冷静かつ合理的であった大塚家具株主の判定
2月26日付ブログ記事
「大塚家具内紛報じ、政治とカネ報じないNHK」「大塚家具の社内紛争」
http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2015/02/post-e896.html
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「敗戦70年安倍談話が政権崩壊の端緒になる」
に次のように記述した。
大塚家具の問題は、経営路線をめぐる社内対立で、国民にとってはどうでもよい話だ。
家具においても価格競争は激化しているから、入り口で氏名、住所を記載して会員になることを強制され、スタッフ同伴でなければ展示商品を見ることができないような手法は、もはや時代遅れであると言えるだろう。
とはいえ、これは大塚家具の内部の問題だ。
その大塚家具の株主総会が開催されて、創業者である大塚勝久氏の長女である大塚久美子氏の社長続投が決まった。
メディアの多くが創業者の大塚勝久氏の側に立つ論評を展開してきたから、報道各社は肩透かしを食らった格好になった。
体面を保つために、大塚久美子社長の行動を批判的に記述する論評が目につく。
基本は大塚家具社内の権力闘争であるが、企業が企業価値を高めることを重視するなら、この手の内紛は表に出すべきでない。
内紛が表に出たことは企業にとってはイメージダウンの原因になり、損失になる。
私は、創業者の大塚勝久氏の主張と現社長の大塚久美子氏の主張を比較して、現社長の主張に合理性があると判断していた。
したがって、大塚家具の株主が示した結論は順当であると判断する。
また、各種の情報が創作するなかで、株主が適正な判断を示したことに、ある種の驚きを感じた。
大株主の一部には、創業者との歴史的な関係からなのか、創業者側に立つ企業が散見されたが、こうした企業株主よりも、一般の個人株主の方が、はるかに冷静で合理的な判断を示したものと感じる。
大塚家具が脚光を浴びたのは、いまから20年近くも前のことである。
当時の日本では、大きな「内外価格差」が残存していた。
外国製品の国内販売価格が極めて高い状態が続いていた。
日本の貿易黒字の大きさが問題になっているころで、円高にもかかわらず、日本の輸入が拡大しない理由として、輸入製品の国内販売価格に円高の影響が迅速に反映されないことが問題とされていた。
こうした状況のなかで、大塚家具は海外の高級家具の輸入販売を積極的に展開することで業容を拡大した。
その販売方法として、大規模な販売店舗を設置して、いわゆる会員制の販売方式を導入したのである。
来店客に受付で会員登録を要請し、販売員が来店客を引率して店内を案内する方式が採られたのである。
輸入家具の仕入れと最終販売を直結させるビジネスモデルに特徴があった。
また、大規模なフロア面積を有する店舗を活用しての展示販売も斬新な試みであった。
また、会員制の販売方式により、接客する販売員当たりの売り上げを伸ばすことも実現したのである。
また、大塚家具の販売においては、販売価格が一本化されていた。
従来の日本の家具販売店においては、定価を高めに設定しておいて、顧客と販売員とのやりとりのなかで「値引き販売」する方式が一般的に採用されていた。
顧客と販売員との「駆け引き」によって販売価格が大幅に変動するという状況が広範に見られたのである。
大塚家具では、このような方式が、価格に対する不信、不透明感を招くとの判断から、販売価格の一本化ならびに明確化を打ち出した。
つまり、一切の値引きをしない。
公示されている価格が、企業が提示できる最安値であるとの方式を採用した。
この「価格の透明化」も新規顧客を獲得する大きな武器になったと考えられる。
私は、テレビの報道番組のコメンテーターとして、大塚家具の新しいビジネスモデルに見られる斬新さを解説したことがある。
その解説に対して創業者の大塚勝久氏から謝辞をいただいたこともあった。
この時期のビジネスモデルとしては優れたものであったと言えるだろう。
大塚家具は「内外価格差の解消」を目標に掲げていたが、実際には、かなり大きな内外価格差は残されていた。
外国製の家具を輸入して販売するのであるから、そのための経費が価格に上乗せされることは避けられない。
ただし、内外価格差の原因はそれだけにあるのではなかった。
会員制の販売方式がもたらす、「高人件費体質」という問題が、実は当初から存在していたのである。
したがって、国内の他の販売業者の提示する価格よりは安いが、生産国における国内販売価格と比較すると、1.5倍から2倍程度の小売価格が設定されているものが少なくなかった。
20年前のビジネスモデルとして、大塚家具のビジネスモデルには長所も多く、斬新なものであったが、その後の日本の消費市場が劇的に変化したことを見落とせない。
その変化によって、創業者の大塚勝久氏が指向するビジネスモデルが、言わば「時代遅れ」になってしまったのである。
そのために、大塚勝久氏は経営陣から排除された。
そのことに対する「私憤」が問題を大きくさせてしまったのである。
2012年以降の業績悪化が指摘されるが、急激な円安によって商品調達コストが跳ね上がったことが最大の理由である。
経営の問題というよりも為替レート変動の問題である。
しかし、問題が拡大するなかで、一般投資家の判断が冷静かつ合理的であったことは、ひとつの驚きである。
株主は適正な判断を下したと言えるだろう。
続きは本日の
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