国際社会や人類のレッドラインを超えたのは米国
米国の上院外交委員会は9月3日に、オバマ政権が議会に求めているシリアのアサド政権に対する軍事行動の承認について、公聴会を開いた。
公聴会に出席したケリー国務長官は、アサド政権の化学兵器を使用したとの主張を示したうえで、
「国際社会や人類にとってのレッドライン(越えてはならない一線)」を越えた」
と強調して軍事行動への理解を求めたと報じられている。
公聴会に出席した委員の多くは、米国による対シリア軍事行動によって米国がシリア内戦に巻き込まれることへの懸念を繰り返し表明した。
順当で常識ある見解の表明だ。
これに対してケリー氏は「オバマ大統領は戦争をすることへの承認を求めているわけではない」と話し、アサド政権への攻撃が限定的なものであることを強調したが、米国によるシリアへの軍事侵攻に何ら変わりはない。
米国はシリア政府が化学兵器を使用したとしているが、化学兵器を使用したのがシリア政府であることを証明する証拠は示されていない。
客観的な状況証拠に照らして考えれば、化学兵器の使用があったとすれば、シリア政府ではなく、反政府勢力である可能性が高い。
シリアでは現政権が権力を掌握しつつあるが、反米色の強いアサド政権が正統性を保持して国を掌握することを米国が嫌っている。
石油を中心とする豊富な地下資源を保有し、イスラエルの周辺に位置する中東諸国は、米国にとって戦略的に極めて重要な地域である。
このために、米国は米国の利害のために、中東における反米色の強い政府を嫌い、これを転覆する工作活動を展開する。
自由も正義もない、単なる大国のむき出しの欲望が支配しているのが米国の対中東外交である。
シリアのアサド政権が政権基盤を固めることは、米国の望むところでない。
このために、アサド政権に因縁をつけて、武力で反米色の強い政権を排除しようとしているだけだ。
ケリー国務長官が発した言葉は重大である。
「国際社会や人類にとってのレッドライン(越えてはならない一線)」を越えた」
8月28日の米国務省定例記者会見でロイター通信記者が発した質問が想起される。
ロイター記者は、シリアの化学兵器使用疑惑をめぐり、米国による広島、長崎への原爆投下の例を挙げて軍事介入の正当性について問い質した。
会見でハーフ副報道官は、シリア政府が多数の市民を無差別に殺害したとの前提に立って、これが一般的に国際法違反に当たると強調した。
米国は国連安全保障理事会による武力行使容認決議なしに軍事介入することを示唆している。
これに対してロイター記者は、
「米国が核兵器を使用し、広島、長崎で大量の市民を無差別に殺害したことは、あなたの言う同じ国際法への違反だったのか」
と質問した。
ハーフ氏はこの質問に回答できなかった。
米国による大量破壊兵器の使用。
広島、長崎での原爆投下により、罪のない数十万の市民が大量虐殺された。
戦争の趨勢はすでに決着していた。
原爆を投下せずとも、日本の無条件降伏は時間の問題であった。
原爆投下ではなく、核実験だけで、戦争終結の目的は達成されていた。
ところが、米国は広島と長崎に原爆を投下し、罪なき日本市民を大量破壊兵器により文字通り大量虐殺したのである。
これが、
「国際社会や人類にとってのレッドライン(越えてはならない一線)」を越えた」
行為というものである。
ロイター記者の指摘はまさに正鵠を射るものである。
米国議会上院外交委員会は現地時間で9月4日午後、米軍のシリアに対する武力行使を認める決議案を賛成10、反対7で採択し、上院本会議に上程した。
上院本会議は武力行使を認める決議案を可決する可能性が高い。
他方、下院では反対意見も根強く、決議案が可決されるかどうかは、現段階で明確でない。
このことについてオバマ大統領は、9月4日、訪問中のスウェーデン・ストックホルムで、議会が対シリア攻撃を承認しなかった場合でも攻撃に踏み切るのかとの質問に対し、次のように答えたと報じられた。
「私は最高司令官として米国の安全保障のために行動する権利と責任を有している。」
「大統領と議会が結束すれば、我々の対応はより強固なものになるだろう。」
つまり、オバマ大統領は、米議会が対シリア攻撃を承認しなくても、大統領は攻撃を命じる権利を有しているとし、議会に承認を求めることにしたのは、それが米国の対応を強固にすると判断したからだ、と述べたのである。
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