詰め甘日韓合意での最終的解決はもとよりあり得ない
安倍首相が非難し、御用メディアが提灯をぶら下げている日韓合意に関する韓国文在寅政権の新方針は次のものだ。韓国の康京和外相が1月9日発表した。
外交省や女性家族省を中心に、被害者や関係団体の声に耳を傾ける一方、隣国である日本との関係を正常に発展させていく方法を真剣に検討してきた。その過程で、何より被害者の尊厳と名誉を回復しなければならないと肝に銘じた。また、両国関係を超えて、普遍的な人権問題である慰安婦問題が人類の歴史の教訓であり、女性の人権を拡大する運動の国際的な道しるべとして位置づけられるべきだとの点も重視した。あわせて北東アジアの平和と繁栄に向け、両国の正常な外交関係を回復しなければならないことも念頭に置いて、政府の立場を慎重に検討した。
(1)韓国政府は慰安婦被害者の方々の名誉と尊厳の回復と心の傷の癒やしに向けてあらゆる努力を尽くす。
(2)この過程で、被害者や関係団体、国民の意見を幅広く反映しながら、被害者中心の措置を模索する。日本政府が拠出した「和解・癒やし財団」への基金10億円については韓国政府の予算で充当し、この基金の今後の処理方法は日本政府と協議する。財団の今後の運営に関しては、当該省庁で被害者や関連団体、国民の意見を幅広く反映しながら、後続措置を用意する。
(3)被害当事者たちの意思をきちんと反映していない15年の合意では、慰安婦問題を本当に解決することはできない。
(4)15年の合意が両国間の公式合意だったという事実は否定できない。韓国政府は合意に関して日本政府に再交渉は求めない。ただ、日本側が自ら、国際的な普遍基準によって真実をありのまま認め、被害者の名誉と尊厳の回復と心の傷の癒やしに向けた努力を続けてくれることを期待する。被害者の女性が一様に願うのは、自発的で心がこもった謝罪である。
(5)韓国政府は、真実と原則に立脚して歴史問題を扱っていく。歴史問題を賢明に解決するための努力を傾けると同時に、両国間の未来志向的な協力のために努力していく。
この問題について、元外務省国際情報局長の孫崎享氏が見解を公表している。
「公式文書すらない日韓合意、韓国の見直しを非難する安倍首相のほうが異常で非常識」
http://biz-journal.jp/2018/01/post_22002.html
孫崎氏は駐イラン全権大使も歴任した外務省のトップエリートの一人である。
日本のあるべき外交について、客観的な視点で適正な指摘をすることで知られている。
本ブログ、メルマガで何度も取り上げてきた2015年12月28日のいわゆる「日韓合意」は、日本の岸田文雄外務大臣と韓国の尹炳世外交部長官による外相会談が行われて従軍慰安婦問題について合意したというものである。
しかし、合意内容について日韓が公式な文書を交わすことはしていない。
日韓の両外務大臣が共同記者会見を開いてそれぞれが合意内容を発表するという形式で行なわれたものである。
この合意のなかに、「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」との表現が盛り込まれたが、日本側が強く求め、いまも求めていることは従軍慰安婦少女像の撤去である。
ところが、日本サイドがもっともこだわっている従軍慰安婦少女像の撤去について、日韓外相合意では、韓国外相が、
「韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、空間の安寧、威厳の維持といった観点から懸念しているという点を認知し、韓国政府としても可能な対応方法に対し、関連団体との協議等を通じて適切に解決されるよう努力する。」
と発表しただけで、慰安婦少女像の撤去を確約していない。
日本政府が外相合意で慰安婦少女像の撤去の確約を取っていないから、慰安婦少女像がそのまま設置されることを問題としないのなら、これで「最終的かつ不可逆的に解決」ということが覆されることにはならない。
しかし、日本政府が慰安婦少女像の撤去を求めるということであれば、2015年12月の外相合意で最終的な解決になることは、もとより期待できることではなかった。
孫崎享氏は、国際約束の形式に、(1)条約、(2)行政レベルでの合意書、(3)署名なしの合意、の三つがあると指摘する。
そのうえで、(2)や(3)の拘束は基本的に行政機関の存続期間に限られるため、新たな政権に順守を求めるなら、新たな政権と新たな約束を取り付けるより方法はないと指摘する。
米国はTPP最終合意文書に署名したが、トランプ大統領は大統領に就任すると直ちにTPPからの離脱を表明した。
国と国の間で交わした合意を一方的に破棄したことについて、安倍首相はトランプ大統領の行動を非難していない。ところが、韓国に対しては、合意の見直しを激しく非難している。
これ以上のダブルスタンダードはないと言ってよいだろう。
韓国では大統領選挙があり、韓国の主権者が新しい大統領を選出し、その新しい大統領が、これまでの外交についての見直しを行っているのである。
たしかに外相合意に「最終的かつ不可逆的に解決」の文言はあるが、日本政府がもっともこだわっている従軍慰安婦少女像の撤去についての確約も取り付けていない合意が「最終的かつ不可逆的に解決」する決め手になるわけがないのだ。
このようなあいまいな合意にしているから問題が解決していないのであり、日本政府が韓国政府を激しく非難していることは、孫崎氏が指摘するように「異常で非常識」であると言わざるを得ない。
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