「冤罪捏造」は国家権力による重大犯罪である
岐阜県美濃加茂市長である藤井浩人氏が事前収賄の罪で起訴された裁判で、名古屋地方裁判所は藤井氏に対して無罪の判決を示した。
昨日付ブログ記事、メルマガ記事に記述したが、極めて重要な論点が浮上してくる事案であり、改めてその論点について論じておきたい。
警察、検察による藤井浩人市長に対する逮捕、勾留、起訴は、贈賄者とされる人物の供述にのみ依存するもので、十分な客観証拠に支えられたものではなかった。
贈賄者とされる中林正善受刑者は融資詐欺事件で逮捕、起訴され、すでに有罪実刑判決が確定している。
この取調べのなかで贈収賄事件が浮上した。
藤井市長の弁護人を受任した郷原信郎弁護士は、中林受刑者が虚偽の供述をしたのではないかと推察した。
虚偽の供述が行われた背景について、郷原弁護士は、
「当初の逮捕事実の金融機関からの融資詐欺の立件・起訴に関して、警察・検察と贈賄供述者との間で、「ヤミ司法取引」が行われた疑い」
を指摘したのである。
「金融機関から受けた融資は4億円を超えるとのことであったが、実際に立件・起訴されているのはごく僅かに過ぎない。
他の融資詐欺を不問にすることの見返りに、藤井市長に対する贈賄供述が引き出されたのではないかという疑い」
である。
名古屋地方裁判所の鵜飼祐充裁判長は、
「(贈賄側業者の)供述の信用性に疑いがあり、現金授受があったと認めるには合理的な疑いが残る」
として、無罪の判決を言い渡した。
鵜飼裁判長は判決理由で中林受刑者の供述について、
「不自然な点や変遷など看過し難い問題が多々含まれている」
と指摘。
「核心的な場面について、具体的で臨場感を伴う供述がなされていると評価できない」
と述べた。
中林受刑者が虚偽の供述をしたと見なせることの理由として、
「融資詐欺で捜査を受け、捜査機関の関心をほかの重大な事件に向け、捜査の進展を止めたいと考えたり、自身の情状を良くするため、捜査機関の意向に沿う行動に出ようと考えることは十分あり得る」
と指摘した。
郷原信郎弁護士が想定した図式を裁判所が認める形となった。
藤井浩人氏が無罪判決を勝ち取ることができたことは誠に喜ばしいことである。
しかし、郷原信郎氏のような「剛腕」弁護士が弁護人を受任していなければ、このような結果を得ることができたとは言い切れない。
このことを含めて、今回の事案は、刑事訴訟事案に関する多くの問題点、論点を提示したと言えるだろう。
第一の論点は、警察、検察による、立件の強引さである。
藤井氏の逮捕、勾留、起訴は、中林受刑者の供述に基づいている。
その証言だけで犯罪が立証されているわけであり、十分な客観証拠によって犯罪の立証が支えられていない。
痴漢冤罪事件においても同様の構造が蔓延するが、この種の十分な裏付けのない犯罪立証が、極めて深刻な人権侵害をもたらすのである。
第二の論点は、日本においては、警察、検察による、逮捕、勾留、起訴の時点で、大半のメディアが、有罪視、犯人視する報道を大々的に展開する。
基本的人権を尊重する大原則に基づくなら、
刑事司法の鉄則は「無辜の不処罰」であり、
何人も有罪が確定するまでは無罪を推定されなければならない、という
「無罪推定の原則」
が厳しく適用されなければならない。
「無辜の不処罰」
とは、
「たとえ10人の真犯人を逃すとしても、1人の無辜を処罰してはならない」
というものである。
「無辜」とは無実の人間のことである。
警察、検察が逮捕、勾留、起訴したとしても、その時点で有罪が確定しているわけではない。
とりわけ、被疑者が否認している「否認事件」においては、この原則が徹底的に守られる必要があるのだ。
第三の論点は、逮捕、勾留、起訴というプロセスが生じ、メディアが犯人視報道を展開するなかで、市民がその流れに乗ってしまう傾向が極めて強いことである。
人間は社会的存在である。
社会の一般大衆の視線から、完全に独立して存在し得る人間はほとんど存在しない。
社会の一般大衆が、権力の横暴と、これに加担するメディアの暴力に対して、無警戒であり、その「犯人視」論調に乗ってしまうことが、無辜の人間の基本的人権を深刻に侵害してしまうのである。
これらの論点を踏まえて、三つの問題解決策が直ちに実行されてゆかねばならない。
第一に、取調べ過程の全面、完全可視化。第二に、メディアの犯人視報道の全廃、第三に、「無罪推定原則」の社会における確率、である。
政治権力、行政権力が犯罪をねつ造することが後を絶たない。
その典型事例が、
「人物破壊工作」=”Character
assassination”
である。
続きは本日の
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