イエレン氏が次期FRB議長に指名される見通し
いまから2ヵ月前、8月4日付の本ブログ記事
「金融市場を読み解く鍵は米経済とFRB議長人事」
同日付メルマガ第630号記事
「イエレン副議長が次期FRB議長最適任者」
に次のように記述した。
「FRBのバーナンキ議長は来年辞任すると見られている。
その後任に誰が就任するか。
ローレンス・サマーズ氏とジャネット・イエレン氏の二人の人物が有力候補として浮上している。
私は、イエレン氏の議長就任が望ましいと思うし、そうなると予想している。」
当時の金融市場では、次期FRB議長に就任するのは、ローレンス・サマーズ元財務長官であるとの予測が支配的であった。
日本経済新聞などは、9月14日付朝刊の一面に
「FRB議長サマーズ氏」
の見出しを掲載して、サマーズ氏が次期FRB議長に選任されるとの見通しを記述した。
ところが、オバマ大統領は、次期FRB議長に、現FRB副議長のジャネット・イエレン氏を指名することになる見込みである。
予測を外した報道機関はこのニュースを大きく取り扱わないが、結局、もっとも適正なところに着地点が見出されることになる。
私は、次期FRB議長にサマーズ氏ではなくイエレン氏が指名されるべきであるし、また、そうなるであろうとの予測を記述した上記のメルマガ記事のなかで、次のように記述した。
「ウォール・ストリート・ジャーナル紙に、プリンストン大学教授で元FRB副議長のアラン・ブラインダー氏が、「イエレン氏がFRB議長の最適任者」と題するオピニオンを寄稿した。
私は、ローレンス・サマーズ氏、ジャネット・イエレン氏、アラン・ブラインダー氏の3名全員に面識がある。
とりわけ、ブラインダー氏には、以前は年に数回、定例でプリンストン大学を訪問してきた。
イエレン氏は、同氏がクリントン政権下で経済諮問委員会(CEA)委員長を務めていた際、クリントン大統領の訪日の際に、東京で日本のエコノミスト数名と意見交換会をした際に会談した。
サマーズ氏は、同氏が初来日した際、私がアテンド役を命じられた。
知名度ではサマーズ氏が上回っているが、FRB議長に適任であるのは、イエレン氏であると私は判断する。
ブラインダー氏も同じ判断を示している。
FRB議長は極めて重要な職責である。
米国経済に影響を与えるだけでなく、世界経済、世界金融に影響を与える、世界でもっとも大事な人事であると言って過言でない。
バーナンキ議長の前任者であるアラン・グリーンスパン氏は、「マエストロ」と評されたが、やはり、極めて有能な中央銀行トップであった。
FRB議長に必要な資質とは何か。
それは三つあると私は判断する。
第一は、経済・金融情勢を正しく洞察する鑑識眼
第二は、経済金融情勢判断に基づいて正しい政策対応を判断できる政策対応能力
第三は、その判断をFRB内部でまとめ、議会を納得させ、国民に理解させる調整能力と説明能力
この三つを備えることが、FRB議長に求められている資質である。
グリーンスパン氏とバーナンキ氏は、この三つの基準を満たす稀有の人材である。
ブラインダー氏もこの三つを兼ね備えている稀有の人材である。
しかし、ブラインダー氏の場合は、この上に求められる「政治的駆け引き」の技量を発揮しなかった。能力の問題というよりは、意志の問題であると思う。
ブラインダー氏は、政治的駆け引きまで駆使してFRB議長になろうと思わなかったのだと思われる。
しかし、資質としてはFRB議長にふさわしいものを有していると私は判断する。
金融市場では、イエレン氏がインフレに対するハト派であるとの情報操作が行われているが、これは間違っている。
その誤りをブラインダー氏が的確に指摘し、そのうえで、次期FRB議長にふさわしいのは、イエレン氏であると唱えているのである。
ブラインダー氏は、三つの重要な歴史事実を摘示する。
第一は、1996年の事例である。FRBは1996年、金融政策を引き締めから引締め緩和へと、たくみにかじ取りし、「完璧なソフトランディング」へと導く手助けをした際に、イエレン氏が極めて重要な役割を果たしたことだ。
FRBは94-95年にかけてインフレの危険性を回避するために大幅な引き締め策を取り、その後、緩和策に転じて経済を完全雇用という「滑走路」に穏やかに「着陸」させた。
ブラインダー氏は、FRBのこの離れ業は当時のアラン・グリーンスパン議長の手腕によるところが大きいとしながら、イエレン氏の有意義な脇役ぶりを正当に評価する。
ブラインダー氏によると、当時の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録に、イエレン氏が同僚たちに引き締め過ぎることがないよう促していた事実が記載されている。
第二は、サンフランシスコ連銀総裁を務めていた時代である2005年の時点で、「不動産市場というタイタニック号が氷山に向かって突き進んでいる」と警告していた事実だ。
米国のサブプライム金融危機が火を噴くのは2007年後半以降のことだ。2007年から2009年の大混乱は、グリーンスパン氏が「100年に一度の金融津波」と表現した、歴史的大混乱である。
NYダウが史上最高値を記録したのが2007年10月であるから、イエレン氏の警告が、まさに稀有のものであったことがよく分かる。
イエレン氏は銀行の安易な融資姿勢に警鐘を鳴らし、FRB理事会の甘い対応にも明確な不満を示していた。
イエレン氏は銀行セクターに対しても厳しい姿勢で臨むことが予想され、このことから、ウォール・ストリートがイエレン氏を攻撃する情報を意図的に流布しているのである。
サマーズ氏はウォール・ストリート金融機関の顧問職を引き受けてきており、ウォール・ストリートとの癒着関係が、FRB議長就任への障害になるとの見方も浮上している。
ブラインダー氏の指摘は、暗にサマーズ氏が不適任であることを示すものであるとも思われる。
第三は、2007年夏に金融危機がヒートアップし始めた際、この問題が深刻なリセッション(景気後退)を招く可能性があることに最初に気付いたメンバーの一人がイエレン氏であったことだ。
2007年8月7日のFOMC後の声明が、「インフレが抑制されない危険がFOMCのもっぱらの懸念である」とした際、イエレン氏は次のように反論していた。
「それではまるで、(景気の)大きな下振れリスクは認識しているが気にすることはない、今後ももっぱらインフレを注視していればいい、と言っているようなものだ。これには私は納得できない」
この発言が、のちに公表されたFOMC議事録に記載されていることをブラインダー氏が指摘するが、イエレン氏は、FRBの金融緩和の遅れにも的確に警鐘を鳴らしていたのである。
この三番目の事例から、イエレン氏には「ハト派」のレッテルが貼られることになったとブラインダー氏は指摘する。
しかし、上記の三事例を見れば、イエレン氏が金融緩和に偏りを持った、いわゆる「ハト派」の人物でないことは一目瞭然である。
サブプライム金融危機の原因になった、2000年代前半の金融緩和の行き過ぎに対しても、誰よりも早く警鐘を鳴らしていたのがイエレン氏なのである。
ウォール・ストリートは、金融機関との「関係」が深いサマーズ氏のFRB議長就任を求めるだろうが、FRB議長への最適任者はイエレン氏である。
ブラインダー氏は、FRB議長に求められる何よりも重大な職責は、百家争鳴、唯我独尊のメンバーが参集するFOMCをまとめ上げるためには、
「知性、外交的手腕、説得力を絶妙に併せ持っていることに加え、相手を不快にさせることなく反論できる能力」
が必要であり、これらのすべてを本質的に兼ね備えているのがイエレン氏であると指摘する。
オバマ大統領に決定権があり、オバマ大統領が賢明な判断力を有するなら、オバマ大統領は必ずイエレン氏を次期FRB議長に起用するはずである。」
この予測が適正であったことが、間もなく示されるだろう。
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