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2016年8月 9日 (火)

日銀量的金融緩和政策が孕む巨大損失リスク

財政法第5条の条文は以下のものである。


第五条 すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。


国債の日銀引受けは財政法によって禁止されている。


国債の日銀引受けが認められると、政府は無制限に財政を拡張できる。


財政の放漫化を招き、最終的に財政の破綻がもたらされ、国債の償還も不能になる。


中央銀行が過大な信用を供与すれば、激しいインフレを引き起こし、通貨価値が暴落する。


第2次大戦に際して政府は日銀引受けで国債を大量発行して軍費を調達し、戦後、激しいインフレを引き起こして通貨価値を暴落させた。


この教訓から戦後に定められた財政法において、国債の日銀引受けが法律によって禁止された。


中央銀行による財政ファイナンスは禁止されている。


しかし、いま、日本では実質的な財政ファイナンスが実行されている。


2014年10月31日に日銀は、


1.マネタリーベースの年間増加額が年間約80兆円に拡大する


2.そのための長期国債買入ペースを国債の保有残高が年間約80兆円増加するようにする


3.ETFとREITの保有残高が、それぞ年間約3兆円、約900億円増加するペースで購入する


ことを決めた。

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国の財政赤字、すなわち、国が発行する新規国債の発行額が40兆円を下回っているなかで、日本銀行が年間80兆円を上回るペースで国債保有残高を増やしている。


財政赤字の2倍の資金供給を日本銀行が行っているのである。


日銀が保有する国債残高は2015年末で288兆円に達し、総資産は400兆円を突破している。


そのGDP比は80%を超えて、大規模な量的緩和政策を実施してきたFRBの資産残高GDP比の3倍に達している。


このことは、二つの大きなリスクを内在している。


ひとつは、長期金利が何らかの要因で上昇する場合に、日銀資産の時価が暴落し、巨大損失を計上することである。


いまひとつは、こうした過大な資金供給が将来の激しいインフレをもたらす潜在的な原因になり得ることである。


2013年3月に黒田東彦氏が日銀総裁に起用されて以降、日銀は「異次元」の超金融緩和に突進してきた。


その背後には、この超金融緩和を推進する安倍政権が存在する。


1998年4月に施行された新・日本銀行法は、日銀の独立性を高める者であると期待されたものだが、日銀総裁、副総裁、および審議委員の人事権を握る政府が恣意的な人事を強行すると、日銀は完全に政治権力の支配下に置かれることになる。


米国の場合、FRB理事の任期は14年であり、大統領の2期8年でも、FRB理事をすべて恣意的に揃えることはできない。


日本の場合、総裁、副総裁、審議委員の任期が5年であるため、長期政権が登場し、その政権が恣意的な人事を強行すると、日本銀行は政治権力の


「機関銀行」


と化してしまう。


日本の中央銀行は、いま、歴史的な危機的局面に立たされている。

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長く日本銀行金融研究所長を務め、日本銀行理事、衆議院議員の経歴を有する、日本の金融経済論研究の第一線に立ち続けてきた鈴木淑夫氏が


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を公刊された。


第Ⅰ部 発展期の日本経済と金融政策


第Ⅱ部 日本経済の挫折


第Ⅲ部 金融政策の新たな挑戦


の構成で、時系列で金融政策、金融経済史を総括的に記述、検証されている。


とりわけ、第Ⅲ部では、1999年以降の内外のゼロ金利政策、量的金融緩和政策、マイナス金利政策を詳細に分析、検証している。


そして、今後の政策運営の方向についても提言を示されている。


夏休みは、こうした「硬派」の本格的な専門書をじっくりと読み解く恰好のチャンスでもある。


詳細について、ある程度の専門性を要求する箇所もあるかも知れないが、現実の経済金融の歩みを正確なデータと正確な分析をちりばめて分かりやすく解説されている。


現実の金融経済変動を正確に読み抜いてゆくには、こうした骨太の研究書をベースに置くことが必要不可欠である。


経済金融を深く洞察したい人にとっての必読の書であると思う。

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