矢部宏冶氏新著が明らかにする「売国の作法」
矢部宏治氏が新著
『日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか』
を刊行された。
『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』
(集英社インターナショナル)
に続く第2弾である。
矢部宏治氏は
名著『戦後史の正体』(孫崎亨著、創元社)
をプロデュースされた方でもある。
矢部氏は『戦後史の正体』のなかで同書刊行の問題意識について、次のように述べている。
○人類史上最悪といわれる原発事故が起きた。なのになぜ、それまで「絶対に安全だ」と言い続けてきた責任者たちは誰も責任を問われず、逆に「安全性が確保された」などと言って再稼働を求めているのか。
○公約をかかげて勝利した政権与党の党首(野田首相)が、なぜ公約に完全に反した政策を「命をかけてやりとげる」などと言い続けているのか。
○本来、社会正義の守り手であるべき検察が、なぜ組織ぐるみで証拠を捏造し、有力な首相候補である政治家(小沢一郎氏)に冤罪を着せようとしたのか。検察官の不正はあきらかなのに、なぜ彼らは罰せられないのか。
○右のようなきわめて重大な問題を、なぜ大手メディアは批判せず、むしろ不正に加担しているのか。
そのうえで、
「こうした数々の重大な疑問を解くためには、「戦後日本」が誕生した終戦直後(占領期)まで歴史をさかのぼって考える必要がある」
と記述した。
私も、
『日本の独立』(飛鳥新社)
『日本の真実』(飛鳥新社)
などに著書において、戦後史の変遷を通じて「この国のかたち」を論じてきた。
孫崎氏や矢部氏と問題意識を共有する。
そして、矢部氏は今回の新著において、戦後の日本を米国(米軍)が支配し続けてきた背景と根拠を、具体的な条約や密約の事実を摘示して、見事に表出された。
矢部氏は、本書の冒頭において、米国による日本支配のカギを握る
「密約」
について、先駆的研究をし、重大な業績を残されてきた
新原昭治氏、古関彰一氏、春名幹男氏、我部政明氏、
ならびにその法的構造の解明に着手した
本間浩氏、前泊博盛氏、末浪靖司氏、吉田敏浩氏、明田川融氏、吉岡吉典氏、笹本征男氏の名を列挙して、心からの敬意を表している。
矢部氏はこうした先駆的業績を確認、検証したうえで、米国による日本支配の構造を鮮やかに描き出し、読者に提供された。
その意義は極めて大きい。
つまり、単なる推論、仮説の提示ではなく、法的効力を有する各種の公文書に記載されている「事実」を踏まえて、戦後日本の対米関係を鮮明に描き出しているのである。
そこに描き出された現実は、文字通り、
「米国に支配される日本」
そのものであり、
この
「米国に支配される日本」
が、誰の手によって生み出されてきたのかを明確に摘示するものである。
米国側の主導者が明らかにされるが、それと同時に、日本側の主導者、首謀者も明らかにされる。
その現実は、権力者の立場にいる者が、立憲主義、「法の支配」の大原則を踏みにじり、文字通り暴走するかたちで、日本を米国に売り渡してきた、
「売国の作法」
を明示するものである。
矢部氏がプロデュースしている創元社のシリーズの一冊に
『検証・法治国家崩壊-砂川事件と日米密約交渉』
があるが、文字通り、条約+協定+密約による現実規定には
「法治国家崩壊」
の現実が見えてくる。
吉田茂、岸信介、佐藤栄作の3名による「密約」による「日本売り渡し」の「事実」を私たちは確認し、過去にさかのぼってその責任を追及し、事態の是正を図らなければならない。
岸信介氏の孫にあたる安倍晋三氏が、その「売国の作法」を受け継いでいることは言うまでもない。
「戦後日本の総決算」とは、戦後日本政治における「売国の作法」を明らかにしたうえで、これを払拭することにある。
戦後日本を正確に理解するうえで、すべての日本国民が精読しなければならないのが矢部氏の新著である。
国民必読の書である。
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