NHKが「沖縄県の尖閣諸島」と表現するのは適正か
政治権力によるNHK支配を是正する必要がある。
放送法には放送における政治的公平が明記されている。
(目的)
第一条 この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。
第二項に「放送の不偏不党」、「放送による表現の自由を確保すること」
と明記されている。
放送法第四条には次の規定がある。
(国内放送等の放送番組の編集等)
第四条 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
放送番組の編集に当たっては、
「政治的公平」
「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」
が要請されている。
自民党の大西英男議員が衆議院総務委員会において、NHKが孫崎亨氏を出演させて、意見を述べさせたことにクレームをつけた。
大西議員は、
「孫崎亨という評論家、これ外務省出身だが、この人がTPPというのは『もう交渉の余地はない。決まってるんだ。今からでは手遅れだ。』あるいは『これアメリカの国家利益に奉仕する枠組みで、日本はアメリカの植民地化してしまう。』こういう事を、メインコメンテーターとしてとうとうとやっている。
それで私は孫崎亨氏の今日までの政治的な発言について調べてみた。とんでもないんですねー。
これは自らのツイッターや、あるいはテレビ報道でも言っているが『尖閣は中国の領土だ』『竹島は韓国の領土だ』こういったことを主張している。
(中略)
NHKの番組において主たる評論家として、一方的に自己の、我々にとっては正確を欠いている、正しい認識とは思えないような主張を延々と続けていく、こういう事が許されていいのかどうか。
私はNHKの、こうした機会に、率直に見解を伺いたいと思う。」
と述べた。
すでに孫崎亨氏が明快な反論を示されているが、このような低質な議員が横行しているのが日本の現実であり、自民党の現実である。
孫崎氏が『尖閣は中国の領土だ』、『竹島は韓国の領土だ』などと主張している事実は存在しない。
個人名を国会で名指しして批判するのに、その当人の著作に当たり、該当部分を精読することもなく、事実とかけ離れた事実摘示を行い、主張を展開するところに、大西議員の低質さが鮮明に表れている。
大西氏は名誉棄損で訴えられておかしくない。
孫崎亨氏の主張は冷静であり、歴史の事実を丹念に調べたうえでの正論そのものである。
領土問題についてナショナリズムを刺激する前に、歴史的事実関係を正確に把握し、異なる主張の論拠を冷静に見つめ、そのうえで、平和的に解決策を模索することが重要であることを説いている。
尖閣にしろ、竹島にしろ、日本側の主張がある一方で、中国や韓国側の主張もある。
この主張を冷静に分析して、正当性を判断してゆくこと、問題解決の道を探ることが大切であることを主張している。
大西英男議員は孫崎氏の著書『日本の国境問題』を精読して、頭をよく冷やしてから国会の質問に立つべきである。
NHKの問題は、孫崎氏を出演させたことにあるのではなく、大西議員のような卑劣な主張を示す政治権力に実効支配されている部分にある。
この問題を引き起こしている原因は、現在の放送法の規定にある。
NHKが人事と予算の両面で、政治権力の支配下に置かれる構造が、現行の放送法によってもたらされているのである。
大西議員の主張の延長上に浮かぶNHKの状況は、孫崎氏のような論客をNHKが出演させることを自粛、自制させるものであり、これは、政治権力による言論弾圧そのものである。
国会で参考人として意見を述べたNHK会長の松本正之氏は次のように述べた。
「ただ今、話が出た領土問題だか、NHKは日本政府の公式見解を踏まえ、ニュース・番組を制作しており、例えばニュースの原稿でも、尖閣諸島や竹島に触れる場合には、『沖縄県の尖閣諸島、島根県の竹島』という形で、日本の領土であることを明確に表現している。また、この領土問題は国家の主権に関わる重要な問題なので、今後ともニュース番組できちっと伝えてまいりたい。
NHKは放送法により、政治的公平を求められている。一方で意見が対立する問題はできる限り多くの角度から論点を明らかにするというのも求められている。
出演者については、色々な論点を紹介する判断の材料を提供するために依頼をするという事で、報道機関として放送法の求める公平・公正・不偏不党という原点を踏まえ考えてまいりたいと思う。」
松本氏は、放送法の求める公平・公正・不偏不党を述べたが、逆の意味でこの、「公平・公正・不偏不党」が実現していないことが問題なのだ。
松本氏が言及した点に関して言えば、NHKが領土問題に関して、
「尖閣諸島や竹島に触れる場合には、『沖縄県の尖閣諸島、島根県の竹島』という形で、日本の領土であることを明確に表現している」
ことが実は問題である。
放送法の規定を踏まえた、本来のNHKのあり方としては、
「政府が日本の領土だとしている尖閣諸島、竹島」
と表現するべきである。
NHKが「沖縄県の尖閣諸島、島根県の竹島」と表現することは、放送法第四条が規定する、
「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」
「政治的に公平であること」
に反している。
続きは本日の
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