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2024年9月30日 (月)

袴田事件が示す三つの重大問題

袴田事件の再審裁判で無罪判決が示された。

1966年6月6日未明、静岡県の民家で味噌製造会社の専務一家4人が殺害され、集金袋が奪われ、この民家が放火された。

この強盗殺人・放火事件の通称が「袴田事件」。

静岡県警清水署は7月4日、味噌製造工場および工場内従業員寮を捜索し、当時同社の従業員であった元プロボクサー袴田巖氏の部屋から極微量の血痕が付着したパジャマを押収した。

その後、8月18日に清水署特捜本部は袴田氏を一家4人殺害事件の被疑者として逮捕し、検察は起訴した。

殺人犯人は巨漢で柔道の有段者である専務と格闘して殺害したと見られることから、元ボクサーである袴田氏が捜査線上に浮上したとされる。

袴田氏は当初は無実を訴えていたが、1日12時間にわたる尋問を受け、殴打されるなどの拷問を加えられて自白を強要されたと見られる。

犯行を頑強に否認していた袴田氏は勾留期限3日前に犯行を自白したとされる調書に署名、押印した。

しかし、同年11月15日の一審初公判で袴田氏は起訴事実を全面否認。

以後一貫して無実を主張してきた。

裁判が継続するなかで翌1967年8月31日に、味噌製造工場にある味噌の1号タンクから従業員が血染めの「5点の衣類」が発見された。

事件発生後に、当然のことながら味噌工場はくまなく捜索されている。

その捜索で発見されなかった5点の衣類が事件発生から1年2ヵ月以上も経過して突然発見されたのである。

しかし、この証拠物に合理性に反する事実が存在し、これが袴田氏の冤罪を晴らす決定打になった。

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翌1968年9月11日、静岡地裁(石見勝四裁判長)は袴田氏に死刑判決を示した。

しかし、この裁判では45通の自白調書の44通が、任意性がないとして証拠採用されなかった。

1通だけが証拠採用され、これが死刑判決を示す重要な根拠とされた。

この裁判の裁判長裁判官は石見勝四、右陪席裁判官が高井吉夫、左陪席裁判官が熊本典道だった。

熊本裁判官は袴田氏が無罪であるとの心証を抱き、無罪判決を書いて裁判官3人による合議に臨んだが、石見と高井を説得できなかった。

2対1で死刑との結論が出され、熊谷裁判官は不本意ながら死刑判決を書いたとのこと。

熊本裁判官は「評議の秘密」をのちに公開した。

死刑判決は確定し、袴田氏は逮捕以来、身体を拘束され続け、死刑確定後は死刑囚として収監され続けたが、死刑判決に対して再審を求める請求をし続けた。

その再審請求の活動が実り、2014年3月27日に、静岡地裁刑事第1部(村山浩昭裁判長)が再審開始と、袴田氏の死刑及び拘置の執行停止を決定。

袴田氏は同日午後に東京拘置所から釈放された。

この決定を示した村山浩昭裁判長は、

「袴田氏は捜査機関によってねつ造された疑いのある重要な証拠によって有罪とされ、極めて長期間、死刑の恐怖の下で身柄を拘束されてきた」、

と指摘したうえで、

「無罪の蓋然性が認められるのに、このような過酷な状況に置かれてきたことは、これ以上の身柄拘束を正当化できなくさせる事情である」、

「(袴田氏の)拘置をこれ以上継続することは、耐え難いほど正義に反する状況にあると言わざるを得ない」

として拘置の執行停止を決定した。

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そして、紆余曲折の末、2024年9月26日、静岡地裁(國井恒志裁判長)は袴田氏に無罪判決を言い渡した。

一度死刑が確定した被告が無罪判決を受けるのは免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件に続いて5例目。

検察が判決を不服として控訴しなければ袴田氏の無罪が確定する。

検察はこれ以上、罪を重ねるべきでない。

控訴を断念して袴田氏の無罪を確定させるべきである。

静岡地裁は9月26日の判決で

「(捜査機関による)証拠には三つの捏造がある」

と結論した。

第一に、「自白」調書が肉体的・身体的苦痛を与えて得たものであるとした。

第二に、犯行着衣とされた「5点の衣類」が捜査機関によって加工・隠匿されたものだと認定した。

第三に、5点の衣類に含まれるズボンと同じ素材の切れ端が、袴田さんの実家から押収されたのも「捜査機関によって捏造されたもの」とも認定した。

発見された5点の衣類に付着した血痕が赤みを帯びていたことについて、裁判所は検察と弁護側双方による実験結果や複数の専門家証言を踏まえて、衣類が発見されたタンク内で衣類を1年以上みそ漬けすれば「血痕は赤みを失う」と指摘したうえで、捜査機関による捏造と認定した。

重要なことが三つある。

第一は、この冤罪事件が「氷山の一角」であること。

第二は、「血痕の赤みの変化」という証拠が存在したために冤罪が解かれることになったこと。

逆に言えば、こうした物証がなければ冤罪は晴らされなかったことになる。

第三は、冤罪は晴らされたが真犯人が捕らえられていないこと。

真犯人は野放しにされ、無罪放免にされている。

この点を見落とせない。

これが日本の刑事司法の現実であることを認識しなければならない。

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