バス事故と市場原理万能主義政策運営の関係
すべての基本に市場原理を置くことには弊害があることを留意するべきだ。
市場原理によって資源の配分が効率化することを否定するつもりはない。
市場メカニズム、価格機能が資源配分の効率化をもたらすのは事実である。
しかし、何から何まで市場に委ねれば良いというわけではない。
消費者はモノやサービスの価値と価格を吟味する。
高い価値のあるものを安い価格で買いたいと考える。
当然のことだろう。
しかし、モノやサービスの価値を正しく知ることは、実は難しい。
価値の違いが誰の目にもはっきりと、間違いなく分かるものであれば問題はないだろう。
しかし、多くの分野で、モノやサービスの価値が分かりにくい場合がある。
「安全」
に関する本当の価値は、実は分かりにくい部分がある。
「安全」
が問題になるのは、
例えば、今回のバス事故のような乗り合いバスの安全性。
あるいは、食品の放射線量や添加物、残留農薬などの問題。
ステーキを安く提供する店があるが、消費者がどのような肉を食べているのかについては、その詳細は分かりにくい。
消費者はできるだけ高い価値のモノやサービスを、できるだけ安い価格で買おうとするだろう。
他方で、事業者の多くは、利益を追求する。
事業者が投入するコストに比例してモノやサービスの価値が高まるという前提を置くと、事業者にとっては、できるだけ価値の低いモノやサービスを、できるだけ高い価格で売ることに努めるだろう。
しかしながら、例えば、乗り合いバスのような例で考えると、普通の消費者は、目的地まで行って、目的地から帰ることだけを考えると、そのサービスの価値は、どの事業者でも大差がないから、できるだけ安い価格を提示する事業者のサービスを選択しようとするだろう。
そうなると、市場での競争は、もっぱら価格競争だけに集中することになる。
事業者の競争は単純な価格競争に陥り、そのなかで利益を出そうとすれば、提供するサービスの質を低下させざるを得なくなる。
今回のバス事故では、規則で定められている価格を大幅に下回る価格でバス会社のサービスが提供されていたことが判明した。
消費者には、
「目的地に行き、目的地から帰る」
というサービスの基本内容だけしか見えないが、過酷な価格競争が展開されると、こうした、見た目には分かりにくい部分で、
実質的なサービスの劣化
が生まれることになる。
この構造によって発生した事故であるとすれば、この事故を、単なる偶然によって引き起こされた
「事故」
として済ませぬ部分が浮かび上がる。
人間の生命に関わる重大な問題
であるなら、そこに公的な規制を設定することも検討すべきということになる。
例えば、食品に関して、さまざまな添加物の使用制限がある。
カビの混入も許されない。
賞味期限切れの食品の流通も許されない。
食肉などでは、産地や種別の表示に対する厳しい規制も存在する。
したがって、安全な旅客輸送を確保するためには、厳正な規制の設定と、その規制を遵守させる体制の確立が不可欠なのである。
すべてを市場原理に委ねて、制限のない競争を是認すれば、いくらでも、この種の悲劇が発生してしまう。
2001年の小泉政権誕生以降、この国では、規制撤廃、市場原理が、唯一の正義であるかのような論説が振り撒かれてきた。
そして、市場メカニズムで勝者と敗者が生まれ、勝者だけが肥え太り、弱者がせん滅されてしまうことを是認する風潮が強化されてきた。
その流れを後押ししているのが、いまの安倍政権である。
しかし、その流れが正しくはないことを、私たちははっきりと認識するべきである。
価格メカニズムをすべて否定する考えは毛頭ないが、価格メカニズムだけにすべてを委ねることは明らかな誤りなのである。
価格メカニズムが十分に機能できない部分がある。
その部分には、人為的な手を入れて、人びとの生命を守るための厳しい運用体制が必要不可欠になる。
価格メカニズムにすべてを委ねるという方法は、突き詰めれば、人命が軽んじられる社会を生みだすことにつながるのである。
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