カテゴリー「内外経済金融情勢」の11件の記事

2009年11月27日 (金)

完全に予測されていた米ドルの全面安

為替市場でドル下落が進行している。

マスメディアは「円高」と騒いでいるが、米ドルは日本円に対してだけでなく、ユーロ、ポンド、加ドル、豪ドルなどの主要通貨に対して全面的に下落しており、「円高」と表現するよりも「ドル安」と表現する方が正しい。

本年7月に私は副島隆彦氏との共著書

『売国者たちの末路-私たちは国家の暴力と闘う』

売国者たちの末路 Book 売国者たちの末路

著者:副島 隆彦,植草 一秀
販売元:祥伝社
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を祥伝社から上梓させていただいた。

その第7章「地獄へひた走る世界経済」

に私は次のように記述した。

「アメリカでは今後数年間、年間180兆円の財政赤字が生まれます。これを賄うにはFRBが無制限に供給するしかない。ドルは大幅に下落し、世界的にインフレ誘発的な環境が強まっていく。ドル暴落はアメリカが最も警戒するシナリオだと思います。

私には、アメリカも日本も“根拠なき楽観”が広まっているような感じを受けます。」

世界経済は2008年に表面化した「サブプライム金融危機」に伴う大調整のさなかにある。本年3月以降、内外の株価が反発して安心感が広がっているが、問題が解決されたわけでない点に十分な警戒が必要である。

今回の金融危機の最大の特徴は、金融危機が資産価格下落に伴う銀行ローンの焦げ付きによって生じているのではない点にある。資産価格上昇過程で天文学的規模に膨張した「デリバティブ金融商品」の価格下落によって危機が生じている点に最大の特徴がある。

この特徴がもたらす最重要事項は、損失規模が過去のバブル崩壊とは「桁違い」であることなのだ。

本年4月以降、米国の住宅不動産価格が小幅上昇した。その結果、デリバティブ金融商品の価格も小幅上昇し、潜在的な損失が小幅縮小した。このことによって、金融市場が小康状態を取り戻した。

しかし、米国の不動産価格が上昇に転じたと判断するのは時期尚早である。オバマ政権は7800億ドルの景気対策を打った。この尋常ならざる巨大政策の効果で「小康状態」が得られたのである。

しかし、このような拡張政策を持続する財政力が米国にはない。早晩、政策によるGDP成長率押し上げ効果は急縮小する。不動産価格が政策の支援を失った時に再下落する可能性は依然として高いのである。

米国は徹底的な金融緩和政策を維持せざるを得ない。その論理的帰結がドル下落である。

日本では日銀に対する金融緩和圧力がさらに強まるだろう。世界は「通貨切り下げ競争」の様相を示し始める。

日本の本当の問題は財政政策にあるが、ここに光を当てないために「デフレ」が宣言され、金融政策に焦点が当たるように意図的に誘導されてゆく。

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『金利・為替・株価特報』は一貫してドル下落基調持続の見通しを提示してきた。『金利・為替・株価特報』2009年11月25日号のタイトルは、

「財務省路線採用鳩山政権の巨大リスク」

目次は以下の通りである。

1.【政策】バブル崩壊後4度目の株価暴落危機

2.【政策】2010年度超緊縮財政の巨大リスク

3.【政策】「デフレ宣言」の裏のウラ

4.【米国株価】米国株価を支えているもの

5.【為替】良いドル安と悪いドル安

6.【日本株価】日本株価に三尊天井懸念

7.【金利】短期のリスクと長期のリスク

8.【政策】普天間移設と日本航空

9.【投資戦略】

 ドル下落の中期的リスクをしっかりと分析する必要がある。

 本ブログ11月8日記事

「全国民必読の副島氏新著『ドル亡き後の世界』」

に、副島隆彦氏の新著を紹介させていただいた。

 

ドル亡き後の世界 Book ドル亡き後の世界

著者:副島 隆彦
販売元:祥伝社
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 副島氏は的確に「ドル暴落」と「金価格高騰」を予言され続けて来られた。経済金融予測にとって最も重要な、「ものごとの本質」をこれ以上的確に洞察され抜いておられる方を私は知らない。

 11月8日記事に以下の記述を示した。引用させていただく。

「世界の金融市場は政策当局の短期応急処置によって本年3月以降に小康状態を取り戻した。この小康状態を事態改善の第一段階と見るか。それとも、長期大崩壊のトレンドのなかでのあや戻しと見るか。この点が決定的に重要である。

 副島氏はこの点について明確な見通しを指し示す。生半可な分析では不可能な中期予測を精密な分析と深い洞察力に基づいて示されるのだ。

 米国経済の最大のアキレス腱は、米国が巨額の経常収支赤字を継続している点にある。米国の金融政策当局であるFRBは日本と同様のゼロ金利政策、量的金融緩和政策に踏み出している。FRBの資産健全性の大原則を踏みにじり、FRBのバランスシートは急激に大膨張した。

 いずれ、ドルの信認が根底から揺らぐことになるのは確実だろう。この点を副島氏はまったくぶれることなく、洞察し続けてきた。副島氏が予測をことごとくピタリと的中させる金字塔を樹立されてきた背景には、深い洞察力とその洞察力を裏付ける正確な国際政治経済金融情報を集積し得る「情報力」=インテリジェンスが存在するのだ。」

 さらに私は次のことがらを書き加えた。

「日本政府は2002年10月から2004年3月までの1年半に外貨準備を47兆円も膨張させた。外貨準備高は100兆円に到達している。しかし、この100兆円はそのまま巨大な為替リスクに晒(さら)されているのである。

 本ブログでは、日本の外貨準備の巨大リスクについて繰り返し警告を発し続けてきた。100兆円の外貨準備、政府保有米ドル建て米国国債を、為替損失を実現しないように日本政府は売却するべきなのである。日本政府が100兆円のドル建て米国国債を保有したままドル暴落を放置することは、日本が米国に100兆円を贈与することにほかならない。

 橋本龍太郎元首相が米国国債売却を示唆する発言を示し、米国の激しい攻撃に直面した。中川昭一元財務相も米国に隷従する形での資金供給にNOのスタンスを提示した。副島氏は私との共著『売国者たちの末路』においても指摘されたが、中川元財務相のイタリアG7での失脚事件、先般の逝去について、重大な疑問を提示されている。」

 急激な円高進行で日本政府は巨大な為替損失に直面している。竹中平蔵氏時代の50兆円の対米資金提供だけでも15兆円程度の為替評価損を計上しているはずだ。ドルが下落するとドル買い円売り介入が叫ばれるが、過去の為替介入損失を総括せずに、節操無くドル買いを続けることは許されるものでない。

 ともかくは、副島隆彦氏の優れた著作『ドル亡き後の世界』を熟読し、いま何が起きているのかを的確に把握することをお勧めしたい。

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売国者たちの末路 Book 売国者たちの末路

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2009年7月 8日 (水)

依然として不安定な内外経済金融情勢

ご愛読いただいている『金利・為替・株価特報』は、2009年7月から9月までの3ヵ月間、休刊とさせていただきます。ご購読の皆様には大変ご迷惑をお掛け申し上げますが、なにとぞご理解賜りますようお願い申し上げます。

本レポートでは、5月26日号より、内外株価反発後の調整局面への移行の可能性を警告してきた。内外株式市場は6月11日頃を境に調整局面に移行している。

また、本レポートでは、日経平均株価の推移が円・ユーロレートの変動に連動しており、円・ユーロレートの変動が日経平均株価の変動にやや先行していることを指摘し続けてきた。

サブプライム金融危機に対して、米国政策当局は迅速な対応を示した。日本の政策失敗の事例を反面教師として活用する対応が示されたと言えるだろう。

1990年代以降、日本のバブル崩壊は14年も持続した。政策対応を誤ったことが問題長期化の主因だった。日本政府は大きな失敗を3回繰り返した。

1回目は1992年。不良債権問題処理を先送りした。2回目は1997年。財政再建を急いで金融問題が深刻ななかで大増税を実行した。3回目は2000年から2003年。2回目と同じく、金融問題が深刻ななかで緊縮財政を強行した。小泉竹中政治は橋本元首相の警告を無視して同じ失敗を繰り返した。

バブルが崩壊し、金融危機が表面化するとき、取られなければならない対応策は、①金融緩和政策、②財政政策、③資本増強策、の三つの政策を組み合わせることである。

日本でこの対応を示したのは、1998年から2000年の小渕政権だった。小渕政権は三つの政策を組み合わせた施策を大胆に実行し、日本を金融危機から救出した。今回、米国政府が示した対応は、小渕政権の政策対応を範とするものであった。

オバマ政権は、政権発足直後に7800億ドルの財政政策を発動した。FRBはゼロ金利政策の採用に踏み切った。さらに、米国政策当局は巨額の公的資金を金融機関に注入した。この三つの政策を総動員した結果、米国金融市場の波乱がとりあえず沈静化された。

しかし、米国政府は、自由主義経済、資本主義経済の根源ルールを乗り越えてしまった。自由主義経済の根源ルールは「失敗の責任を自己で負う」ことにある。唯一、このルールが適用されたのはリーマン・ブラザーズである。しかし、昨年9月15日にリーマン・ブラザーズを破綻させた結果、際限のない金融破綻の連鎖が差し迫った。

米国政策選挙当局は、自由主義経済の根源ルールを踏み越えなければならないところにまで追い込まれ、自由主義経済の根源ルールを放棄した。

詳細は『売国者たちの末路』(祥伝社)をご高覧賜りたいが、デリバティブ金融の暴走の果ての爆発の前に、米国政策当局は「自己責任原則」を放棄せざるを得なくなった。「市場原理主義」が必然的にその破綻の終末を迎えたのである。

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ベア・スターンズ、AIG、ファニー・メイ、フレディ・マック、シティ、などの巨大金融機関が公的資金によって救済された。米国の自由主義経済は死を迎えた。

財政金融政策と巨額の資本注入で、米国金融市場は小康状態を回復した。株価は3月から6月にかけて3割から4割の反発を示した。

しかし、確実にその代償が広がり始めている。米国連邦政府の財政赤字は2009会計年度に180兆円に激増する。そして、この高水準の財政赤字が数年間持続することは間違いない。

米国は経常収支が赤字の国である。経済が円滑に回ってゆくために、海外からの資金供給が不可欠な国である。財政赤字を国内の資金で賄うことができない。

細かな説明を省くが、中期的な米ドル下落は不可避である。海外の投資家は下落する米ドル資産への投資に慎重な姿勢を一段と強めるだろう。

4月のロンドンG20では、500兆円の財政政策発動が決定されたが、欧州諸国は財政政策発動に慎重な姿勢を崩さなかった。欧州だけが財政政策発動を控えれば、ユーロは少なくとも日本円に対しては下落しやすくなる。

1929年に始まる世界大恐慌の局面では、各国が通貨切り下げと保護貿易に走り、世界経済の大停滞を招いた。その兆候が欧州の政策対応に示され始めている。

デリバティブ金融の想定元本は600兆ドル=6京円規模に拡大した。その潜在的な破壊力を軽視することができない。株価下落と経済悪化が再び強まる場合には、この地雷が次々に暴発するリスクが存在する。

Ny0708093

グラフに示されるように、NYダウは中期下落トレンドからまだ完全に抜け出したとは言えない状況にある。日本の株価は円・ユーロレートとの強い連動関係を有しているが、円・ユーロレートが徐々に円高傾向を強めていることにも警戒が求められる。

デリバティブ金融の巨大マグマが水面下で蠢(うごめ)いている現実を軽視するべきではない。内外経済金融情勢に対する警戒感を当面解くことはできない。

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2008年8月27日 (水)

深刻化するマンション不況と政府の責任

戸建住宅事業者の創建ホームズ(東証第1部上場8911)が8月26日、民事再生法の適用を東京地裁に申請し、受理された。負債総額は338億円。不動産市況の悪化で金融機関からの借り入れが困難になり、資金繰りが悪化した。前日の8月25日には首都圏を中心に分譲マンションを開発・販売するセボン(東京・新宿、山崎喜久男社長)が民事再生法の適用を東京地裁に申請し受理されている。負債総額は621億円。

不動産会社の経営破たんが相次いでいる。6月にスルガコーポレーション(東証第2部上場1880・負債総額620億円)、7月にゼファー(東証第1部上場8882・負債総額950億円)、8月13日にはアーバンコーポレイション(東証第1部上場8868・負債総額2558億円)など上場不動産会社の倒産が続発している。

マンション事業を中心とする不動産会社の相次ぐ経営破たん発生は三つの要因を背景としている。①不動産価格の下落への転換、②金融機関の貸し渋り、および貸し剥がし、③建築行政の混乱、である。米国サブプライム問題の余波で日本の不動産市場が変調を来したことが根本的な背景になっているが、行政の混乱が問題深刻化の重大な要因になっている点を見落とせない。そのなかでの不動産事業者を狙い撃ちにした銀行の貸し剥(は)がしがとどめを刺している。

問題の最大の背景は米国のサブプライム問題の余波を受けて、日本の不動産価格が下落に転じたことだ。不動産価格の下落に連動してマンション販売が深刻な不振に陥っている。本年7月のマンション発売戸数は前年同月比44.5%も減少し、11ヵ月連続の減少を記録した。また、同月のマンション契約率は53.5%で6ヵ月ぶりに50%台に低下した。

小泉政権が株価暴落を誘導したのちに欺瞞(ぎまん)に満ちた税金によるりそな銀行救済を実行した2003年以降、2007年にかけて首都圏を中心とする大都市の地価は急騰した。外国資本が多数のファンドを組成して首都圏の不動産を買いあさった。

新興不動産デベロッパーは、テナントや借家人のいる物件や権利関係の複雑な不動産を取得、権利関係を調整したうえで収益物件を建ててファンドに売却するビジネスモデルを構築し、急成長した。

円安誘導と日本の資産価格暴落誘導は、外国資本に巨大な利益獲得機会を提供した。2001年から2003年にかけての経済悪化誘導政策は日本国民に塗炭(とたん)の苦痛を与え、戦後最悪の失業、倒産、自殺を生み出したが、その裏側が外国資本に対する巨大な利益供与政策であったとの構造を有していた。

2007年半ば以降、米国で顕在化したサブプライム問題に連動して、外国資本が一斉に日本資産売却に動いた。連動して日本の不動産価格が急落した。不動産価格が下落に転じると不動産販売は一気に逆風にさらされる。不動産の買い手が価格下落を見込んで買い控えに転じるからだ。

不動産流動化ビジネスを手掛ける新興デベロッパーだけでなく、一般の住宅建設・販売会社の業況が急速に悪化し始めた。とりわけマンション建設・販売業者の経営不振が深刻化している。

マンション事業に深刻な打撃を与えたのが昨年6月の改正建築基準法施行だった。耐震構造偽装問題を踏まえて、安全性を審査する「建築確認」が厳格化されたが、政府の準備不足が露呈(ろてい)して住宅着工が激減した。

改正法成立から施行まで1年の準備期間があったにもかかわらず、法改正を所管した国土交通省の対応が杜撰(ずさん)であったことが建築確認行政停滞の主因である。

法改正の詳細を説明した技術解説書の発刊が法施行の2ヵ月後にずれ込んだ。また、建物の耐震性点検に使う「構造計算プログラム」の開発が大幅に遅れた。プログラム開発業者に法改正の詳細が伝えられるのが大幅に遅れ、大臣認定が与えられる新しいプログラムの完成が大幅に遅れた。

8月29日に7月の新設住宅着工戸数が発表される。前年比増減率は昨年6月以来、13ヵ月ぶりにプラスに転じる見通しである。その理由は昨年7月の新設住宅着工戸数が改正建築基準法施行の影響で激減したことにある。

前年比上昇率はプラスに転じるが、法改正前の水準を回復するとは見込まれていない。不動産経済研究所によると7月末の首都圏のマンション販売在庫数は前年同月比48%増に積み上がっている。不動産市況が下落に転じたために、不動産取得者の行動が著しく慎重化しているためだ。

さらに、不動産事業者の経営を圧迫しているのが、金融機関のマンション開発業者への融資姿勢の硬化である。上記破たん企業のケースでも、破たんの引き金を引いたのは、主要取引銀行の融資引き揚げだった。

銀行は税金による救済に加えて、超低金利政策による支払い金利軽減の優遇策を政府の政策から得ている。これに対して、一般事業者は金融機関が自らの損失回避を優先させて融資資金の貸し剥がしを実行すると、防衛する手段を持たない。

しかも、マンション事業不振の引き金を引いたのは、改正建築基準法施行に伴う政府の対応不足にある。行政責任をまったく示さない政府、政府の施策に庇護(ひご)される一方、一般事業者に対しては利益追求のみで対応する金融機関。2003年の平成大不況においても名も無き市民は阿鼻叫喚(あびきょうかん)の灼熱地獄(しゃくねつじごく)に放置された。

民間事業者の自己責任は厳しく問われなければならないが、行政に重大な瑕疵(かし)があり、その結果として事業活動に重大な問題が発生したマンション不況に対して、大手企業が次々に破たんする現状のなかで、政府がただ呆然と無策を決め込んでいることは糾弾されなければならない。

日本経済の不況への転換のきっかけを形成したのは住宅投資の激減である。環境関連利権に付随する住宅投資優遇措置ばかりが検討されているが、政府の行政責任が極めて重大な住宅建設激減に伴う不況深刻化、企業倒産多発に対する政府の適切で迅速な対応が求められる

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2008年8月18日 (月)

内外株式市場に変化の兆候

内外株式市場の環境に変化の兆候が見られ始めている。世界の株式市場は米国株式市場に連動する傾向を強く有している。米国株式市場の変動を見極める必要があるが、原油市場と米ドルに重要な変化が観察されている。

『金利・為替・株価特報』では、2008年6月7日号に株価下落見通しを提示した。原油価格急騰に伴うインフレ懸念と金融引締め観測が株価下落を誘発させると見通した。

7月16日にバーナンキFRB議長が議会証言でインフレ抑制を最優先課題に位置付ける考えを表明した。私は本ブログ7月17日付記事に、「NY株価は15日の10,962ドルを底に、目先反発する可能性が高い。(中略)これまでの際限のないドル安、原油高、株安の連鎖から解き放たれて、株価反発局面を期待することができるが、目先の反発で安心感が広がったのちの再調整圧力を警戒する必要がある」と記述し、株価反発予想を示した。

NYダウは5月2日の13,058ドルをピークに7月15日の10,962ドルまで2096ドル、16.0%下落した。11,000ドルを割り込んだのは2006年7月21日以来2年ぶりである。

日経平均株価は6月6日の14,489円をピークに7月15日の12,754円まで1735円、12.0%下落した。13,000円を下回ったのは本年4月15日以来3ヵ月ぶりである。

7月16日のバーナンキ発言を転換点に内外株価は反発した。NYダウは7月23日に11,632ドルまで値を戻した。その後、7月28日に11,131ドルまで反落、8月11日に11,782ドルまで反発、8月13日には11,532ドルに反落するなど、一進一退の推移を続けている。

日経平均株価はNYダウに連動した推移を続けている。7月15日に12,754円の安値を記録したのち、7月24日に13,603円に反発、8月5日に12,914円まで反落、8月11日に13,430円に反発、8月14日に12,956円に下落するなど、13,000円を挟んで一進一退の推移を続けている。

7月16日のバーナンキ発言を受けて、内外株価が反発し、一時的に安心感が広がったのち、株価は不安定な推移を示した。インフレ懸念が残存し、金融不安と金融引締め観測を払拭できていないためだ。

しかしながら、最近の金融市場の変動を観察すると、中長期的に重要な変化が生じ始めている可能性があり、十分な考察が求められる。米ドルの変動に大きな変化が生じている。

現段階でトレンド転換と断定することはできないが、2001年以来継続した趨勢に明確な変化が見られている。仮にトレンドの転換ではなく一時的な反動であるとしても、短期的には重要な変化であり、短期の金融変動においては重要な影響を与える可能性がある。

米国経済は①景気悪化、②金融不安、③インフレ懸念、の3つの問題に直面している。7月中旬には原油価格が1バレル=147ドルまで上昇し、3つの問題の悪化が懸念された。7月15日に米ドルはユーロに対して1ユーロ=1.60米ドルのユーロ発足以来の最安値を記録した。米ドルはユーロに対して2000年10月の1ユーロ=0.82米ドルから半値に暴落した。

7月16日のバーナンキ発言を契機に、金融市場が大きな変化を示している。WTI原油先物価格は1バレル=147ドルから1バレル=113ドルに急落した。米ドルの対ユーロレートは1ユーロ=1.46米ドルに反発した。

米国の金融政策は超緩和状態を維持しているが、原油価格高騰と米ドル下落の長期トレンドが大きな変化を示している。8月14日に発表された7月の米国消費者物価指数は季節調整後前月比0.8%、前年同月比5.6%上昇した。前年比上昇率は1991年1月の5.7%以来、17年半ぶりの大幅上昇になった。

金融政策運営において重視されるコア指数は前月比0.3%、前年同月比2.5%上昇した。コアインフレ率はFRBの許容上限である2%をやや上回っているが、安定基調は維持されている。

エネルギーを含む総合指数の上昇率は極めて高いが、原油価格が急落して安定すれば、総合指数の上昇率はやがて大幅に低下する。原油価格がピークアウトするなら、米国のインフレ懸念は次第に後退することが予想される。

また、米ドルはユーロだけでなく、英ポンド、加ドル、豪ドルなどの主要通貨に対しても大幅に反発した。2000年以降の米ドルの趨勢的な下落トレンドが修正局面を迎えた可能性も考えられる。

FRBの政策金利であるFFレートが本年4月に2.0%の水準にまで引き下げられた。昨年9月の5.25%の水準から3.25%ポイントも引き下げられ、金融超緩和状況が生み出されているため、原油価格下落や米ドル反発が定着するかどうか、まだ予断を許さない。

しかし、長期トレンドに大きな変化が生じていることは確かであり、少なくとも短期的には原油価格下落、米ドル反発の影響が金融市場に広がる可能性が高い。

中期トレンドの上昇転換につながるのかについては慎重な見極めが必要だが、日米株価が当面上昇傾向を強める可能性が高まっている点に留意すべきだ。

今週は22日(金)にバーナンキFRB議長が毎夏恒例のジャクソンホールでのシンポジウムで講演する。米国のインフレ見通しとFRBの政策対応について、バーナンキ議長がどのように言及するか注目される。

日本では福田政権がこれまでの「基礎的財政収支黒字化」路線から、一転して「バラマキ財政」路線に転換する様相を強めている。総選挙に向け、利権を維持するには手段を選ばぬ無節操さが示され始めている。政策スタンスの変節を政治的視点から論評しなければならないが、これとは別に経済政策が日本経済に与える影響を分析しなければならない。

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2008年8月13日 (水)

「感無景気」からの景気後退

日本経済の逆風が強まっている。2008年4-6月期のGDP速報が発表された。4-6月期の実質GDP前期比年率成長率は-2.4%になった。日本経済のマイナス成長は2007年4-6月期以来1年ぶりだ。

2002年1月に底を打ち、2007年12月まで上昇を続けたとされる日本経済。景気回復の期間では戦後最長とされるが景気拡大、景気回復の実感はまるでない。

過去最長の景気拡大は「いざなぎ景気」(1965年10月-1970年7月)の57ヵ月で、今回の景気回復が2002年1月から2006年12月とすると71ヵ月となり、期間のうえでは戦後最長ということになる。

朝日川柳に

「いざなぎは神話なのだと言いきかせ」

「おざなりと命名したいこの景気」

とあった。また、住友生命募集創作四字熟語には、

「感無景気」

とあった。

2002年から2007年の日本経済の実質成長率は年平均1.8%で、米国の2.6%を大幅に下回っている。この期間の名目成長率は年平均0.6%だった。米国の年平均5.3%成長の10分の1程度の伸び率だった。ほぼゼロ成長だったわけで、「感無景気」の命名は的確だ。

今日発表されたGDP統計は日本経済の深刻な現状を如実に示している。

GDP成長率       -2.4%

民間最終消費支出(57.2%) -2.2%

民間企業設備(15.8%)   -0.9%

民間住宅(3.2%)      -13.0%

政府最終消費支出(17.6%)  0.3%

公的固定資本形成(4.1%) -19.3%

輸出           -8.9%

(いずれも前期比年率実質伸び率)

(括弧内は名目GDP構成比)

資源・食料価格の高騰で家計消費が落ち込んでいることが鮮明に示された。住宅投資も大幅減少が続いている。海外経済の減速を映して輸出が大幅に減少したことも影響した。公共事業の大幅減少も際立っている。

2001年に発足した小泉政権は弱肉強食を奨励する市場原理至上主義を経済政策運営の根幹に据えた。2002年から2003年半ばにかけて日本経済は戦後最悪の状況に追い込まれた。

景気循環上、2002年1月が底になっているのは2001年9月に米国で同時多発テロがあり、2002年1月にかけて生産活動が底割れしたからである。しかし、小泉政権の株価暴落誘導政策により日経平均株価は2003年4月末に7607円まで暴落し、日本経済は2003年半ばまで最悪の状況を続けた。

2003年後半から2007年にかけて日本経済は浮上したが、国民生活は改善しなかった。浮上したのは大企業だけである。中小企業の大半は不況から抜け出せぬまま今回の景気後退に見舞われることになった。

小泉政権は大企業の労働コスト削減を全面的に支援した。企業は正規雇用を大幅に削減し、派遣やパートなどの非正規雇用を激増させた。非正規雇用労働者は雇用者全体の3分の1に達している。

まじめに汗水流して働いても年間所得が200万円に届かない低所得労働者が激増した。分配の不公正は小泉政権が格差社会先進国である米国流の「弱肉強食社会」を意図して目指したことによって拡大した。

竹中平蔵氏が主張し続けた「がんばった人が報われる社会」とは、ホリエモンのような人物が賞賛される社会を意味し、その陰で多くの善良な若者の生存権が脅かされるような労働慣行を奨励する社会だった。

家計所得が伸び悩むなかで物価上昇も生活を直撃している。6月の全国消費者物価指数は前年同月比1.9%上昇した。1998年1月以来、10年5ヵ月ぶりの高い上昇率になった。消費税増税の影響を除くと1992年12月以来、15年6ヵ月ぶりの高い上昇率である。

他方で各種社会保険料が引き上げられ、高齢者、障害者、母子世帯いじめの政策が強行実施されてきた。小泉政権以来の自公政権が一般国民の不幸を誘導してきた事実に私たちはしっかりと目を向けなければならない。

本当の意味での「がんばった人が報われる社会」を実現するには、「分配に関する政策」を刷新しなければならない。雇用形態の変化は世界の大競争進展を踏まえれば避けて通れない面がある。「年功制」、「終身雇用」が「実績給」、「雇用流動化」に変化することは避けられない側面がある。

こうした労働市場の変化を踏まえたときに重要性を増すのが、非正規雇用者の権利を正当に保障する政策だ。「同一労働・同一賃金制度」の導入が急務なのだ。欧州では非正規雇用労働者の権利が重視され、さまざまな制度が導入され定着している。

日本では政治屋(政)、特権官僚(官)、大資本(業)が癒着して、一般国民(労働者)を不幸にする制度が急激に強化された。政官業のトライアングルに外国資本(外)、メディア(電)が加わり「悪徳のペンタゴン(5角形)」が形成され、国民の生存権が脅かされてきた。

「政官業外電の癒着構造」の上に位置する自公政権を一般国民が支持することは、自分で自分の首を絞める行為だ。政権交代を実現して一般国民の幸福を追求する政府を樹立しなければならないと思う。

自民党内部に「財政再建派」と「上げ潮派」の意見対立があると伝えられているが、福田政権が内閣改造を実施して以降、新たに「バラマキ派」が力を得て、三つ巴の内紛が生じているとも伝えられる。

しかし、「正しい政策」を提示するグループはまったく存在しない。大きな問題は、①近視眼的な均衡財政至上主義がはびこっていること、②景気支持を訴える勢力が選挙目当ての利益誘導政治に走ること、の2点だ。

「財政再建派」も「上げ潮派」も2001年度の基礎的財政収支黒字化に執着する。これが「近視眼的均衡財政至上主義」である。これらの人々は財政赤字の「循環要因」と「構造要因」の違いと赤字解消の手順を正しく理解していない。

不況局面では「循環的に」財政赤字が拡大する。これを避けようとすると不況が加速し、結果的に財政赤字が拡大する。1997年や2001年の政策失敗がこのことを立証している。

日本経済の悪化を緩和するための財政政策発動が検討されるべきだ。物価上昇が進行し、円が主要通貨に対して暴落してきた経緯を踏まえれば、金融政策に超金融緩和政策をこれ以上強要するべきでない。「上げ潮派」は超低金利政策と法人税減税を主張するが、この点に「上げ潮派」が「大資本」と「外国資本」の利益を代弁している本質が示されている。

財政政策発動を検討するべきなのだが、「バラマキ派」は選挙目当てに「個別補助金」で「大資本」や「特定業界」への利益供与を指向する。漁業関係者に対する燃料費補助もこの手法による。「利権になる景気対策」を指向するのが「バラマキ派」の特徴だ。

財政政策発動は透明性の高い「プログラム政策」で実行するべきなのだ。制度減税、社会保障制度拡充がこの政策の基本手段だ。円高対策に最も適しているのが「ガソリン税暫定税率廃止」だ。自公政権は透明性の高い政策を嫌い、利権を生み出す個別政策を検討している。

米国のサブプライム金融危機は米国金融機関の融資慎重化を招いており、米国の景気調整、資産価格下落、金融不安の悪循環を長期化させる可能性を高めている。米国株価の下方リスクは依然として高い。

財政健全性回復を考察する際には、「循環赤字」と「構造赤字」を明確に区別しなければならない。景気後退局面での「構造赤字」縮小策強行が過去の政策失敗の基本原因だ。日本経済が景気後退に移行した現局面では、不況の深刻化軽減が優先されるべき政策課題になる。

景気を改善させて循環的な赤字を解消する。そのうえで構造赤字縮小に取り組む。これが正当な財政再建の手順だ。2001年から2008年にかけての経済政策により、国民所得の「資本」と「労働」への分配における著しい「資本」への傾斜が進行し、一般国民が不幸になった。

今回の不況への対応策において、一般国民=「労働」への分配を公正な水準に引き上げることを検討するべきだ。労働者の権利を守る制度変革を通じて「分配の歪み」を是正する必要がある。「日本経済の幹」にあたる一般国民を不幸から救出する政策が日本経済を回復させる原動力になることを正しく認識しなければならない。

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2008年8月 4日 (月)

13,000円を割り込んだ日経平均株価

日経平均株価が7月15日以来、3週間ぶりに13,000円を割り込んだ。NYダウの下落懸念も強く、NYダウ10,000ドル割れが視界に入る可能性がある。

8月5日にFOMC(連邦公開市場委員会)が開催されるが、インフレ・金融不安・景気悪化の三重苦に直面するFRBの政策判断は苦悩に包まれている。米国経済金融の混迷深刻化が警戒される。

講談社名誉毀損損害賠償請求訴訟での勝訴について、ひらのゆきこさんがJANJANニュースに記事を掲載してくださいました。ご高覧くださいますようお願いいたします。

7月17日付記事「FRBインフレ重視方針でNY株価反発」に以下の通り記述した。

「NY株価は15日の10,962ドルを底に、目先反発する可能性が高い。(中略)これまでの際限のないドル安、原油高、株安の連鎖から解き放たれて、株価反発局面を期待することができるが、目先の反発で安心感が広がったのちの再調整圧力を警戒する必要がある。」

私は会員制レポート 『金利・為替・株価特報』2008年6月7日号に日米株価下落見通しを提示した。NYダウが6月6日に節目と見てきた12,500ドルを明確に下回ったことを確認し、株価下落見通しを示した。

NYダウは5月2日の13,058ドルをピークに7月15日の10,962ドルまで2096ドル、16.0%下落した。11,000ドルを割り込んだのは2006年7月21日以来2年ぶりである。

日経平均株価は6月6日の14,489円をピークに7月15日の12,754円まで1735円、12.0%下落した。

原油価格が1バレル=145ドルまで上昇し、インフレ懸念が広がり、米国金融政策の方向転換が予想され、株価が調整局面を迎える可能性が高いと判断した。

7月16日の議会証言で、バーナンキFRB議長が「インフレ抑制を最優先課題に位置付ける」ことを明言した。バーナンキ発言を契機に日米株価が反発した。

7月17日付記事では、バーナンキ発言を好感して日米株価が反発すると予測したが、同時に利上げ実施までには紆余曲折も予想されることから、「目先の反発で安心感が広がったのちの再調整圧力を警戒する必要がある」と記述した。

NYダウは7月23日には11,632ドルまで、7月15日の10,962ドルから670ドル、6.1%上昇した。その後、7月28日に11,131ドルまで反落したのち、7月30日には11,583ドルまで上昇した。しかし、7月23日の11,632ドルには到達せずに8月1日には11,326ドルまで再下落した。

日経平均株価はNYダウが7月16日以降反発したのに連動して反発し、7月24日には13,603円まで、7月15日の12,754円から849円、6.7%上昇した。しかし、その後、NY株価に連動して反落し、8月4日には12,933円まで下落し、7月15日以来、3週間ぶりに13,000円を割り込んだ。

日米株価の下落傾向持続に十分警戒が求められる。詳細は『金利・為替・株価特報』2008年8月8日号に記述するが、NYダウは10,000ドルの大台割れが視界に入る可能性がある。日経平均株価も7月15日安値を割り込み、3月17日安値を下回る可能性があると考える。

7月31日発表の2008年4-6月期米国実質GDP成長率は前期比年率1.9%のプラス成長を記録した。2008年1-3月期も前期比年率0.9%のプラス成長を記録した。

2四半期連続のマイナス成長が「リセッション」の定義とされており、米国経済は2008年前半には「リセッション」に突入しなかった。

しかし、8月1日発表の7月雇用統計では非農業部門雇用者数が5.1万人減少し、7ヵ月連続の雇用者数減少が記録された。失業率も5.7%と4年ぶりの高水準を記録した。

米国は「景気悪化」、「金融不安」、「インフレ懸念」の三つの問題に直面している。FRBおよび米国政府は「金融不安」リスクをもっとも強く警戒し、政府支援住宅公社(GSE)に対する資本強化策を決めるとともに、超低金利政策を実施している。

しかし、超低金利政策が「インフレ懸念」と「ドル不安」をもたらしている。8月5日のFOMCでは、利上げ政策をめぐって激論が交わされる可能性が高い。原油価格が反落したことから、金利据え置きの可能性が高まっているが、利上げ実施の主張も根強い。

当面の米国株式市場最大の懸念はGMの経営不安定化である。地銀が相次いで破たんし、5兆ドルのローンおよび保証債券を抱えるGSEの経営不安も表面化している。米国株式市場は地雷原と化しつつある。

インフレ抑制のために短期金利の引き上げが必要と考えられるが、金融不安回避が絶対条件であり、金利水準の調整を完了するのにかなりの時間が必要になっていると考えられる。

日本の株価に割高感はないが、日本の株価は米国株価との強い連動性を有しており、米国株価調整が拡大する場合、日本株価も連動して下落する可能性が高い。

また、日本経済自身が景気後退局面に移行している可能性が濃厚だ。8月2日に改造内閣を発足させた福田政権は景気対策を盆前にも策定する見通しだ。

福田首相は「政策総動員」の掛け声を示したが、財務省基軸の新体制下で、景気悪化を遮断する抜本策が提示される可能性は現状では高くない。

また、超低金利を維持する日銀の金融政策がインフレを促進することも予想され、インフレと景気後退の同時進行という「スタグフレーション」シナリオが、日本でも現実化しつつある。

中国でもオリンピック後の経済調整深刻化が懸念されており、日本経済を取り巻く情勢が急激に悪化している。

総選挙が迫っているため、自公政権が突然「理念なきバラマキ政策」の方向に舵を切る可能性もゼロとは言い切れない。福田改造内閣の政策対応を注視しなければならない。

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2008年7月23日 (水)

本日発表の地区連銀経済報告に注意

本日発表される地区連銀経済報告(ベージュブック)には注意が必要だ。

NY株価、連動する日本の株価は7月16日以降、予想通りの反発を示している。次の焦点は8月5日と9月16日のFOMC(連邦公開市場委員会)になる。インフレ抑制の金融政策の重要性を改めて確認しなければならない。

「BLOG版「ヘンリー・オーツの独り言」」のヘンリー・オーツ様、素敵なバナーを作ってくださいましてありがとうございます。感激しています。大変僭越ですがバナーの輪が広がってくれることを願っております。多くの皆様にご支援を賜りまして心よりお礼申し上げます。

私は会員制レポート『金利為替株価特報』5月24日号=067号タイトルを「原油価格上昇で米国株式市場に暗雲」として、原油価格上昇に伴う株価下落リスクを指摘した。

6月7日号=068号ではタイトルを「FRBインフレ回避利上げケース考察」として、株価下落見通しを示した。

現実に日経平均株価は6月6日の14,489円をピークに7月16日の12,760円まで、1729円、11.9%下落した。NYダウは5月2日の13,058ドルから6月5日の12,604ドルを経過して、7月15日の10,962ドルまで2096ドル、16.1%下落した。

株価下落見通しを提示したのは、NYダウが6月6日に重要な下値抵抗ラインである12,500ドルを明確に割り込んだからだ。原油価格上昇が持続し、FRBがインフレ抑制に金融政策の方向を転換する必要が高まったと判断したことが背景だった。

7月16日付記事「FRBインフレ重視方針でNY株価反発」冒頭に以下のように記述した。

「NY株価が当面の転換点を通過した可能性が高い」

記事のなかで、以下の指摘をした。

「NY株価は15日の10,962ドルを底に、目先反発する可能性が高い。日本の株価は米国株価と連動するため、目先反発局面を示す可能性が高い。」

「これまでの際限のないドル安、原油高、株安の連鎖から解き放たれて、株価反発局面を期待することができるが、目先の反発で安心感が広がったのちの再調整圧力を警戒する必要がある。8月5日のFOMCでの金利引き上げをめぐり、市場観測が交錯する可能性が高いからだ。」

バーナンキ議長は7月15、16日に半年に1度の金融政策を報告する議会証言を行った。

15日には「金融市場の安定確保がFRBの最優先事項」と述べたが、NY株価は93ドル下落して、10,962ドルと2年ぶりに11,000ドルを下回った。

16日の議会証言では、質疑応答で発言のトーンを大きく転換した。バーナンキ議長は「現在のインフレが高過ぎるとの見方に賛同する。物価安定と一致する容認可能な水準にインフレを引き下げるための政策実行が今後のFRBの最優先事項だ」と述べて、インフレ抑制を重視する方針を明確に示した。

NYダウは前日比277ドル上昇して11,239ドルに反発した。原油価格が下落したことも影響しているが、FRBのインフレ抑制重視姿勢を金融市場が好感したと解釈することができる。

7月16日には、6月24、25日のFOMC議事録も公表された。議事録では、複数の委員が「次の政策変更は利上げが妥当」と発言したことが明らかになった。また、その後、6月のFOMCに向けてカンザスシティーとダラスの2連銀が公定歩合引き上げを申請したことも明らかになっている。

その後、FRB関係者から相次いでFRBによる金融引き締めを示唆する発言が示されている。

7月18日にはスターン・ミネアポリス連銀総裁が、ブルームバーグのインタビューで「FRBは住宅・金融市場が安定するまで利上げ実施を待つことはできない。インフレは明らかに高過ぎで、コア物価に波及する可能性がある」と述べたと伝えられた。

また7月22日には、ブロッサー・フィラデルフィア連銀総裁が「FRBはインフレ亢進を受けて、労働・金融市場の回復を待たずに利上げ開始を余儀なくされる可能性がある」と述べたことをロイターが伝えている。

ブロッサー総裁はさらに、「金融政策を過度に緩和的かつ長期的に維持することは、個人や企業のインフレ期待を高め、インフレ問題を悪化させる可能性がある」との見方を示し、「インフレ期待の抑制を維持することは、金融当局者が発言を行動で裏付ける必要があることを意味する」と指摘し、「(政策の)反転が求められる。その反転は遅めよりは早めに開始する必要が生じると予想している」と述べた。

これらのFRB関係者の意見は私の見解と軌を一にしている。FRBはインフレ抑制の政策目標を堅持すべきで、インフレ抑制政策が中長期の安定的な経済成長に欠かせないとの判断を尊重するべきである。

米国はいま、三つの問題に直面している。①景気後退、②金融不安、③インフレ懸念、の三つだ。最も警戒を必要とするのが、②金融不安で、3月にはベア・スターンズ社の経営危機が問題になったが、最近では政府住宅公社や地方銀行の問題が表面化している。

米国政府とFRBは問題の重要性を十分に認知していると考えられる。公的資金注入を含む対応が検討されている。

問題は、②金融不安対応で短期金利を引き下げ過ぎたことだ。FFレートは現在2.0%の水準にあるが、6月の消費者物価上昇率は前年比5.0%で実質マイナス3%の金利になっている。

この状態を放置したままでは、市場のインフレ心理を促進してしまう。金融不安を引き起こさない短期金利の上方修正が求められている。

原油価格が下落しているのでインフレ懸念は後退しているが、原油価格が反発に転じると、インフレ懸念は一気にまた強まる。原油価格が下落している間は株価上昇が持続するが、原油価格が反発に転じると、株価が再下落するリスクが高い。

地区連銀経済報告でインフレ懸念が強調される可能性がある。8月5日ないし9月16日のFOMCで利上げが決定される可能性は50%以上だと私は見ている。

利上げは中長期的に判断して、必要な正しい政策だと考えるが、利上げ観測が浮上すると金融市場の不透明感が増す可能性があるので、留意すべきである。

米国のマクロ経済政策のポリシーミックスは、財政緩和-金融引締め検討の段階にある。実は、日本でも同様のポリシーミックスを検討するべきである。この問題については、改めて考察したい。

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2008年6月16日 (月)

当面の内外経済金融情勢の展望

NY株価が6月6日に大幅に下落して以降、内外株式市場で先行き不透明感が強まった。米国金融市場では昨年半ば以降、サブプライム金融危機が顕在化して、米国金融市場の混乱が長期化、深刻化するとの見方が広がってきた。

 

本年3月に米国で大手証券ベア・スターンズ社の経営危機が表面化して金融市場の緊張感が高まった。FRBは290億ドルの緊急融資を実施した。実質的な公的資金による金融システム安定化策が示されたことで、金融システム不安に対する警戒感が大幅に後退した。

  

NYダウは5月1日に本年1月3日以来4ヵ月ぶりに13,000ドルを回復した。金融不安が最悪期を脱したとの見方が広がりつつあった。ところが、NY株価は5月2日以降、再び下落傾向を示し始めた。6月6日には、NYダウが前日比395ドル下落して、12,209ドルまで下落した。6月11日には12,083ドルと12,000ドル割れ目前まで株価調整が進んだ。

  

株価下落の主因は米国のインフレ懸念である。原油価格が6月6日に1バレル=139ドル台にまで上昇した。米国大手証券モルガン・スタンレーが同日、1ヵ月以内に原油価格が1バレル=150ドルまで上昇するとの見通しを発表したことがきっかけだった。6月6日、原油価格は前日比10.75ドル上昇し、1日の値上がり幅として史上最大を記録した。

原油価格高騰が持続し、インフレ圧力が強まれば、FRB(連邦準備制度理事会)はこれまでの金融緩和政策を見直さざるを得なくなる。インフレ圧力に対する警戒感はグローバルに拡大しており、ECB(欧州中央銀行)も7月3日の金融政策決定会合で利上げを実施する可能性を示唆し始めている。

  

米国政策当局は米国の金融緩和政策がドル下落とインフレ率上昇予想を生み、世界の投資資金が原油市場に急激にシフトして、ドル下落と原油価格上昇=インフレ率上昇を加速させる悪循環に対する警戒感を急速に強めたと考えられる。この状態を放置し、原油価格上昇、ドル下落、インフレ率上昇が強まれば、FRBの強力な金融引き締め策が必要になる。

  

米国政策当局はこれまでの「サブプライム金融危機対応優位」から、「インフレ心理払拭優位」に政策のプライオリティーを変更したと考えられる。私はこの判断が正しいと考える。

  

米国のサブプライム問題は、昨年年初から広く指摘されていた問題だった。不動産価格がすでに下落に転じていたことが背景だった。不動産格下落-不良債権増加-景気悪化-金融問題拡大の悪循環が警戒された。

  

昨年夏になり、サブプライム問題に伴う金融機関の巨額損失が表面化し始めた。しかし、FRBは金融緩和政策実行に躊躇した。原油価格が上昇し、インフレ警戒感が残存していたからだ。FRBは昨年8月から12月にかけて、慎重に金融緩和政策を始動させた。

ところが、昨年末から本年年初にかけて、サブプライム問題が急激に拡大する様相を示した。株価急落は世界市場に波及した。FRBはサブプライム危機に伴う金融システム不安回避にプライオリティーを与える方向に政策方針を転換した。FRBは大幅利下げとベア・スターンズ社問題処理によって当面の危機回避に成功した。

  

しかし、当初から、急激な金利引き下げがインフレ心理拡大を招く恐れが存在しており、この問題が本年5月以降に顕在化した。米国はドル下落圧力、原油価格上昇、インフレ圧力を抑制する方向に政策の舵を大きく切り替えつつある。この方針転換に伴い、景気悪化懸念が広がることは予想されるが、これを想定に入れつつ、新しい政策方針が示されていると考えられる。

  

ターゲットは原油市場である。原油市場には大量の投機資金が流入していると考えられる。原油価格ピークアウトが確認されれば、短期的な利ざやを追求する投機資金は一斉にポジション解消に進む。そうなると原油価格は予想以上の下落を示す。原油価格が大幅に反落すれば、金融市場のインフレ警戒感は大幅に後退する。

  

米国の政策当局がどこまで先行きを洞察していたのかは不明だが、米国政策当局の問題への対応順序は適正であったと考える。金融市場の混乱は、金融市場の機能不全リスク=システミックリスクが顕在化する場合に最大化する。政策当局が明確な行動によってこのリスクを排除すれば、不必要な金融市場の混乱を回避することが可能になる。

  

2002年から2003年にかけての日本では、逆に政策当局がシステミックリスクを煽動し、その結果として不必要な株価暴落が引き起こされた。経済、金融の混乱拡大による国民の犠牲は計り知れないものになった。この混乱で巨大な利益を獲得したのが外国資本であった点に、2003年日本金融市場混乱の黒い陰影が刻まれている。

  

6月13日発表の5月米国消費者物価コア指数(食品・エネルギーを除く指数)前月比上昇率が+0.2%にとどまったことを反映して、同日、NYダウは前日比165ドル上昇して12,307ドルに反発した。米国株価の調整が完了したと判断するのは時期尚早だが、今回の調整の主要因はインフレ懸念であり、インフレ懸念が後退すれば、不安心理は大幅に緩和されると考える。

  

米国経済が減速することはすでに予想されており、問題は景気後退とインフレの同時進行という「スタグフレーション」が現実化してしまうかにある。FRBはインフレ警戒の政策運営が短期的には景気心理を冷却化させても、中長期的な経済運営の視点からは、インフレ圧力を確実に遮断することが優先されるべきとの判断を堅持していると考えられる。

  

米国のサブプライム危機が2008年後半にかけて一段と深刻化するとの予測が金融市場では多数派であるが、私はこの見解に与していない。不動産価格下落-不良債権増加-経済悪化の悪循環が発生する典型的な不動産金融不況に対して、米国政策当局はこれまで極めて巧みに対応してきたと判断している。

  

リスクは原油市場にある。原油価格高騰が持続する間、金融市場の不安定性は根強く残存するだろう。株価下落、米ドル下落、長短金利上昇の反応が生じやすい。

  

CNNの報道によると、サウジアラビアのヌアイミ石油相は6月15日にジッダで国連の潘基文事務総長と会談し、来月から原油を日量20万バレル増産する計画を表明したとのことだ。同報道はさらに、22日にジッダで開かれるエネルギー価格高騰への対応策を協議する産油国と消費国の会議終了後に、産油国全体で日量50万バレル前後の増産が発表される見通しだと伝えた。

原油価格高騰に歯止めをかけようとする米国の行動が本格化し始めている。FRBはインフレ警戒に金融政策の軸足を移動させている。7月3日にECBが金利引き上げに踏み切ると為替市場ではユーロ上昇圧力が生じ、米国の利上げが迫られることになる。米国が実際に金利引き上げを実施すれば、金融市場には大きな影響が生じると考えられる。

   

原油価格高騰、インフレ警戒感、米ドル下落懸念、金融引き締め観測などが残存する間、金融市場は不安定な推移を示すと考えられるが、米国の経済政策が問題に適正な手順で対応していることを踏まえると、中期的には楽観し得る状況が生まれつつあると考える。

  

日本では、経済活動がピークアウトし、緩やかな景気後退が始動していると考えられる。内閣府は6月9日、景気動向指数において重視する指標をDIからCIに切り替えた。また、4月の一致指数について「局面変化」との基調判断を示した。2002年2月に始動した景気拡大局面が後退局面に移行した可能性が示唆されている。

6月16日の月例経済報告で、政府は日本経済の景気基調判断を3ヵ月ぶりに下方修正する見通しだ。生産指数、住宅着工が減少し、消費者態度指数も大幅に悪化している。6月11日に発表された2008年1-3月期の実質GDP成長率が年率4.0%に上方修正されたが、4-6月期についてはマイナス成長に転じる観測が強まっている。

   

米国株価調整、日本経済停滞、企業収益悪化は株価下落要因だが、昨年7月から本年3月にかけて日経平均株価は35.5%下落しており、日本の株価に割高感は存在しない。

  

米国のドル下落回避策検討、FRBのインフレ警戒姿勢などを背景に緩やかな円安傾向が観察されていることも、日本の株価支持要因になっている。日本の物価上昇率も上昇傾向を示し始めており、日銀による金利引き上げ観測が再び表面化するリスクもあるが、外国人投資家の日本株に対する投資意欲も拡大しており、日本の株価が3月安値を下回る可能性は低いと考える。

  

問題は日本経済のなかのばらつきが残存されたままであることだ。福田政権の経済政策は格差拡大にまったく対応を示していない。大企業の企業収益は史上最高水準にあるが、中小企業の大半は依然として厳しい景況感の下に置かれている。非正規雇用の下に働く労働者は多く、格差は一向に縮小しない。高齢者、母子世帯、非正規雇用労働者、障害者などの社会的経済的弱者に対する政府支出切り捨ての政策方針が堅持されている。ミクロの経済政策に大きな問題が残されている。

  

  

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2008年6月 7日 (土)

NY株価急落と当面の内外経済金融情勢

 66日のNY株式市場で株価が急落した。NYダウは前日比394ドル下落し、12,209ドルに達した。詳細な分析は『金利・為替・株価特報200867日号』に記述したので、レポート読者はこちらを参照いただきたいが、NYダウは20072月以来の大きな下げ幅を記録した。

  

  

 本ブログ62日付記事「当面の内外経済金融情勢」に記述したように、NYダウは12,500ドルラインでの攻防を続けていた。NYダウは本年310日に11,740ドルまで下落したのち反発に転じて51日に13日以来4か月ぶりに13,000ドル台を回復し、52日には13,058ドルまで上昇した。

  

 その後は12,700ドルから13,000ドルのレンジを中心にもみ合いで推移したが、520日以降に再び下落基調を強めて523日には12,479ドルまで下落していったん12,500ドルを下回った。しかし、その後反発に転じて、529日には12,646ドルまで反発した。

  

  

 62日付記事にも記したように、NY株式市場の最大のリスクファクターは原油価格の高騰である。原油価格の代表的指標であるWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)522日に1バレル=135ドル台の史上最高値を記録した。NYダウは原油価格急騰を背景に523日にかけて下落した。

  

 しかし、その後原油先物取引市場での相場操縦疑惑などが浮上して、WTI価格はいったん1バレル=121ドル台にまで下落した。原油価格下落を大きな背景にしてNYダウは529日に12,646ドルまで反発した。

  

  

 ところがその後、NYダウは530日から64日まで4営業日連続で下落し、64日には12,390ドルまで下落した。MBIAやアムバックなどの「モノライン」と呼ばれる金融保証会社の格付けが引き下げられるとの憶測や大手証券リーマン・ブラザーズの資金繰り悪化懸念が伝えられたことなどが株価下落の要因になった。

  

 だが、65日には米国小売業大手の4月の売上高が前年比3%増加したことなどが明らかになって、NYダウは前日比214ドル上昇して12,604ドルまで反発した。しかし、66日に394ドル下落して12,209ドルに下落した。

  

  

 66日の株価急落は原油価格急騰と同日発表の5月雇用統計が米国経済の悪化を鮮明に印象付けたことによって生じた。66日、米国大手証券のモルガン・スタンレーは原油価格が74日までに1バレル=150ドルまで上昇するとのレポートを発表した。レポートに反応する形で原油価格は急騰し、一時1バレル=139ドル台をつけ、1バレル=138ドル台で取引を終えた。前日比上昇幅は10ドルを超え、原油価格は史上最高値を更新した。

  

 また、5月雇用統計では非農業部門の雇用者が前月比4.9万人減少して5ヵ月連続の雇用者減少を記録した。また、失業率は4月の5.0%から一気に0.5%ポイント上昇して5.5%にまで達した。株式市場は景気悪化とインフレの同時進行という「スタグフレーション」のリスクを感じ取り、株価急落で反応したのである。

  

  

 62日付記事でも記述したように、NYダウが12,500ドルを大幅に下回ると、本年1月と3月の安値でのダブルボトム形成によるNY株価底入れ仮説が大きく揺らいでしまう。NYダウは昨年109日の14,164ドルから本年310日の11,740ドルまで、2424ドル、17.1%下落した。この株価下落を株価下落第1波動とし、52日の13,058ドルを起点に株価下落第2波動が始動しているとの見方も浮上してくる。

  

 52日の13,058ドルを起点に2424ドル下落すると、NYダウは10,634ドルまで下落してしまうことになる。66日にNYダウが12,209ドルまで下落してこれまでの攻防ラインであった12,500ドルを大幅に下回ったことで、当面、NY株価の下落圧力に十分な警戒を払わなければならない状況が生じている。

  

  

 焦点は原油価格の推移とFRB(連邦準備制度理事会)の政策対応だ。FRBのバーナンキ議長は、63日の講演で利下げ政策の中断を示唆するとともにインフレおよびドル下落に対する強い警戒感を表明した。FRBは本年1月以降に利下げ政策を急激に強化したが、3月中旬のベア・スターンズ社危機を収拾したことで、緊急避難的な対応策にひとつのけじめをつける局面を迎えたと判断していると考えられる。

  

 米国格付け大手のS&P62日にモルガン・スタンレー、メリル・リンチ、リーマン・ブラザーズの大手証券3社、65日にMBIAとアムバックのモノライン大手2社の格付けを引き下げるなど、サブプライム問題に関連した金融機関の格付け引き下げや大手金融機関の追加損失拡大などの問題は今後も残存すると考えられ、FRBの政策姿勢は極めて慎重だと予想される。しかし、FRBが金融危機回避からインフレ懸念払拭に軸足を移し始めていることは間違いないと考えられる。

  

  

 問題は原油価格の急騰がいつまで、どの水準まで持続するのかだ。原油価格の騰勢が続く間はFRBのインフレ警戒姿勢は強まりこそすれ、弱まることは考えられない。NY株式市場は金融引き締め警戒感から株価下落の反応を示す可能性が高い。

  

 サブプライム金融危機を契機とする資産価格下落-金融不安拡大-景気悪化の悪循環が米国経済金融市場に残存しており、そのなかでのインフレ懸念拡大は株式市場にとっての大きな重しになる。

  

  

 日本企業の株価は日経平均株価が317日に11,787円の安値を記録して以降、堅調に推移してきた。日経平均株価は66日には14,489円まで上昇して、19日の14,599円以来の高値を記録した。年初来高値は14日の14,609円で、あと120円の水準にまで株価は反発した。

  

 66日のNY市場で株価が急落したことを受けて、週明けの東京市場では株価が急落すると予想されるが、昨年79日から本年317日にかけての株価下落が大幅で、日本の株価が絶対水準として大幅に割安な水準にあると判断されることから、317日の安値を下回るような株価急落は想定し難い。

  

 詳しい分析は『金利・為替・株価特報200866日号』に譲るが、日本の株価変動が米国の株価変動に強く連動していることは明らかであり、当面は米国経済、金融政策と米国金融市場の推移を注目しなければならない。

  

  

 ECB(欧州中央銀行)は65日に2008年、2009年の経済、物価改定見通しを公表し、同日ECBトリシェ総裁が記者会見した。一方、530日発表の5月のユーロ圏15ヵ国消費者物価指数上昇率は3.6%4月から0.3%ポイント上昇して、本年3月に並んで史上最高値を記録した。

  

 ECBが発表した2008年の消費者物価上昇率見通し予測中間値は3月段階の2.9%から0.5%ポイントも上方修正されて3.4%に改定された。ECBのインフレ率目標値は「2%未満」である。物価の現状および見通しは目標値を大幅に上回っており、ECBも物価警戒姿勢を強めている。

  

  

 ECBのトリシェ総裁は65日の記者会見で、「次回会合で小幅利上げを実施する可能性を排除しない」と述べた。ECBの次回金融政策決定会合は73日に開催される。トリシェ総裁のECB追加利上げに関する言及は単なる言葉の上での牽制ではないと判断される。

  

  

 日本銀行総裁に白川方明氏が就任して約2ヵ月が経過した。白川氏は新総裁としての職務を着実にこなし、無難なスタートを切った。金融政策、金融システム両面の理論、実務に明るく、日銀総裁としての要件を十分に満たしている。記者会見でも自分の言葉で政策決定の背景を詳しく説明することができ、日銀総裁の本来あるべき姿が示されている。

  

 中央銀行総裁会議でも他国の中央銀行幹部と十分に討議することが可能であり、望ましい人事が実現したと評価できる。今後の課題は米欧がインフレ警戒で足並みをそろえるときに、日本銀行が適時適切な対応を示せるかどうかだ。

  

 日本国内には日銀の金利引き上げ政策を極度に嫌う政治勢力が存在している。日本の行き過ぎた金融緩和政策が円安を生み、日本経済のプレゼンスを低下させていることにも留意しなければならない。政治に対する今後の白川総裁の金融政策についての説明ぶりが注目される。

  

 

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2008年6月 2日 (月)

当面の内外経済金融情勢

内外の株式市場では本年3月中旬を転換点に、株価上昇が観察されている。NYダウは51日に本年13日以来4か月ぶりに13,000ドル台を回復し、52日に13,058ドルまで上昇した。その後、523日には12,479ドルまで下落して、昨年816日のザラ場安値12,517ドルを下回り、下落トレンドへの移行が警戒された。NYダウが12,500ドルを大幅に下回ると、本年1月と3月の安値によるNYダウのダブルボトム形成の見方に修正を迫られる。

しかし、NYダウは523日以降、上昇に転じて529日には12,646ドルまで反発した。NYダウは12,500ドルが重要な下値抵抗ラインになっており、この水準を下回らずに上昇すれば本年1月、3月の安値での底値形成の可能性が強まることになる。

 

日経平均株価は515日に14,251円まで上昇し、317日の安値11,787円から2464円、20.9%の上昇を示したのちに米国市場に連動して小幅下落した。526日には13,690円まで下落して25日移動平均を下回ったが、その後、反発に転じて14,338円まで上昇し、110日の14,388円以来の高値を記録した。

 

昨年夏以降に内外株式市場で株価が下落した背景に米国のサブプライム金融危機が存在する。サブプライム危機は典型的な不動産金融不況の一類型で、不動産価格下落を出発点として不良債権の増加と経済悪化が相互に作用し合って断ち切りがたい悪循環を形成してきた。問題が進行すると大手金融機関の破たんが表面化して金融システム全体が大きなリスクにさらされることになる。

事態の深刻化を回避するためには悪循環を断ち切る施策が必要で、①マクロ経済政策による景気悪化回避、②金融機関損失の早期開示と自己資本増強、③金融システム危機を回避するための政策当局の明確な決意と行動、が求められる。この問題については531日付記事2003年株価暴落の深層(1)-危機対応の日米較差-」に記述した。

 

サブプライム金融危機に対して米国は迅速かつ効果的な対応を実行してきた。FRBの積極的な金利引き下げ、ブッシュ政権の景気対策決定、金融機関の損失早期開示と自己資本増強、FRBによるベア・スターンズ社買収資金融通など、上記の①~③の施策が次々と実行に移された。その結果、米国金融市場の動揺は最小限にとどめられていると評価できる。

 

原油価格の高騰が続き、米国でインフレ懸念が残存していることがリスクファクターだ。原油価格高騰が持続するとFRBによる金利引き上げを警戒しなければならなくなる。FRBが利上げを決定すれば株式市場には大きなショックが走ると考えられる。原油価格の指標であるWTI522日に1バレル=135ドル台に上昇したのちに小幅下落しているが、先高観測は依然として根強い。

世界の投資資金が原油先物市場に流入していることが原油価格上昇の一因であると指摘されているが、ポールソン米国財務長官は世界的な原油需要増加が価格上昇の主因であるとの見解を示している。原油価格の今後の推移を慎重に見定めることが求められる。

 

原油価格動向と米国金融政策の先行きに不透明感が残存するが、金融危機に対する米国の迅速な対応を背景に、米国株式市場の不安定性が後退し、日本の株式市場の基調が底堅くなってきている点に留意が必要だ。東証第1部上場企業の20093月期予想利益基準の株価収益率(PER)529日終値基準で17.22倍、益利回りは5.80%である。10年国債新発物利回りは1.75%で両者のかい離であるイールドスプレッドは4.05%で、株式の割安感は依然として強い。

 

530日発表の4月鉱工業生産指数は季節調整後前月比0.3%低下して昨年4月以来の低水準を記録したが、5月予測指数は前月比4.7%増加が見込まれており、生産活動が急激に落ち込んでいるわけではない。同日発表の4月全国消費者物価上昇率は生鮮食品を除くベースで前年同月比0.9%上昇したが、3月の1.2%上昇からは低下した。

日本の株式市場での株価上昇局面では、短期間に大幅に株価が上昇することが多い。米国株式市場が堅調を維持する場合、日本の株価が2008年後半にかけて一般的予想を大幅に上回って上昇することも考えられる。日本株式に対する投資が大きなチャンスを迎えている可能性を無視できない。

 

527日発表のS&Pケース・シラー住宅価格指数は、全米主要10都市の1戸建て住宅価格が3月に前年比15.3%下落したことを示した。統計開始以来最大の下落率を更新した。米国の不動産金融不況が最悪期を脱したのかどうかについては慎重な検討が求められるが、金融機関損失に伴う資本増強などの対応が極めて迅速であることは重要なポイントであると考えられる。

 

為替市場においては、一般的に米ドルが下落傾向にあると理解されているが、昨年半ば以降、米ドルの中期的トレンドに変化が観察されている点に注視が必要だ。米ドルは2001年以降、日本円を除く主要通貨に対して趨勢的な下落傾向を示してきた。しかし、昨年11月以降に英ポンド、加ドル、本年4月以降にユーロに対して小幅反発を示している。

原油価格高騰に連動して資源国通貨の豪ドルは、対米ドルで24年ぶりの高値水準で推移しているが、全体として米ドルの下落傾向が弱まっていることには留意が必要である。日本円も本年3月には127ヵ月ぶりの円高水準を記録したが、日本の利上げ可能性が消滅し、米国の利下げが中断する見通しが強まるなかで、その後は米ドルが小幅反発している。円高・ドル安傾向持続見通しの見直しが求められる。

 

債券市場では、米国長期金利の上昇に連動して日本の長期金利が大幅に上昇した。新発10年国債利回りは529日に約10ヵ月ぶりに1.8%台に上昇した。3月から5月末までの長期金利上昇幅は0.6%ポイントで、この期間の米国長期金利上昇幅をやや上回っている。

一般に株価最下落地点が長期金利の最低地点と重なる。セオリー通りの市場変動が生じているが、日本の債券市場では相場の転換点で債券価格の大きな変動が観察されることが多い。長期金利大幅上昇のリスクが存在するから、債券投資家には十分な注意が求められる。

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