「食の戦争」で米国の罠に落ちる日本
は、東京大学教授鈴木宣弘教授の新著
『食の戦争 米国の罠に落ちる日本』
(文春新書)
の冒頭で、最近の世相をよく反映する言葉として紹介されているものだ。
鈴木氏はこのフレーズが、池田整治氏の、
『今、「国を守る」ということ』
(PHP研究所、2012年)
よりヒントを得たものだと記述する。
鈴木氏は上記新著のあとがきに、
「食だけではない。これ以上、一部の強い者の利益さえ伸びれば、あとは知らないという政治が強化されたら、日本が伝統的に大切にしてきた助け合い、支え合う安全・安心な社会は、さらに崩壊していく。競争は大事だが、あまりにも競争に明け暮れる日々は人心も蝕み、人々は人心共に疲れ果てる。」
と記述する。
いまこの国が直面しているもっとも重要な問題は、この国の進路である。
日本古来の風土、伝統である、「分かち合いの社会」を再構築する道を選ぶのか。
それとも、米国流の弱肉強食社会、「奪い合う社会」を選ぶのか。
その選択が問われている。
安倍政権は2001年に発足した小泉政権の焼き直しの側面を強く有している。
小泉政権が押し進めた政策は市場原理主義、弱者切り捨て、弱肉強食奨励、拝金主義礼賛の政治だった。
しかし、その政策路線のひずみが2008年末の年越し派遣村に象徴される格差社会として私たちの眼前に姿を現した。
人々はようやく大きな誤りに気が付き、世直しの気運が広がった。
これが、2009年に鳩山由紀夫政権を生み出す原動力になった。
しかし、日本の既得権益にとって、これは悪夢のシナリオであった。
日本政治の実権が主権者国民の手に完全に移ってしまえば、既得権益がひたすら利益を追求する道が閉ざされることになる。
米・官・業・政・電の既得権益は、鳩山由紀夫政権を破壊するために総力を結集した。
民主党の内部では、菅直人氏、野田佳彦氏がクーデター政権を樹立し、主権者国民が支配権を確保する政治は、8ヵ月の短命で幕を閉じてしまったのである。
そして、小泉竹中政治の市場原理主義政権=弱肉強食奨励政権が再樹立され、原発・TPP・消費税を猛烈な勢いで推進している。
昨年12月の総選挙で
「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない。日本を耕す自民党!」
のポスターを貼り巡らせた安倍政権は、その舌の根も乾かぬ本年3月に、TPP交渉への参加を表明した。
TPP交渉の情報は隠蔽され、日本を破壊してしまう取り決めが、安倍政権によって強行に締結されようとしている。
鈴木氏は、農林水産省の官僚として日本の農業政策に携わったのちに、学者に転じ、農業の裏も表も知り尽くしている。
その鈴木氏が、いま日本の農業が本当の意味での危機に直面していることを警告する。
その警告は、単に農業だけの問題ではない。
日本社会が、冒頭に示したように、「今だけ、金だけ、自分だけ」の風潮に支配され、社会全体の枠組みが破壊されつつあることに強い警告を示している。
問題の根源にあるのは、政治家、官僚、学者、企業人、ジャーナリストの多くが、「今だけ、金だけ、自分だけ」の行動に走る傾向が著しく強くなっていることである。
いまの自分の金銭的な損得だけを考えれば、米国と大資本が主導する強欲資本主義=欲得主義に同調することが有利であろう。
ただそれだけの判断で、米国と大資本が主導する路線にひた走る者が激増してしまっているのである。
著書では、人間社会にとって根源的に重要な「食料」の意味、食の安全、TPPの本質が詳細に解説されたうえで、最後に、日本の農業の進むべき道が示される。
すべての日本国民が必読の書である。
人は「食」なくして生きてゆくことが出来ない。
同時に、「食」は人間にとって「益」にもなるが「害」にもなる。医食同源という言葉があるが、人間の命と健康にとって、何よりも大切なもののひとつが「食」なのである。
「食政策センター ビジョン21」を主宰される安田節子氏が2009年に公刊された
『自殺する種子‐アグロバイオ企業が食を支配する』
(平凡社新書)
と合わせて読むことによって、遺伝子組み換え(GM)食品の現実がより深く理解できる。
食料、エネルギー、鉱物資源、兵器、原子力、金融、マスメディア
これが、世界の巨大資本が独占支配する対象である。
続きは本日の
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