ノーベル経済学賞:人間の経済行動分析の重要性
2013年のノーベル経済学賞が米国の経済学者である、
米エール大のロバート・シラー教授(67)
米シカゴ大のユージン・ファーマ教授(74)
およびラース・ピーター・ハンセン教授(60)
に授与されることになった。
3名の経済学者による、株式や債券、住宅などの資産市場の実証的分析、および価格形成理論構築への貢献が評価された。
シラー氏は、心理学を応用した「行動ファイナンス理論」を用い、住宅バブルなど合理的には説明できない市場の動きがなぜ起こるのかを分析した。
また、住宅価格の代表的指標である「ケース・シラー指数」の生みの親であり、08年のリーマン・ショックの原因となった米国の住宅バブルについて早くから警鐘を鳴らしたことでも知られる。
シラー教授の代表的著作は、
『根拠なき熱狂』(ダイヤモンド社)
“Irrational Exuberance”
である。
シラー教授のノーベル賞受賞を祝福したい。
上記『根拠なき熱狂』の原典が公刊されたのは2000年3月。
米国株式市場の本格調整が始動する直前だった。
NYダウは2000年1月14日に11,722ドルの史上最高値を記録した。この株価が2002年10月9日には7286ドルまで下落した。
4436ドル、37.8%の下落を演じたのである。
シラー教授は米国株式市場が「根拠なき熱狂」に包まれており、早晩、株価の急落が生じるであろうことを予測した。
シラー教授の経済分析の特徴は、上述のように、心理学的手法、人間の行動分析を重視する点にある。
こうした研究分野は「行動経済学」、あるいは「行動ファイナンス」の領域として確立されているが、一般的な理論経済分析と大きく異なっている。
一般的な理論経済分析においては、常に合理的な個人の存在が前提に置かれており、合理的な判断を行い、合理的に行動する「経済人」によって経済が動かされることが前提に置かれる。
しかし、現実の経済活動のなかで行動する個人は、決して合理的な存在だけではない。合理的でない判断を示し、合理的でない行動を取る個人はいくらでも存在する。
シラー教授は純粋合理的に行動する「経済人」だけが存在する、言わば「仮想空間」における一種のパズル思考で現実を分析する理論経済学だけでは説明しきれない経済現象が存在することを重視し、現実の経済分析を行うには、非合理的な側面をも有する人間の行動に光を当てなければ、現実を説明する理論にはならないことを強調したのである。
シラー教授は著書のなかで、一種の群集心理が価格バブルを生み出すメカニズムを説明する例示として分かりやすいケースを提示してみせる。
ある人が初めて訪れた場所で二軒の似たようなレストランを見つけたときに、一方のレストランを特に理由もなく選択する。
あとから訪れる同じ属性を持った人々は、先人が一方のレストランを選択したことを根拠に、同じレストランを選択する。
二つのレストランに格差は存在しないのに、一方のレストランのみに人が集まる。
こうした人間行動のメカニズムを探り、このような人間行動が価格決定に重要な役割を果たすことがあり得ることを重視するのである。
私は『根拠なき熱狂』巻末の解説に記述したが、私も経済分析において、人間行動の分析の重要性を指摘し続けてきた一人である。
数理経済学においては、合理性の仮定を置き、その仮定が成り立つ前提で、精緻な理論分析を展開し、その結果得られる帰結が現実に発生することを予想するとのアプローチを取ることが多い。
しかし、現実経済を動かしている主体は、コンピュータに制御された精緻な人間ではなく、生身の人間なのである。
生身の人間の判断、行動は、完全なる合理性にのみ裏打ちされたものではない。
合理性から大きく外れる行動を取り得るのが生身の人間である。
したがって、現実の経済現象を分析する限り、単純な合理性前提の下での合理的な人間行動だけを分析しても、現実を正しく読み抜くことはできなくなるのである。
シラー教授らのノーベル賞受賞は、別の角度から見ると、既存の理論経済学、理論経済分析の行き詰まりを示しているものであるとも言える。
純粋合理性の仮定の下での経済変動分析は、現実を考察する上での土台を検証する意味で有用であり、意義のあるものだが、それだけで、現実のすべてを理解してしまおうとすることには大きな問題がある。
人間行動の分析を抜きに、経済問題を考察することは、現実問題である経済問題へのアプローチとしては甚だ不十分なのである。
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