国連食料システムサミットの危うさ
本年9月にニューヨークで国連総会と並行して国連食料システムサミットが開催され、フードシステムについての国際的な議論が行われる。
「食料システム」とは食料の生産、加工、輸送、および消費に関わる一連の活動のこと。
国連のグテレス事務総長はサミット開催について次のように述べている。
「現在、私たちは、2030年までに持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための軌道を大きく外れているという認識を新たにしています。
新たに発表された悲劇的なデータによれば、2020年に世界で飢餓に直面した人は7億2,000万から8億1,100万人に上り、2019年比で1億6,100万人増となっています。
コスト高に加え、高い水準にとどまる貧困、収入の不平等が重なり、世界中のあらゆる地域に住むおよそ30億人が、いまだに健康的な食生活を送ることができていません。
実際、飢餓はここ数年増加傾向にあり、2021年現在、私たちは世界中の人々の基本的な権利であるはずのものを提供できていない状況にあります。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は事態を悪化させ、不平等、貧困、食料と疾病との間の関係を明らかにしました。1960年代半ば以降、世界の食料生産は300パーセント増加したにもかかわらず、栄養不良が平均寿命の低下を招く主な要因となっています。
気候変動は、飢餓を悪化させる要因であり、その結果でもあります。私たち人間と自然との戦争には、すべての温室効果ガス排出量の3分の1を生み出す食料システムも含まれます。それはまた、生物多様性喪失の原因の最大80%を占めています。」
斎藤幸平氏が指摘するようにSDGsの欺瞞に目を向けることも必要だ。
SDGsの核心はDevelopment=開発にある。
開発は表現を変えれば成長。
さまざまな問題を生み出している根源に資本主義の活動がある。
飽くなき利潤の追求が資本主義の運動法則。
この根本に対する考察を抜きに人類が直面している問題を解決することはできない。
SDGsは資本主義の運動法則についての考察を抜きに、現行システムのなかでの問題の縮小を目指すだけのものであって、根本的解決に到達できる代物ではない。
国連食料システムサミットの開催に合わせて日本政府が本年5月に
「みどりの食料システム戦略」
中間取りまとめをまとめた。
有機農業面積を2050年までに全体の25%まで拡大すること
ネオニコチノイド系を含む従来の殺虫剤に代わる新規農薬等の開発によりリスク換算で化学農薬使用量を50%低減すること
なども盛り込まれた。
一見すると良い施策のように見えるが強い警戒が必要だ。
政策連合(オールジャパン平和と共生)運営委員でヴィジョン21食政策センター代表の安田節子氏が厳しく指摘する。
有機農業を拡大するというが、2018年時点で耕地面積全体の0.5%=2万3700haの有機農業取り組み面積を、2030年に6万3000haにする目標しか提示されていない。
それを2050年には一気に50倍の規模に拡大するという。
化学農薬の使用量をリスク換算で2050年までに50%低減する方針にも重大な問題が隠されている。
これについても安田氏が厳しい指摘を示す。
提案は、2050年までの30年間、新規農薬が普及するまで、現在の農薬使用を継続することを意味する。
EUが提示している「農場から食卓まで」戦略は、2030年までの農薬使用半減を示す。
同時に、2030年までの有機農業25%を示す。
巨大な落差がある。
2030年から2050年に世界がどうなっているか想像もできない。
世界の枠組みが変わってしまっていることすら考えられる。
10年後から30年後にかけての、実態の裏付けのない想定に意味はない。
現時点から10年後までの変化、努力、実行こそ重要だ。
日本政府が「みどりの食料システム戦略」で示しているのは、「スマート育種システム構築」と「ゲノム編集作物開発」。
鈴木宣弘氏が指摘するように、本来は「地域を喰い物にしようとする「今だけ、金だけ、自分だけ」の人達を排除し、安全・安心な食と暮らしを守る、種から消費までの地域住民ネットワークを強化し、地域循環型経済を確立すること」が重要なのだ。
食料と農業の問題は私たちの命に直結する問題であると同時に地球の命にも直結する重要な問題。
方向性を間違わないための十分な国民的論議が求められている。
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