朗報と言えぬ日銀金融緩和維持
日米の金融政策運営の相違が際立っている。
米国のFRBはインフレ抑止を最優先課題に位置付け、その実現に向けて金融引き締め政策を敢行している。
前年比でのインフレ率はすでに低下し始めているがFRBのパウエル議長は早期の金融緩和に対して慎重な姿勢を崩さない。
これに対して日銀はあくまでも大規模金融緩和政策を維持するとしている。
1月18日の金融政策決定会合で日銀は、これまでの金融緩和策を維持し、長期金利の上限は引き上げず、0.5%程度のまま据え置くことを決めた。
日銀は12月20日の金融政策決定会合で長期金利変動幅の上限を0.5%程度に引き上げた。
事実上の金利引き上げ政策への転換を示したが、黒田総裁は「利上げではない」と強弁していた。
黒田東彦氏が自分自身の過去の発言に縛られて自縄自縛に陥っている。
問題は日本においてもインフレ情勢の悪化が鮮明であること。
12月の東京都区部消費者物価上昇率は前年比4.0%に跳ね上がった。
40年8ヵ月ぶりのインフレ率が記録された。
日銀の最重要責務は物価安定の維持。
日銀法にも明記されている。
(通貨及び金融の調節の理念)
第二条 日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。
黒田東彦氏は1月18日の記者会見で物価の現状について、
「目先、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から高めの伸びとなる」
としたうえで、
「物価見通しは上振れリスクの方が大きい」
と述べた。
また、大規模金融緩和策を続けることによって、
「企業が賃上げをできる環境を整えることが重要だ」
と述べた。
中央銀行総裁の発言として極めて異例。
日本銀行の最大責務は物価安定。
言い方を変えれば「インフレの防止」だ。
日本でいまインフレが進行している。
そのインフレを抑止することが日銀の責務である。
金融緩和政策はインフレを助長するもの。
米国のFRBはインフレを抑止するために金融引き締め政策を断行している。
ところが、日銀はインフレを推進するスタンスを保持している。
黒田氏は
「企業が賃上げをできる環境を整えることが重要だ」
と述べたが、言葉通りに受け取るなら、
「賃上げが進展するようにインフレ率上昇を誘導する」
ということになる。
このような中央銀行は極めて珍しい。
かつてインフレが深刻であった時代、もっとも警戒されたのは賃金と物価上昇のスパイラルだった。
インフレを追いかけて賃金引き上げが行われる。
すると、賃上げが原因になってインフレがさらに進行する。
最終的にインフレを抑止するための金融引き締め政策は強いものにならざるを得ない。
この強すぎる金融引き締めが深刻な不況を招く。
この判断に立って、インフレ未然防止が重視されてきた。
インフレが加速せぬよう、インフレの初期に厳しい政策対応を示すことが重要とされてきた。
ところが、黒田日銀はインフレが進行するなかで高い賃金上昇率を実現するために、インフレ率が高騰する方向に政策を誘導すると主張していると受け止められる。
株式市場は金融引き締め措置強化が見送られたことを受けて株価上昇の反応を示したが、短期の反応と中期の反応を区別して考えることが必要だ。
黒田日銀は日銀の最重要責務が物価安定にあることを忘れているように見える。
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