日銀サプライズ人事の評価
日銀の次期総裁、副総裁人事に関する情報が報道された。
総裁に東京大学名誉教授の植田和男氏、副総裁に前金融庁長官の氷見野良三氏、日銀理事の内田真一氏が起用される方向にあると報じられた。
日経新聞は日銀の雨宮正佳副総裁に総裁就任が打診されたと報じていたが、雨宮総裁が流れて植田総裁が誕生する見込み。
新聞辞令が排除されて人事案が差し替えになった感も強い。
日経新聞に雨宮総裁案を潰す狙いがあったのかどうか。
重要人事に関する情報の取り扱いには特別の対応が必要になる。
結論から示せば、今回の幹部人事は適正である。
植田和男氏の起用はサプライズ。
事前に気配はなかった。
植田和男氏は金融政策運営の詳細にも通じるエキスパートである。
植田氏は1998年から2005年にかけて日銀審議委員を務めている。
日銀法改定以後の日銀政策決定に深く関与してきた。
植田氏は総裁就任内定が報じられた後にメディアインタビューを受けて黒田日銀の金融緩和政策を維持する方針を示唆した。
この対応は市場への影響を十分に踏まえたもの。
植田氏起用報道を受けて為替市場では日本円が上昇する反応が見られていた。
しかし、植田氏の発言を受けて円は反落した。
日銀トップの発言が金融市場にどのような影響を与えるのかを知悉(ちしつ)している。
私は1985年から1987年にかけて丸2年間、大蔵省財政金融研究所で植田和男氏と同室で仕事をさせていただいた。
85年から86年にかけての私の任務は売上税導入に向けて、大型間接税を導入した場合の経済効果算出だった。
中曽根内閣が大型間接税導入を計画していた。
そのための理論武装と経済効果試算を財政金融研究所が担当した。
このときに大型間接税導入に向けての世論操作プロジェクトもスタートした。
TPRと呼ばれるプロジェクト。
TPRはTaxのPRという意味。
政界、財界、学界3000名リストが制作され、この全員を説得するプロジェクトが実施された。
詳細については機会を改めて記述する。
結局、中曽根内閣は大型間接税導入を断念した。
このことにより大型間接税導入の経済効果算出プロジェクトは終焉した。
1986~87年に私の任務となったのが短期金融市場における日銀政策の分析である。
もとより、私の担当専門分野は財政金融政策だった。
この時期に集中して取り組んだのが日銀の金融政策オペレーションに関する研究である。
このプロジェクトにおいて指導をいただき、共同で論文を執筆した上官が植田和男氏だった。
植田和男氏は1985年から87年まで大蔵省財政金融研究所主任研究官を務めた。
私は財政金融研究所研究官だった。
このときの研究成果の一部が「短期金融市場における金融政策」と題する論文にまとめられ、東京大学出版会から刊行された
『現代経済学研究』(鬼塚雄丞、岩井克人編著、1988年)
https://www.utp.or.jp/book/b300606.html
に所収された。
短期金融市場における日銀の金融調節の詳細について分析した論文である。
丸2年間、同室で職務に携わり、植田和男氏の研究を間近で拝見させていただいた。
日銀審議委員を8年も務められており金融政策運営の表も裏も精通されている。
2月9日付掲載記事
『インフレ誘導がそもそもの誤り』
https://bit.ly/3XmDMZB
『次期日銀総裁の責務』
https://foomii.com/00050
に1999年から2000年にかけての日銀金融政策運営について記述した。
2000年4月に速水優総裁がゼロ金利政策解除に言及し、8月に解除を強行した。
私は日銀のゼロ金利政策解除が時期尚早であるとして強く反対した。
このときの日銀政策決定会合でゼロ金利政策解除に反対票を投じたのが植田和男氏である。
植田和男氏の日銀総裁への起用は適正人事であると評価できる。
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