政権支持の易きに流れ始めるトランプ大統領
米中首脳会談が行われたタイミングで、米国はシリアへのトマホーク攻撃を実施した。
シリアが化学兵器を使用したとの疑いに基く行動だが、事実関係は客観的には確認されていない。
トランプ政権は入国規制の大統領令が裁判所判断によって阻まれ、オバマケア見直し法案の議会提出の延期に追い込まれるなど、厳しい現実に直面している。
現状を打開するためにもっとも手っ取り早い方法は、対外的に「強い姿勢」を示すことである。
政権の常套手段に従ったものと言える。
米軍の方針に異を唱えてきたマイケル・フリン大統領補佐官=安全保障が更迭され、元陸軍中将のハーバード・マクマスター氏が大統領補佐官に就任した。
また、国家安全保障会議=NSCからトランプ大統領の再興参謀であるスティーブン・バノン上級顧問が外されたとも伝えられている。
トランプ政権は親ロシアの外交姿勢を鮮明にしてきたが、共和党主流派はロシア敵対姿勢を崩しておらず、トランプ大統領が共和党主流派に妥協する姿勢が垣間見える。
議会上院は4月7日の本会議で、トランプ大統領が連邦最高裁判事に指名した保守派判事ニール・ゴーサッチ氏を54対45の賛成多数で承認した。
この採決に先立って議会上院は、民主党の議事妨害を打ち切るために60議席の賛成が必要としていた議会規則を単純過半数(51議席)に変更して採決に踏み切った。
これまでは、多数党による強行採決を不適切だとして、可決のハードルを高く設定し、単純過半数への規則変更を「核オプション」と呼んで、これを「禁じ手」としてきたが、今回はこの「禁じ手」を用いたことになる。
一連の経過は、トランプ大統領が政策遂行に際して最大の障害となる、議会共和党との宥和、妥協を図る動きと読み取れる。
ゴーサッチ氏の最高裁判事就任により、トランプ大統領による大統領令発動は大きな障害が取り除かれる。
政権運営を円滑化するために、妥協できる部分は妥協するという、現実的な選択をトランプ氏が進めていることが窺われる。
中国の習近平主席は秋に重要人事を決定する共産党大会を控えており、米中首脳会談を成功裏に終了する必要性に迫られていた。
米国によるシリア攻撃に対して、これを牽制するスタンスを示してきた中国が、今回の米国の措置については、化学兵器による子どもの虐殺などを踏まえて、米国による行動に理解を示した。
トランプ大統領は中国の理解を獲得するタイミングを逃さずに軍事オプションを用いたと理解することもできる。
トランプ大統領が「特異」な大統領から、「通常の」大統領に軌道修正を余儀なく迫られている側面を見落とせない。
今回の米中首脳会談開催に際しては、習近平氏の空港到着にはティラーソン国務長官が出迎えた。
また、習近平夫妻とトランプ大統領夫妻の夕食会は、トランプ氏の別荘であるマールアラーゴで開催された。
2月に安倍首相が訪米した際にも、トランプ大統領はマールアラーゴでの夕食会を設営したが、安倍首相に対する対応と習近平氏に対するトランプ大統領の対応には大きな落差がある。
日本のメディアはまったく伝えないが、外交儀礼上は極めて重要な差異が存在することは認識しておく必要がある。
米国は日本を属国としてしか認識していないと見て間違いない。
安倍政権は昨年秋冬の臨時国会でTPP承認案および関連法案を強行可決した。
TPPで日本政府は全面譲歩。
得るものなく、すべてを喪う外交交渉を展開した。
例えば、日本が求める米国への自動車輸出の関税率引き下げは、
普通乗用車の現行2.5%の関税率が14年間は一切引き下げられないことになった。
米国自動車市場で売れ筋のSUV(スポーツユーティリティーヴィークル)を主体とする「トラック」のカテゴリーの現行25%の関税率は、
29年間、関税率が一切引き下げられないことが決定された。
得るものが何もないとは、まさにこれを指す。
他方、日本政府が「聖域」として守るとしてきた重要5品目のひとつである畜産品の関税率はどうなったか。
牛肉では、現行38.5%の関税率が発効と同時に27.5%に引き下げられ、10年目に20%、16年目には9%に引き下げられる。
豚肉では、現行キロ当たり482円の関税が発効と同時に125円に引き下げられ、10年目から50円に引き下げられる。
まさに、喪うだけで得るものが何もない。
これがTPPの現実である。
安倍政権は国民の富、国民のいのちとくらしを危機に晒す政権であると言わざるを得ない。
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このTPPに代わる「日米経済対話」が4月17日から始まる。
厳しい監視を怠れない。
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