策の評価はこのような短期で行うものではない。


中長期の影響評価が必要不可欠である。


詳細は、拙著『金利・為替・株価大躍動-インフレ誘導の罠を読み抜く-(ビジネス社)


http://goo.gl/mvugt


をご参照賜りたい。

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為替レートについては、重大な事実を認識しておくことが必要である。しかし、いま進展している円安には、この側面が極めて薄い。

 


それは、日本円が円高には振れていないと判断されることだ。

 


円高が行き過ぎれば円安に振れるのは、ある意味順当である。

 


為替レートはあいまいなもので、必ずこの水準でなければならないという水準がない。


逆に、驚くような水準の為替レートでも、その水準が出現する可能性はいつでもある。


実際、豪ドルのレート変動を見ると、2008年10月に1豪ドル=55円だったのが、本年4月には1豪ドル=105円になった。豪ドルの価格は、わずか4年半で、約2倍になった。


これほど変動が大きいのが為替レートの特徴である。

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為替レートの適正な水準を考えるための考え方に「購買力平価」という考え方がある。同じお金なら、同じものが買えるのが「基準」だとする考え方だ。


マクドナルドのビッグマックが日本で320円、米国で4.37ドルであるなら、為替レートが1ドル=73円であれば、この基準が満たされる。


320円をドルに換金すると4.37ドルになって、米国でもビッグマックを一つ買える。


これが、ビッグマックを基準にして計算される「購買力平価」である。


ところがいま、円ドルレートは1ドル=101円である。この基準値と比較すれば現在の為替レートは、「適正レート」よりもはるかに「円安」に振れているということになる。


現在の1ドル=100円が正当化されるには、マクドナルドのビッグマックが437円にならなければならない。

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安倍政権は日本銀行に金融緩和推進を強制して、インフレを誘導することを目標に掲げている。


この政策が実現され、ビッグマックが1個437円になると、現在の1ドル=100円は順当な為替レートということになる。


安倍政権の政策方針は、文字通り解釈すれば、この変化を追求するものであることになる。


これが、本当に国民生活にとってプラスになることなのか。


よく考える必要がある。


320円のビッグマックが437円になるのだ。これが、インフレ誘導=円安誘導の結果である。


オーストラリアの人は、1ドルの使い道が2倍になったのだから、日本にたくさん来るようになるだろう。


しかし、その裏側には、オーストラリアの1ドルの牛肉の輸入価格が55円から105円に値上がりする現実がある。

そして、もうひとつ、重大な変化が観察され始めていることに警戒を怠れない。


日本の長期金利に上昇の兆候がはっきりと表れ始めたのである。

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