安倍首相が主導した日銀新体制に二つの落とし穴
元財務官でアジア開発銀行総裁の黒田東彦氏に対して、衆議院議員運営委員会が所信を聴取した。
時事通信社は所信聴取およびその後の質疑で、黒田氏が次の指摘を示したことを伝えている。
「デフレ脱却に向けて、やれることは何でもやる姿勢を明確に打ち出す」
日銀が現在、金融緩和策として行っている国債などの金融資産購入について「規模と対象はまだ十分ではない」と指摘。
また、「より長期のものを大量に買っていくのがある意味自然だ」と述べ、現在は「償還まで3年以内」としている国債購入対象を拡大する考えに言及。
また、日銀が国債の保有額を銀行券の発行残高以下に抑える「銀行券ルール」についても、見直しの「検討対象」だと明言した。
日銀による国債引き受けは財政赤字の穴埋めにつながるとして否定。」
日銀新体制は、政府提案通り、黒田東彦総裁、岩田規久男副総裁、中曽宏副総裁で同意を得られる可能性が高い。
安倍晋三氏の意向が強く反映される日銀の新体制が発足することになる。
メディアは安倍政権支援の姿勢を示しており、日銀の新体制を擁護するスタンスを示している。
金融市場は、昨年11月14日の野田佳彦氏による解散宣言以来、円安・株高で反応してきた。
金融市場のこの反応は、野田民主党が衆院解散に突き進む意思決定を示したことを受けて、民主党惨敗=自民党大勝=安倍政権発足を予想して生み出したものだ。
安倍晋三氏はかねてより、金融緩和政策の強化を主張しており、安倍政権が発足すれば、金融緩和=円安が進行し、株高が進行するとの予想が金融市場を支配してきた。
私は昨年10月29日号の『金利為替株価特報』にこの流れを予測して記述した。
したがって、昨年11月14日以降の金融市場の反応は予測通りの展開であり、順当なものだと判断している。
実際に安倍晋三氏が率いる自民党は12月16日の衆院選で圧倒的多数の議席を獲得し、安倍政権を年末の12月26日に発足させた。
政権発足後も円安・株高傾向は持続したが、その大きな背景になってきたのが、今回の日銀人事である。
安倍首相は自分の考えに共鳴する人を日銀総裁に選ぶことを公言し、実際にその方向で人事が進みつつある。この流れを受けて、円安・株高の流れが維持されている。
国民が日本経済の回復、景気の好転を求めていることは間違いない。この状況下では、株価上昇は国民の一般的な支持を得る格好の要因になる。
過去の歴史を見ても、株価上昇期の政権は勢いを増す傾向を持つ。
株価上昇は景気上昇とリンクする面が強いため、株価上昇が生じる局面では政権は立場を強め、政権を攻撃する側は、攻撃の糸口を見出すのに苦慮することになる。
経済が好転し、雇用情勢が改善することに異を唱えるつもりはない。安倍政権の前に政権を担った菅直人政権、野田佳彦政権は、財務省の財政収支均衡至上主義の流れに身も心も浸かって、経済の回復という最重要の目標を見失っていた。
これが、株価低迷持続=日本経済低迷持続の最大の背景だった。
安倍政権はこの路線を修正し、まずは景気回復策を明確に打ち出した。
その柱となるのが、財政金融政策の総動員である。
財政政策と金融政策の具体策の部分に本質的に重大な問題があるから、この点を正してゆかなくてはならないが、全体として、経済回復を優先するとの方針は正しい。
この正しさが市場変動にも反映されているわけで、安倍政権が得点をあげていることは、裏を返せば、それ以前の菅政権、野田政権の政策運営が、あまりにも稚拙、間違っていたことを明らかにするものだ。
安倍政権は順風満帆な船出を楽しんでいるようだが、そこに重大な陥穽(かんせい)=落とし穴が待ち受けていることを認識する必要がある。
二つの大きな問題を提示することができる。
ひとつは、日銀の独立性を排除し、財務省が日銀を支配することの弊害。
もうひとつは、1990年以来の、いわゆる「日本の失われた20年」の本質がねじ曲げられつつあることだ。
いずれの問題も、すぐに影響が広がる種類のものでない。
時間が経過して、初めて重大な問題が生まれていることに気付くものである。
その点に警鐘を鳴らす存在が極めて稀有である。
しかし、その少数の意見に耳を貸すことが強く求められている。
続きは本日の
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