年金改革法は史上最悪の悪法
昨年来、〈103万円の壁〉、〈106万円の壁〉、〈130万円の壁〉などの言葉が飛びかってきた。
〈103万円〉は所得税に関するもの。
〈106万円〉は健康保険、厚生年金等の社会保険に関するもの。
103万円はいわゆる〈課税最低限〉を象徴する言葉。
年収がこの水準に達するまでは所得税負担が発生しないが、この水準に到達すると所得税負担が発生する。
ただし、逆転現象は生じない。
他方、〈106万円〉と〈130万円〉は社会保険料負担が発生する境界線で、こちらは、この水準を超えるといきなり多額の社会保険料負担が発生するために、より多く働いたのに、逆に手取りが減少するという〈逆転現象〉が発生する。
〈働き控え〉が問題だとされてきたが、〈働き控え〉を引き超すのは主として〈106万円〉と〈130万円〉。
岸博幸氏というコメンテーターがいるが、昨年11月10日のTBS番組で、「106万円の壁」撤廃の流れが浮上したことを、
「この問題、マジで怒ったほうがいい」
「収入を増やすという減税の効果は完全に消えます。本当にみんな怒るべきです」
と述べた。
この指摘は正しい。
問題は岸氏がその後もこの主張を貫いているのかどうかだ。
年金改革法制定が強行されようとしている。
自公に加えて立憲民主が賛成に回っている。
就職氷河期世代の年金受給額が将来減るから、その金額をかさ上げするために厚生年金の積立金を流用する対応を含んでいる。
年金制度の根幹を破壊する〈世紀の悪政〉である。
この法律の中に〈106万円の壁〉、〈130万円の壁〉撤廃が含まれている。
106万円と130万円は企業規模による相違で、従業員51人以上の企業では106万円が、従業員5人以上の企業では130万円が、社会保険料負担が発生する境界になる。
多く働いたら社会保険料をごっそり取られて手取りが大きく減少する。
したがって、労働者はこの境界を超えないように細心の注意を払ってきた。
当たり前のことだ。
多く働いたら手取りが大幅に減ってしまうのだから、これに近づけば働き控えの対応が取られることは必然だ。
私は〈106万円の壁〉、〈130万円の壁〉と言わずに〈106万円の沼〉、〈130万円の沼〉を表現してきた。
この水準を超えると〈沼に嵌(はま)る〉。
自公立による法改定は〈すべての労働者が沼に嵌る〉ようにするもの。
すべての労働者に〈沼に嵌ってもらいます〉という法改定なのだ。
これをメディアがどう表現しているのだろうか。
「パートなどで働く人が厚生年金に加入しやすくなるよう「年収106万円の壁」と呼ばれる賃金要件を撤廃する法案」
としている。
労働者が選択して厚生年金に加入するのかどうかを決めるのではない。
労働者が選択して加入するのかを決める制度なら、
「パートなどで働く人が厚生年金に加入しやすくなるよう」
と表現してもよいだろう。
全然違う。
境界に関係なく有無を言わせず社会保険に加入させる。
加入させて保険料をむしり取る制度改定を行うということ。
制度改定を正確に表現するなら
「パートなどで働く人を厚生年金や組合健保に強制的に加入させるために「年収106万円の壁」と呼ばれる賃金要件を撤廃する法案」
ということになる。
「厚生年金に加入すれば、将来の年金受給額が増えるから損はしません」などの甘言が流布されているが、その説明を完全否定する内容が法律に盛り込まれている。
自分の老後のために支払い続けた保険料の積立金を他者のために流用することが法律に含まれている。
これが行われるなら、厚生年金への加入を強要されたときに、自分が支払う保険料が自分が老後に受け取る年金額に反映されないことを意味する。
年金制度が崩壊しないための最重要の鉄則が
〈インセンティブ・コンパティビリティ〉
と呼ばれるもの。
支払う保険料が自分に返らぬなら、誰も年金制度に加入しなくなる。
最悪の法案を自公立が押し通そうとしていることをすべての国民が認識する必要がある。
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