日銀政策修正が必須である理由
2%のインフレが持続的かつ安定的に実現するまで金融緩和を維持する。
これが日銀の主張。
日銀の植田和男総裁は5月9日の衆院財務金融委員会で
「持続的・安定的に物価2%が達成されるという見通しに至った場合、現在の長短金利操作をやめ、その後、バランスシートの縮小という作業に取りかかっていきたい」
との考えを示した。
「インフレ率2%が持続的・安定期に達成されるという見通し」が生じれば金融緩和政策を修正するとの意味になる。
ここでいうインフレ率とは消費者物価上昇率のこと。
物価上昇率には細かくいうと三つある。
総合指数、生鮮食品を除く総合、生鮮食品及びエネルギーを除く総合、の三つだ。
生鮮食品を除く総合を「コア物価指数」、生鮮食品及びエネルギーを除く総合を「コア・コア物価指数」と呼ぶ。
生鮮食品とエネルギー価格は金融政策以外の要因で変動することが多く、政策運営としては金融政策からの影響を受ける「コア・コア指数」の変動を重視するということ。
日本の物価上昇率の現状はどのようなものか。
総合指数は本年1月に前年同月比4.3%上昇を記録した。
2%インフレ目標をはるかに超えている。
2023年5月は前年同月比3.2%上昇。
コア指数は本年1月に前年同月比4.2%上昇を記録し、5月は3.2%上昇。
もっとも重要な指標と言える「コア・コア指数」は本年1月が前年同月比3.2%上昇、本年4月が4.3%上昇。
日銀は、
「2%インフレが持続的・安定的に達成される見通しが生じていない」
として、大規模金融緩和を維持しているが、現在の数値推移はこの判断と異なる。
2%を超えるインフレが持続し、これが長期的に持続するリスクが増大している。
植田総裁は
「今後、賃金が物価の上昇に跳ね、さらにまた物価・賃金の上昇につながっていくという循環を、確認できる状況になるのを待ちたい」
と述べたが、インフレが進行する際に賃金が上昇して、最重要の指標である「実質賃金」の上昇を見込めるのかどうか。
この点が最重要。
実は、この点に関しては、インフレ誘導が実は正しくないという実証的なデータが存在する。
日本の労働者の実質賃金は過去26年間、減少し続けた。
この日本で、過去26年間に5回だけ実質賃金が増加した局面がある。
その5回の実質賃金上昇局面には共通する背景が存在する。
インフレ率がマイナスに転じる状況を「デフレ」と呼ぶ。
労働者の実質賃金はインフレの局面で減少し、デフレの局面で増大する。
名目賃金が大きく変動しないなかで実質賃金の増減を左右しているのは物価動向なのだ。
インフレが進行すると実質賃金は目減りし、デフレになると実質賃金が増大する。
つまり、労働者にとって望ましい物価動向はインフレでなくデフレなのだ。
日本の労働者実質賃金指数は2021年5月に前年同月比3.1%増加した。
ようやく実質賃金が水面上に浮上した。
ところが、その実質賃金が本年1月に前年同月比4.1%減少。
本年5月でも前年同月比3.0%減少だ。
企業が賃上げに動いたが、賃上げを実施できる企業は体力の強い大企業に限られる。
インフレを超える賃金上昇が全体に広がることはない。
日銀の最大の責務は「物価安定」。
ここでいう「物価安定」とはインフレを抑止すること。
米FRBもECB(欧州中央銀行)も英BOE(英蘭銀行)もインフレ抑止を最重要目標に据えて金融引締め政策を実行している。
日銀だけが大規模金融緩和政策を維持してインフレ誘導を実行している。
その悪影響が広がっている。
日銀は必ず政策修正に追い込まれる。
日銀は市場に強制されるかたちで政策修正に追い込まれる前に、自発的に軌道修正を実行するべきだ。
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