自白信用性を否定した今市事件訴因変更
2005年12月に日光市(旧今市市)大沢小1年だった吉田有希(よしだゆき)ちゃんが殺害された今市事件の控訴審判決が示された。
宇都宮地裁の一審判決では殺人罪に問われた勝又拓哉氏に無期懲役の判決が示された。
今日の控訴審判決で東京高裁の藤井敏明裁判長は、無期懲役とした一審宇都宮地裁の裁判員裁判判決を破棄したうえで、再度、無期懲役の判決を示した。
一審判決では、勝又氏が当時7歳の女児を、「2005年12月2日午前4時頃」、「茨城県常陸大宮市三美字泉沢1727番65所在の山林西側山道」で殺害したと事実認定された。
殺害場所は遺体が発見された場所とされた。
ところが、控訴審では検察が起訴事実を変更した。
検察は、殺害時刻を「2005年12月1日午後2時38分から同月2日午前4時頃」、殺害場所を「栃木県か茨城県内とその周辺」に変更したのである。
一審裁判員裁判では、自白以外に有罪を裏付ける有力な客観的な直接証拠が存在しなかった。
日本国憲法第38条第3項は、
「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。」
ことを規定しており、この条文に反する判決が示されたとも言える。
公判の過程で、客観的な事実が、検察が起訴事実とした、遺体発見現場での殺害と明らかに矛盾していることが明らかになった。
このために、裁判所が促すかたちで、殺害の場所と日時を大幅に拡大する訴因変更が行われたのである。
一審の裁判員裁判では、客観的な直接証拠がなく、判決文には、
「被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明できない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれているとまではいえず、客観的事実のみから被告人の犯人性を認定することはできないというべきである」
と明記された。
つまり、客観的な直接証拠が存在せず、被告人の自白のみを根拠として有罪判決が示されたものと言える。
検察は勝又氏の自白場面の録音・録画情報を証拠として提出し、これが有罪判決の決め手になったと考えられる。
しかし、その自白内容に重大な矛盾が含まれていることが明らかになった。
第一は、胃内残留物から推定される殺害推定時刻が12月2日午前4時よりは大幅に前の時点であった可能性が高いこと。
第二は、遺体発見現場の状況から、殺害現場が遺体発見現場付近であるとは考えられないこと。
第三は、遺体に勝又氏のDNAが付着しておらず、遺体に残された遺留品の粘着テープから、有希ちゃんでも勝又氏でもないDNAが検出されたこと、
である。
検察の訴因変更は、有罪判断の唯一の根拠としてきた勝又氏の自白供述の信用性を自ら否定するものである。
犯罪の立証の根幹が崩れているのである。
検察が示した起訴事実自体が公判に耐えられるものではなくなったために、検察は訴因変更を余儀なく迫られたわけだが、このこと自体が、犯罪立証の唯一の根拠であった自白の信ぴょう性を否定するものなのだ。
したがって、東京高裁は、一審を破棄して無罪を言い渡すか、百歩譲っても、一審に差し戻す判断を示すべきであった。
刑事司法の鉄則は冤罪を生まないことである。
「たとえ10人の真犯人を逃しても、1人の無辜を処罰してはならない」
これが「無辜の不処罰」と呼ばれる刑事司法の鉄則である。
しかし、日本の現状は違う。
「たとえ10人の冤罪被害者を生み出しても、1人の真犯人を逃すな」
になっている。
被告が真犯人であることに合理的な疑いが存在する場合には、無罪の判断を示さなければならない。
これが刑事司法の鉄則である。
これが完全に踏みにじられている。
メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」
のご購読もよろしくお願いいたします。
上記メルマガを初めてご購読される場合、
2ヶ月以上継続して購読されますと、最初の一ヶ月分が無料になりますので、ぜひこの機会にメルマガのご購読もご検討賜りますようお願い申し上げます。
http://foomii.com/files/information/readfree.html
続きは本日の
メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」
第2103号「合理的な疑いが残る今市事件有罪認定」
でご購読下さい。
『アベノリスク』(講談社)
の動画配信はこちら
著書と合わせてせて是非ご高覧下さい。
2011年10月1日よりメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』(月額:540円(税込)/配信サイト:フーミー)の配信を開始しました。
創刊月2011年10-2012年6月は、このようなテーマで書いています。ご登録・ご高読を心よりお願い申し上げます。詳しくはこちらをご参照ください。
メールマガジンの購読お申し込みは、こちらからお願いします。(購読決済にはクレジットカードもしくは銀行振込をご利用いただけます。)なお、購読お申し込みや課金に関するお問い合わせは、info@foomii.com までお願い申し上げます。
![]() |
あなたの資産が倍になる 金融動乱に打ち勝つ「常勝投資術」~(TRI REPORT CY2018)
価格:1,620円 通常配送無料 |
|
「国富」喪失 (詩想社新書) 価格:994円 通常配送無料 |
|
反グローバリズム旋風で世界はこうなる~日経平均2万3000円、NYダウ2万ドル時代へ! ~(TRI REPORT CY2017) 価格:1,620円 通常配送無料 出版社:ビジネス社 |
|
泥沼ニッポンの再生 価格:1,512円 通常配送無料 出版社:ビジネス社 |
|
日本経済復活の条件 -金融大動乱時代を勝ち抜く極意- (TRI REPORT CY2016) 価格:1,728円 通常配送無料 出版社:ビジネス社 |
|
米国が隠す日本の真実~戦後日本の知られざる暗部を明かす 価格:1,728円 通常配送無料 出版社:星雲社 |
|
安保法制の落とし穴 価格:1,512円 通常配送無料 出版社:ビジネス社 |
日本の奈落 (TRI REPORT CY2015) 価格:1,728円 通常配送無料 出版社:ビジネス社 |
日本の真実 安倍政権に危うさを感じる人のための十一章 価格:1,620円 通常配送無料 出版社:飛鳥新社 |
日本経済撃墜 -恐怖の政策逆噴射- 価格:1,680円 通常配送無料 出版社:ビジネス社 |
20人の識者がみた「小沢事件」の真実―捜査権力とメディアの共犯関係を問う! 価格:1,680円 通常配送無料 出版社:日本文芸社 |
オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史 1 二つの世界大戦と原爆投下 価格:2,100円 通常配送無料 出版社:早川書房 |
アベノリスク 日本を融解させる7つの大罪 価格:1,575円 通常配送無料 出版社:講談社 |
鳩山由紀夫 孫崎享 植草一秀 「対米従属」という宿痾(しゅくあ) 価格:1,470円 通常配送無料 出版社:飛鳥新社 |
金利・為替・株価大躍動 ~インフレ誘導の罠を読み解く 価格:1,785円 通常配送無料 |
消費税増税 「乱」は終わらない 価格:1,470円 通常配送無料 |
国家は「有罪(えんざい)」をこうして創る 価格:1,470円 通常配送無料 |
![]() |
消費増税亡国論 三つの政治ペテンを糺す! 価格:1,000円 通常配送無料 |
日本の再生―機能不全に陥った対米隷属経済からの脱却 価格:1,575円 通常配送無料 |
日本の独立 価格:1,800円 通常配送無料 |
売国者たちの末路 価格:1,680円 通常配送無料 |
知られざる真実―勾留地にて― 価格:1,890円 通常配送無料 |
消費税のカラクリ 価格:756円 通常配送無料 出版社:講談社 |
戦後史の正体 価格:1,575円 通常配送無料 |
日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土 価格:798円 通常配送無料 |
日米同盟の正体~迷走する安全保障 価格:798円 通常配送無料 |
検察崩壊 失われた正義 価格:1,365円 通常配送無料 |
検察の罠 価格:1,575円 通常配送無料 |
「主権者」は誰か――原発事故から考える 価格:525円 通常配送無料 |
原発のカラクリ―原子力で儲けるウラン・マフィアの正体 価格:1,680円 通常配送無料 |
« 文科省汚職捜査でパンドラの蓋開けた検察 | トップページ | 市民はブラックボランティアを容認するな »
「警察・検察・裁判所制度の近代化」カテゴリの記事
- 冤罪は最も深刻な人権侵害(2024.11.01)
- 福井女子中学生殺害事件再審決定(2024.10.24)
- 無罪確定すべき袴田事件(2024.10.08)
- 袴田事件が示す三つの重大問題(2024.09.30)
- 木原事件と財務公用車ひき逃げ殺人(2024.09.19)