浮上する日本経済を撃墜した史上最大のデフレ財政
1996年6月25日、橋本龍太郎政権は、消費税率を2%引き上げる方針を閣議決定した。
国会では住専問題処理のために6850億円の公的資金を投入するかどうかをめぐって紛糾した直後だった。
国会は6月19日に閉会した。
橋本政権は、住専国会終了で与野党攻防に間隙ができたタイミングを狙って消費税増税方針の閣議決定を行ったのである。
日経平均株価は翌日の22,666円をピークに下落に転じた。
1990年にバブルの崩壊が始まって以来、日本経済は長期低迷に苦しんだ。
日経平均株価は92年8月18日には14,309円に下落。
その後、景気対策が発動されると株価反発、経済浮上が生じたが、93年は冷夏などの影響で、94年は日銀が早すぎる金融引締め政策に進もうとして経済を暗転させた。
日本経済がバブル崩壊後の不況を克服するたしかな手ごたえを得たのが95年から96年にかけてであった。
95年の円高局面で日銀が政策を大転換し、金融緩和政策を強化した。
村山政権は14兆円の景気対策を決定し、財政金融政策総動員のスタンスを明示した。
政策総動員によって日本経済の方向は好転し、96年に日本経済はバブル崩壊後、初めて明確な回復軌道を実現させつつあった。
私は、96年の最重要の経済政策問題が消費税増税問題になると判断し、消費税増税問題が日本経済再悪化の引き金となる事態を回避しなければならないと考えた。
97年度の増税が日本経済の浮上を破壊してしまう可能性を憂慮し、これを回避するための政策提言を展開したのである。
1996年6月に刊行された東洋経済新報社『論争』96年7月号に、
「財政再建最優先論に異議あり」
と題する論文を発表した。
ここで提示した政策提言は、1997年度の財政緊縮策を消費税率の1%引上げのみに留めよというものだった。
この施策によるデフレ効果は2.5兆円=GDP比0.5%である。
この程度の財政緊縮であれば、日本経済の回復基調を破壊しないと判断した。
私が論文でもっとも強い警告を発したのは、日本経済の地下に巨大な不良債権問題のマグマが潜んでいることだった。
行き過ぎた緊縮政策を強硬実施すれば、株価下落=経済悪化を通じて、不良債権問題を一気に爆発させてしまう。この問題に最大の警戒を払うことが最重要であることを訴えた。
しかし、橋本政権はこの道を選ばなかった。
橋本政権が97年度に実施した政策は、消費税5兆円増税、所得税2兆円増税、社会保障負担2兆円増大、公共事業削減4兆円だった。
合計13兆円のデフレ政策を実行したのである。
この結果、96年6月26日に22,666円だった株価は下落に転じ、98年10月9日には12,879円にまで暴落した。
そして、97年秋の三洋証券、山一證券、北海道拓殖銀行の破綻、98年の日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の破綻が生じていった。
懸念通りの金融大波乱が生じたのである。
株価は96年6月26日から下落に転じていた。
私は当時執筆した『金利・為替・株価週報』に、22,666円の株価が「666」であり、地獄への転落を暗示していることを記述した。
http://www.uekusa-tri.co.jp/report/index.html
「666」とは、ヨハネの黙示録に出てくる悪魔の数値なのである。
96年10月20日の総選挙を経て、96年12月に橋本政権は13兆円のデフレ政策を予算に盛り込んだ。
この政策決定を受けて、日経平均株価はついに2万円を割り込んだのである。
97年年初、日経平均株価は1月7日から1月10日にかけて急落した。
NHKは急遽、『クローズアップ現代』でこの問題を取り上げた。
私はこの番組のインタビュー取材に応じた。
そのなかで、株価下落の主因が橋本政権の行き過ぎた緊縮財政にあることを説明した。株価は96年6月の増税閣議決定から始動していること、96年12月に超緊縮政策を予算案として決定したことから日経平均株価が2万円を割り込んだことなどを説明した。
しかし、放映されたVTRには、私の発言の核心はすべてカットされていた。
『クローズアップ現代』は、橋本政権が財政改革で緊縮財政政策を推進しているなかで、これに抵抗する勢力が新幹線予算に調査費を計上したことだけを大きく取り上げ、財政構造改革に対抗する力が表面化したことが株価下落の原因になったとのトーンで制作された。
NHKは私の主張を一切紹介せず、橋本緊縮財政を全面支援する番組を制作しただけのことなのだ。
私をVTRに出演させたのは、橋本緊縮財政に反対の論者にも意見を聞いたとの「アリバイ」を作るためだけだったのだと思われる。
この図式と、今回の安倍政権による増税決定は酷似している。
続きは本日の
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