日銀政策修正が適正であるわけ
7月31日の日銀政策決定会合に前後して日本の株式市場が大荒れになった。
しかし、行き過ぎた混乱は修復されつつある。
株価が急落した当時、日本の証券会社関係者から恨み節が発せられた。
「日銀が悪い」
インターネットの専門チャンネルに登場したある証券会社調査マンは日銀に対する罵詈雑言を並べ立てた。
しかし、まったく的外れだ。
私が執筆している市場分析レポートでは7月31日に日銀が金融引き締め策を決定すると予測した。
『金利・為替・株価特報』
https://uekusa-tri.co.jp/report-guide/
7月31日の当日まで、今回は政策変更見送りとの観測が市場では有力だった。
日銀調査局OBまでが金利引き上げ先送りを主張していたほど。
しかし、7月利上げの方向感を日銀が示してきたことを踏まえれば、外部環境が激変していないのに、その方向性を違えることの方が弊害は大きい。
粛々と最小限の利上げを決定することが順当だった。
現実に日銀は利上げを決定した。
『金利・為替・株価特報』およびTRIが主催している『TRI政経塾』では7月後半に日銀政策変更観測によって日本株価が下落する予測も提示していた。
7月31日までに株価は下落し、日銀政策決定を受けて株価は急反発した。
一種の「アク抜け」が生じた。
しかし、その後にある異変が生じ、影響が広がった。
その異変とは7月31日の記者会見で植田日銀総裁が
「引き続き政策金利を引き上げていくことになる」
と発言したこと。
これは明言するべきでなかったと言える。
発言には条件が付されていたが、マーケットはこの部分だけを切り抜いて過剰反応した。
投機筋がこの発言に飛びついて相場を仕掛けたのである。
8月2日発表の米国雇用統計で米国景気後退観測が浮上したことも株価下落の「仕掛け」を増幅させる効果を発揮した。
日経平均株価は7月後半の急落の直前に急騰していた。
6月17日安値37950円から7月11日高値42426円へと4476円、11.8%もの急騰を演じていた。
それが、7月11日高値42426円から8月5日安値31156円まで11270円、26.6%の急落を演じた。
8月5日の日経平均株価下落幅4451円は1987年10月のブラックマンデー翌日の下落幅3836円を抜いて歴代最大になった。
この下落について、事態を正確に理解できない者が日銀の政策が失敗だったとの不満を発出した。
8月8日に執筆した『金利・為替・株価特報』8月13日号では、
「ファンダメンタルズの急変がなければ、緩やかに株価が反発する可能性が高い」
と明記した。
実際、日経平均株価は、その後順調に緩やかな上昇を続け、8月24日には38424円の高値を記録した。
株価変動の想定レンジ内に日経平均株価が回帰した。
重要なのはファンダメンタルズ。
株価評価の基礎は指標からの判断だ。
今期予想利益ベースの日経平均採用銘柄企業の株価収益率(PER=株価/一株利益)は16倍で利回り(一株利益/株価)は6%水準にある。
日本の10年国債利回りは1%以下の水準。
株式の利回りが非常に高い。
利回りが高いというのは株価が安いということ。
日本株価にバブルは発生していない。
株式市場の大波乱が生じたのは、実は日本だけだった。
米国株価は雇用統計で一瞬、小幅下落したが、すぐに元の水準に回帰した。
NYダウは7月17日に41,376ドルの史上最高値を記録後、8月5日に38,499ドルの安値を記録したが、8月23日には41,207ドルまで値を戻した。
2877ドル、7.0%の下落を示したが、下落幅の94%をすでに戻してしまったのである。
8月23日にジャクソンホールでFRBパウエル議長が講演して9月利下げの方向性が確定的になった。
経済・金融の安定確保に最重要の役割を果たすのが金融政策。
日本の金融政策が是正され、日米の金融政策が適正に運用されるようになったことは極めて望ましいことだ。
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