日銀政策運営の正常化
日本の長期金利=10年国債利回りが1%水準を突破。
11年ぶりのこと
金融政策運営について各種意見が提示されているが、適正な見解は広範に示されていない。
2012年12月の第2次安倍内閣発足以来、
インフレ誘導=超金融緩和政策
が推進されてきた。
これと表裏一体の関係にあるのが黒田日銀の金融政策である。
黒田東彦氏は異例の日銀総裁2期連投を果たした。
その10年間、超金融緩和=インフレ誘導を提示し続けた。
2013年に黒田日銀体制が始動した際、黒田氏、ならびに岩田規久男日銀副総裁は2年以内に消費者物価上昇率を2%以上に引き上げることを公約として掲げた。
岩田規久男氏は公約を実現できない場合、職を辞すことが責任を明らかにするもっとも分かりやすい行動であると国会で明言した。
果たして、インフレ率2%は実現しなかった。
このことは国民にとって不幸中の幸いだったが、公約を実現できなければ職を辞して責任を明らかにすると述べた岩田氏はどう行動したか。
そんな話があったことを口に出すこともなく、副総裁の座に座り続けて任期をまっとうした。
日銀副総裁の椅子の座り心地が良すぎたということだろう。
私は2013年7月の参院選前に
『アベノリスク』(講談社)
https://x.gd/iPQAH
を上梓した。
安倍内閣の本性はこれから明らかになる。
七つの災厄が日本国民を襲うことになると警告した。
インフレ誘導、消費税増税、TPP参画、天下り復活、原発推進、壊憲、戦争推進の悪夢が日本を襲うことを詳述した。
この警告は基本的に現実のものになったと言える。
このなかでインフレ誘導について次の見解を示した。
黒田日銀がインフレ誘導政策を遂行するが、成功すると言えない。
インフレ誘導にはマネーストックの拡大が必要だが、マネーストック拡大を誘導できる保証がない。
結果としてインフレ誘導は実現しない可能性が高い。
他方、インフレ誘導政策そのものが適正でないことを詳述した。
物価上昇率が小幅プラスの状況が生まれること自体に問題はない。
本来、財やサービスの価格は、市場の需給で値上がりするものと値下がりするものに分かれるが、「値下がり」が一般的にあまり実施されない慣習下で平均物価が下落すると、本来生じるはずの価格差が顕在化しにくくなるという問題が生じる。
「相対価格の調整が進みにくい」という問題が生じやすくなる。
このことから、物価水準平均では小幅プラスになる状態が望ましいとは言える。
しかし、インフレそのものが各経済主体に与える影響は異なり、とりわけ、消費者、労働者、生活者、預金者にマイナスの影響を与える点が重要。
逆にインフレは、賃金を支払う企業、債務者に利得を与える。
一言で要約すると、インフレは賃金を支払い債務を抱える企業に利益を与える一方、賃金を受け取り、預金者である一般市民、労働者に不利益を与える。
そもそもインフレ率を引き上げるべきとの主張は、企業の実質労働コスト引き下げを目的に提唱されたものであることに目を向ける必要がある。
このことを詳細に指摘した。
しかし、日銀が提唱したインフレ誘導の方法は短期金融市場に潤沢に資金を供給するというものだった。
短期金融市場に日銀が潤沢に資金を供給しても、その短期資金を元手に金融機関が融資を拡大しないとマネー残高は増大しない。
マネー残高が増大しなければインフレは誘導されず、このことから私は日銀のインフレ誘導が成功しない可能性が高いと指摘した。
実際に大規模金融緩和にも関わらずマネーストックは大幅に増大せず、インフレ誘導は失敗に終わった。
インフレは労働者=消費者=預金者=生活者に不利益を与えるものだから、インフレ誘導が失敗したことは不幸中の幸いだった。
だが、状況は2021年から23年にかけて激変。
日本で4パーセントを超えるインフレが発生してしまった。
当然、日銀はインフレ抑止にかじを切り替える必要があったが黒田氏はこれを拒んだ。
日銀総裁が植田和男氏に代わり、ようやく日銀の政策修正が進展し始めた。
その一環としての1%長期金利出現。
これを非難することは適正でない。
金融政策運営の基本を再確認する必要がある。
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