想定通りの株価上昇下での国民生活困窮
株価上昇とともに2018年が実質的に始動した。2016年年初には中国初の世界経済危機が警戒されたが、2年たって状況は一変している。私は2016年初が陰の極と判断した。中国、新興国、資源国が緩やかに底入れして世界経済が緩やかな改善に進む。圧倒的少数見解であったが、そのように世界経済を展望した。現実に2016年初を境に中国、新興国、資源国は底入れを実現していった。
2016年11月に米国大統領選があった。メディアはクリントンの当選が9割以上の確率であると言い切った。私はトランプ勝利の可能性が十分にあると判断した。そして、金融市場はトランプが当選すれば米ドルとNYダウは大暴落すると宣言した。果たして大統領選で勝利したのはトランプだった。私は2016年12月に刊行した年次版TRIレポート『反グローバリズム旋風で世界はこうなる』のサブタイトルを「日経平均2番3000円、NYダウ2万ドル時代へ!株価再躍動!」と記した。内外株価の本格上昇を予測する見解は圧倒的少数見解だった。1年たって日経平均株価は2万3000円台に乗せた。NYダウは2万5000ドルに迫っている。
振り返って考えると、2016年の年初が大底だった。中国の株価が急落したのは、その直前に中国株価が大暴騰したからだった。大暴騰した株価が反落するのは当然のことで、急落しても株価暴騰が始まった時点と比較すれば3割以上も高い水準に株価は位置していた。したがって、このことが中国経済のメルトダウンをもたらすとは到底考えられなかったのだ。
世界経済は2016年初を転換点に、緩やかな改善基調をたどり、連動してグローバルな株価上昇が観察されている。世界経済の流れは概ね順調であると言ってよいだろう。しかし、経済の内実に目を転じると、そこに重大な問題が横たわっている。言うまでもない。際限のない格差拡大が広がっているのだ。大企業の収益は拡大し、資本のリターンは高まっている。株価は経済全体の変化を反映して変動しない。株価は株式の利益変動を反映して変動するのである。日本経済全体は決して好調と言えないが、上場企業の収益だけは絶好調を維持しているのである。
株価が1万円から2万3000円になって何の文句があるかなどの言葉が聞かれるが、「経世済民(けいせいさいみん)=世を經(おさ)め民を濟(すく)う」の意味で「経済」を捉えるなら、これではまったくだめだ。株価が上昇しても恩恵を受けるのは一握りの人々に過ぎない。圧倒的多数の普通の労働者がどうなるのかが何よりも大事なのだ。労働者一人当たりの実質賃金指数が厚生労働省から発表されている。賃金には固定給、時間外手当、ボーナスがあるが、現金給与総額というのはこれらをすべて合わせたものだ。その現金給与総額の変化から物価上昇分を差し引いた実質賃金指数が発表されている。
実質賃金指数は2009年10月~2012年12月の民主党政権時代にはほぼ横ばいで推移した。ところが、2012年12月の第2次安倍政権発足以降に約5%も下落した。下落の最大の要因は消費税増税の影響だが、消費税率は5%から8%へと3%ポイント上昇しただけだが、実質賃金指数は約5%も減少した。最近になって、実質賃金指数はやや持ち直す傾向を示しているが、おおむね横ばいの域を出ていない。
株価上昇で経済全体が良くなったかのような報道が多いが、株価が表示される上場企業というのは約4000社で、日本の法人数約400万社の0.1%にしか過ぎない。経済全体の上澄みの0.1%の大企業の利益が史上最高を更新し、この利益拡大を反映して株価が上昇しているだけなのだ。
経済全体のパフォーマンスを示すのは実質経済成長率だが、民主党政権時代の実質GDP成長率平均値が+1.8%だったのに対して、2012年12月の第2次安倍政権発足以降のGDP成長率平均値は+1.5%で、あのパッとしなかった民主党政権時代よりも、第2次安倍政権発足以降の日本経済の方がさらに低迷が深刻化しているのだ。安倍政権はそれなのに、消費税を増税して法人税を減税するという経済政策を推進している。主権者である国民の生活を向上させるのではなく、主権者である国民の生活を踏みにじって大企業の利益だけを膨らませる政策を遂行している。
だから、この政権をできるだけ早くに退場させるべきなのである。民を虐(しいた)げて巨大資本を潤わせる安倍政治を終焉させて、大資本に応分の負担を求めて、民の暮らしを向上させる政権を樹立することが、日本の主権者の幸福をもたらす方策である。
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