堤防決壊=大規模水害リスク周知徹底が不可欠
台風19号による被害が広がっている。
台風接近に伴い、初期から中期に集中豪雨に見舞われた静岡、神奈川、東京においては、記録的な豪雨に見舞われながらも、大河川の堤防決壊等の事態が回避された。
しかし、台風の移動に伴い中期から後期に豪雨に見舞われた埼玉、長野、栃木、茨城、宮城、福島などの地域で河川の氾濫が相次ぎ、21河川の24箇所で堤防が決壊した。
川の水量が増大して水が堤防を乗り越える「越水」によって発生する浸水と、川の水量増加によって堤防が壊れる「決壊」によって発生する浸水とでは、被害に著しい差が生じる。
国が管理する大河川では、長野県千曲川(信濃川)で発生した大規模な堤防決壊など、埼玉、長野、茨城、宮城などの7河川の7箇所で堤防決壊が生じた。
とりわけ千曲川の堤防決壊では大規模な浸水被害が発生している。
このほか、県が管理する河川でも、栃木県の9河川・9箇所、埼玉県の3河川・3箇所、福島県の1河川・1箇所、宮城県の2河川・2箇所で堤防が決壊した。
「越水」は東京都の多摩川など、のべ142河川で発生した。
神奈川、東京地方では、箱根町の24時間雨量が922.5ミリに達し、日本での観測史上最多記録を更新したが、河川の堤防決壊は生じなかった。
上流域のダムが、流入する雨水をせき止め、下流域の河川での越水や堤防決壊を回避する上で重要な役割を果たしたと見られる。
ところが、埼玉、長野、茨城、宮城などでは、国が管理する河川でも堤防決壊が生じ、甚大な被害を発生させている。
堤防決壊を防ぐには堤防強度を強化する必要があり、東京、神奈川の河川では強固な堤防が構築されていたのだろうが、上記地域では、堤防の強度が相対的には弱いものになっていた可能性がある。
堤防決壊は堤防のなかの強度が最も弱い部分で発生する。
大規模な河川の場合でも、全延長のすべての堤防において、例外なく完全に堤防を強化しなければ堤防決壊を回避できない。
大河川であればあるほど、堤防決壊を回避するための堤防強化策を施すことは難しくなる。
とはいえ、堤防が決壊してしまうと被害は甚大になる。
豪雨発生の頻度が上がり、豪雨の程度が急激に拡大している近年の状況を踏まえれば、洪水対策としてのダムの整備と堤防強化策は極めて優先順位の高い施策に位置付けられる必要がある。
台風19号襲来に際して、気象庁は大雨特別警報を発令したが、その意味が正確に理解されていたのかどうかにも疑念が生じる。
記録的な大雨が予想されるときに、何よりも警戒を要するのは河川氾濫に伴う浸水である。
その浸水被害においても、とりわけ警戒が求められるのが堤防決壊による浸水発生である。
堤防が決壊した場合の浸水の状況については、日本全国においてハザードマップが作成され、どの程度の浸水被害が、どの程度の期間持続するかのデータが提供されている。
記録的な豪雨が予想される際に、予防的な避難等がとりわけ必要になるのが、ハザードマップで深い浸水が予想される地域の住民ということになる。
とりわけ、こうした地域における病院や高齢者福祉施設においては、早い時点での対応が必要になる。
大雨特別警報が実際に発令される時点は、すでに屋外に出ての避難が困難になっている局面である可能性が高い。
その局面で、病人や高齢者が避難活動を行うことは困難である。
したがって、大雨特別警報の発令が想定される状況下では、その発令の前の段階で、とりわけ、ハザードマップ上、重大な浸水被害に見舞われる可能性のある地域の病院や福祉施設に対して、通常のプロセスとは別に避難指示を発令することなどを検討する必要が生じている。
また、一般市民に対しても、豪雨による被害の典型事例が、河川決壊による浸水にあることを周知徹底し、ハザードマップ上、リスクの高い地域に居住する市民に対して、避難勧告、指示体系の通常のリスク区分よりは前倒しの対応が必要であることを分かりやすく、繰り返し情報提供する必要がある。
今回の台風19号による死者がすでに全国で34名、行方不明者17名発生していると伝えられている。
事前の警戒情報が流布されていたが、屋外に出て活動した、あるいは自動車を利用した方々が多数、犠牲になられている。
巨大台風襲来時には基本的に外出をしない、早期の避難を実施する、などの行動が命を守る行動ということになる。
この点についての周知をさらに徹底することも重要な課題として浮上している。
水害防止のためのダムの整備、堤防決壊を回避するための堤防強化が引き続き重要な政策課題になることを再確認する必要がある。
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