植田和男日銀総裁の特性
日銀の新体制が始動し、初めての政策決定会合が開かれている。
日銀の新総裁には植田和男氏、副総裁には氷見野良三氏、内田真一氏が起用された。
氷見野氏は元金融庁長官、内田氏は日銀理事を務めていた。
氷見野氏は私と同年次。
大蔵省当時の親交があるが、極めて温厚で学識が深い。
日銀総裁を含めて中央銀行トップに求められる資質は以下の三点。
第一は、高度の専門能力。
金融政策、マクロ経済学の専門家であることが必要な資質である。
第二は、現実の経済・金融情勢を的確に把握する現実分析能力。
優れた学者が高い現実分析能力を備えているとは限らない。
中央銀行トップは現実の経済と対峙する。
現実の経済金融変動について洞察する実学としての洞察能力が求められる。
中央銀行出身の理論的エキスパートであっても、現実の情勢判断を誤り、時期尚早の金融引き締め策を強行して失敗した中央銀行トップも少なからず存在する。
第三は、市場との対話、政治過程との対応における高度な対応能力。
金融政策運営には政治からの強い風圧がかかる。
政治からの風圧で政策対応を誤った中央銀行トップは枚挙に暇がない。
中央銀行トップは金融市場と適切な対話能力を持つことを求められる。
金融市場に的確なメッセージを提供し、政策変化を円滑に金融市場に吸収させることが重要。
「サプライズ」が必要な局面がないとは言えないが、いたずらに金融市場を混乱に陥れることは回避されるべきだ。
とりわけ、金融市場が警戒する政策運営については、比較的早い段階で方向を金融市場に示唆して、現実の政策実行の段階での市場大波乱を回避することが望ましい。
あらかじめ金融市場に金融政策運営の見通しに関する必要な情報を提供することを「フォワード・ガイダンス」と表現されるが、この提供を円滑に実行することが重要になる。
この基準に照らして考えるとき、三つの要件を完全に満たしているのが米国FRBのイエレン前議長やパウエル現議長。
適切なFRB議長人事が米国経済運営を支えてきた点での両者の貢献度は極めて大きい。
日本においてこの三つの要件を満たしていた中央銀行トップの筆頭は福井俊彦氏。
白川方明氏は高度な専門能力を有し、優れた現実分析能力を有していたが、政治からの風圧をかわす点で万全とは言えない面があった。
過去の経過を見るならば、日銀出身の総裁が成功し、大蔵省出身の総裁が失敗したとは言い切れない。
日銀出身の佐々木直氏がインフレへの対応に失敗し、後任の大蔵省出身の森永貞一郎氏がインフレへの対応に成功を収めたことは特記に値する。
中央銀行トップの役割は一段と大きくなっている。
この局面で岸田内閣は冒頭の日銀人事を遂行したが、適正な人事であると評価できる。
上記の三要件を満たす人材は多くない。
このなかで希有な人材のなかから植田氏起用を決めたことは評価できる。
元副総裁の雨宮佳孝氏も要件を備える人材であると言えるが、雨宮氏は黒田日銀の大規模金融緩和一本槍の政策運営のサポート役を任じていたことから、とりわけ日銀OBの反発が強かったと伝えられている。
総裁への就任を雨宮氏自身が固辞したとも伝えられている。
植田和男氏は日銀人事を定める国会議決に伴う国会質疑において政治的能力を発揮した。
現行法制では国会の同意がなければ日銀執行部に就任できない。
現在の国会は自公の与党が国会における圧倒的多数議席を占有している。
自民党のなかにはアベノミクス信奉者が多数存在する。
かれらは黒田日銀の政策運営に対する批判を許さない。
このことから、植田氏は黒田日銀の政策運営を否定するわけにはいかなかった。
今後の政策運営における自由度を確保しつつ、これまでの政策運営に対する肯定的評価を示し、政治的な軋轢発生を回避した。
植田氏は金融政策運営の軌道修正の必要性を認識していると考えられるが、その実施においては慎重な漸進的変化を指向することになると考えられる。
まずは無難に出港を果たすことが重要であると認識されていると思われる。
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