巧妙かつ適正な日銀政策修正
7月31日の金融政策決定会合で日銀が短期政策金利引き上げと国債買い入れ額の減額方針を決めた。
ブルームバーグ社が7月19-22日に実施したエコノミスト調査では、今会合での利上げ予想は29%だったが日銀は行動した。
私が執筆している会員制の経済金融市場分析レポート
『金利・為替・株価特報』
https://uekusa-tri.co.jp/report-guide/
では、今回会合での利上げ決定を予測してきた。
同時に、日銀は今回会合で短期金利引き上げを決定するべきだと指摘してきた。
日銀は実際に短期金利引き上げを決定した。
日銀は政策金利の無担保コール翌日物金利を、従来の0-0.15%程度から0,25%程度に引き上げた
日銀は同時に、金融市場からの国債買い入れについて、これまでの月間6兆円程度を、原則として四半期ごとに4000億円程度ずつ減額し、26年1-3月に3兆円程度まで圧縮することも決めた。
GDP統計では、直近4四半期連続で実質民間最終消費支出が前期比減少を記録しており、個人消費の弱さから日銀は利上げを見送るべきとの意見も一部エコノミストから示されていた。
たしかに日本経済の基調は弱い。
しかし、景気の弱さへの対応を現在の日本の金融政策に負わせるのは誤りである。
日本の金融政策運営上の最大の課題はインフレ亢進と日本円暴落である。
行き過ぎた金融緩和が激しいインフレと日本円暴落をもたらした。
「異常な金融緩和政策」を修正=是正することは当然のこと。
日銀総裁が黒田東彦氏から植田和男氏に交代して、金融政策正常化が初めて可能になった。
植田和男総裁は外野の不規則発言に囚われることなく、着実に金融政策正常化を進めている。
基本的に正しい政策対応が示されている。
今回の政策決定会合で利上げ決定に反対したのは
中村豊明、野口旭の両審議委員。
いずれもインフレ推進派の審議委員であると理解できる。
中村豊明氏は日立製作所出身の人物。
2012年8月6日の参議院「税と社会保法制度一体改革特別委員会」中央公聴会に、中村氏は経団連税制委員会企画部会長の肩書で公述人として出席。
私も公述人として出席した。
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=118014402X00120120806¤t=1
中村氏は消費税率を10%に引き上げる消費税増税法案に賛成の立場で意見陳述した。
私は当然のことながら、反対の立場で意見を述べた。
この消費税大増税から日本経済は構造的停滞に陥っている。
公聴会意見陳述で私は日本政府がバランスシート上、資産超過である事実を指摘したが、このことについて中村氏は
「私自身も、先ほど植草さんが言われた国のバランスシートを久しぶりに見たんですけれども、一千兆円あって純資産が三十六兆しかないということですから、自己資本比率三%ですので、その一千兆円の借金の金利からいくとあと数年で破綻するということにもなりますので、ここを早く、負債は減らした方がいいと思います。」(発言178)
と述べた。
民間企業のバランスシートと国家のバランスシートを同列に論じることはできない。
この基礎すら踏まえぬ発言だった。
黒田日銀の野放図な量的金融緩和政策推進に加担したメンバーが政策決定会合メンバーに残存しているが、総裁交代を契機に政策運営の修正が進められている。
日本でもインフレ率はコア(生鮮食品とエネルギーを除く、日本ではコアコアと表現)で2023年に4%を突破した。
激しいインフレを引き起こしてしまった。
インフレが亢進し、賃上げが行われても実質賃金が減少する状態が続いている。
厚労省統計では労働者一人当たりの実質賃金は2022年4月から26ヵ月連続で前年比減少を続けている。
米国のFFレートは5.5~5.75%の水準にある。
インフレ率の日米差は小さく、名目金利差がそのまま実質短期金利差になっている。
この巨大な実質短期金利差が日本円暴落の重要な原因になっている。
これらの状況を踏まえれば、日銀の政策修正は当然のもの。
しかも、日銀は7月会合での利上げ実施を従前より示唆してきた。
正当性のある政策修正が決定されたと言える。
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