「百害あって一利なし」は読売新聞に贈る言葉
二つの社説を読み比べていただきたい。
ひとつのタイトルは
「尖閣問題を紛争のタネにするな」
次の書き出しで始まる。
「日本が尖閣諸島の魚釣島で進めいている開発調査に対し、中国外務省が公式に遺憾の意を表明するとともに、善処を求めてきた。
この遺憾表明は口頭で行われ「日本の“行為”は法的価値を持つとは認めない」と中国側の立場を明確にしながらも、厳しい抗議の姿勢ではなく、繰り返し大局的な配慮を要望したという。事をあら立てまいとする中国の姿勢がうかがわれるが、わが国としてもこの問題を日中の“紛争のタネ”に発展させないよう慎重な対処が必要だろう。」
さらに次のように続く。
「尖閣諸島の領有権問題は、一九七二年の国交正常化の時も、昨年夏の二中平和友好条約の調印の際にも問題になったが、いわゆる「触れないでおこう」方式で処理されてきた。
つまり、日中双方とも領土主権を主張し、現実に論争が“存在”することを認めながら、この問題を留保し、将来の解決に待つことで日中政府間の了解がついた。
それは共同声明や条約上の文書にはなっていないが、政府対政府のれっきとした“約束ごと”であることは間違いない。約束した以上は、これを順守するのが筋道である。
鄧小平首相は、日中条約の批准書交換のため来日した際にも、尖閣諸島は「後の世代の知恵にゆだねよう」と言った。
日本としても、領有権をあくまで主張しながら、時間をかけてじっくり中国の理解と承認を求めて行く姿勢が必要だと思う。」
もうひとつの社説を読んでいただきたい。
タイトルは
「習・山口会談 首脳対話に必要な中国の自制」
次の書き出しで始まる。
「途絶えている日中首脳会談が再開できる環境を整えるには、日中双方の外交努力が必要だ。」
そして、こう続く。
「中国は尖閣諸島の領有権問題での日本の譲歩を求めているのだろうが、それは認められない。むしろ中国にこそ自制を求めたい。
昨年9月に日本が尖閣諸島を国有化した後、中国政府による日本の領海侵入は恒常化し、領空への侵犯も起きている。
不測の事態を防ぎ、日中関係を改善するには、まず中国が威圧的な行動を控えるべきだ。」
「公明党は、1972年の日中国交正常化の際、議員外交で大きな役割を果たした。今回も、溝が広がった政府間の橋渡しをしようとする意図は理解できる。
尖閣諸島は日本固有の領土であり、領土問題は存在しない。日本政府の立場を堅持することが肝要なのに、気がかりな点がある。
山口氏が訪中前、香港のテレビ局に対し「将来の知恵に任せることは一つの賢明な判断だ」と述べ、「棚上げ論」に言及したことだ。日中双方が自衛隊機や軍用機の尖閣諸島上空の飛行を自制することも提案した。
山口氏は習氏らとの会談では触れなかったが、看過できない発言だ。棚上げ論は、中国の長年の主張である。ところが、中国は1992年に尖閣諸島領有を明記した領海法を制定するなど一方的に現状を変更しようとしている。」
「先に訪中した鳩山元首相は、尖閣諸島を「係争地だ」と述べた。領有権問題の存在を認めたことなどから、中国の主要紙が大きく取り上げた。中国に利用されていることが分からないのだろうか。
国益を忘れた言動は百害あって一利なしである。」
二つの社説の主張のなかに、正反対の事実認識がある。
尖閣の領有権問題についての事実認識だ。
前者の社説では、次のように指摘している。
「尖閣諸島の領有権問題は、一九七二年の国交正常化の時も、昨年夏の二中平和友好条約の調印の際にも問題になったが、いわゆる「触れないでおこう」方式で処理されてきた。
つまり、日中双方とも領土主権を主張し、現実に論争が“存在”することを認めながら、この問題を留保し、将来の解決に待つことで日中政府間の了解がついた。
それは共同声明や条約上の文書にはなっていないが、政府対政府のれっきとした“約束ごと”であることは間違いない。約束した以上は、これを順守するのが筋道である。」
尖閣領有権問題は日本と中国がそれぞれに領有権を主張しているため、1972年の日中国交正常化時と、1978年の日中平和友好条約調印時に
「領有権問題の決着を先送りすること」で日中両政府が了解した。
共同声明や条約上の文書にはなっていないが、政府対政府のれっきとした「約束ごと」であることが間違いないとしている。
「棚上げ合意」が間違いなく存在しているとの事実認識だ。
これに対して、後者の社説では、
「尖閣諸島は日本固有の領土であり、領土問題は存在しない。」
としている。
そのうえで、公明党の山口代表が「棚上げ論」に言及するとともに、日中双方が自衛隊機や軍用機の尖閣諸島上空の飛行を自制することを提案したことについて、「看過できない発言だ」としている。
さらに、鳩山由紀夫元首相が訪中して、尖閣諸島を「係争地だ」と述べ、領有権問題の存在を認めたことについて、
「国益を忘れた言動は百害あって一利なし」
と罵倒する主張を掲示した。
こちらの社説では、「尖閣領有権問題は存在しない、尖閣諸島は日本固有の領土である」との認識が示されている。
まったく正反対の事実認識を示す新聞社説だ。
どの新聞社とどの新聞社が全面対決しているのか興味深い。
正解を示しておこう。
前者は読売新聞社説であり、後者は読売新聞社説だ。
真冬の夜のミステリー。
前者は1979年5月31日付の読売新聞社説
後者は2013年1月26日付の読売新聞社説
である。読売新聞とはこのような新聞である。
こんな新聞を購読するのは「百害あって一利なし」だと言える。
続きは本日の
メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」
第475号「尖閣諸島は領有権係争地であるという真実」
でご購読下さい。
2011年10月1日よりメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』(月額:525円(税込)/配信サイト:フーミー)の配信を開始しました。
創刊月2011年10-2012年6月は、このようなテーマで書いています。ご登録・ご高読を心よりお願い申し上げます。詳しくはこちらをご参照ください。
メールマガジンの購読お申し込みは、こちらからお願いします。(購読決済にはクレジットカードもしくは銀行振込をご利用いただけます。)なお、購読お申し込みや課金に関するお問い合わせは、info@foomii.com までお願い申し上げます。
消費税増税 「乱」は終わらない 価格:1,470円 通常配送無料 |
国家は「有罪(えんざい)」をこうして創る 価格:1,470円 通常配送無料 |
![]() |
消費増税亡国論 三つの政治ペテンを糺す! 価格:1,000円 通常配送無料 |
日本の再生―機能不全に陥った対米隷属経済からの脱却 価格:1,575円 通常配送無料 |
日本の独立 価格:1,800円 通常配送無料 |
売国者たちの末路 価格:1,680円 通常配送無料 |
知られざる真実―勾留地にて― 価格:1,890円 通常配送無料 |
消費税のカラクリ 価格:756円 通常配送無料 |
戦後史の正体 価格:1,575円 通常配送無料 |
日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土 価格:798円 通常配送無料 |
![]() |
日米同盟の正体~迷走する安全保障 価格:798円 通常配送無料 |
検察崩壊 失われた正義 価格:1,365円 通常配送無料 |
検察の罠 価格:1,575円 通常配送無料 |
![]() |
「主権者」は誰か――原発事故から考える 価格:525円 通常配送無料 |
![]() |
原発のカラクリ―原子力で儲けるウラン・マフィアの正体 価格:1,680円 通常配送無料 |
« 新生「生活の党」は旗幟鮮明に躍進すべきである | トップページ | 「本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」」 »
「尖閣海域中国漁船衝突問題」カテゴリの記事
- 平和友好を意図して破壊する輩(2023.05.02)
- テリー・ゴウ氏の穏健な主張(2023.05.01)
- 外交における信義と公正さの重要性(2022.05.25)
- 安保第5条米軍防衛義務に関する幻想(2021.02.15)
- 超やぶへびの前原誠司氏中国漁船言及(2020.09.10)
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 「百害あって一利なし」は読売新聞に贈る言葉:
» 【介護】介護の人手不足深刻 1060人募集も来場110人…香川 [政治経済ニュース・今私の気になる事]
福祉関係の事業所の合同就職説明会「福祉のしごとサポートフェア」(県福祉人材センターなど主催)が24日、高松市内で開かれた。 高齢化が進むなか、介護分野の人手不足は深刻で、就職難の社会情勢とは対照的に売り手市場が続く。事業者側は職場環境の良さなどをPR…... [続きを読む]
» 【第421号】“3K”を超えて4K放送への移行を宣言した日本の大マスコミだが、そもそも番組コンテンツ自体が劣化しているのだ。まずは偏向売国報道を止めて総懺悔すべきなのだ。 [高橋央の『日本社会白書』]
!--
/* Font Definitions */
@font-face
{font-family:Arial;
panose-1:2 11 6 4 2 2 2 2 2 4;
mso-font-charset:0;
mso-generic-font-family:auto;
mso-font-pitch:variable;
mso-font-signature:3 0 0 0 1 0;}
@font-face
{font-family:" ... [続きを読む]
» アルジェリア人質事件をめぐる疑問 [みなと横浜みなみ区3丁目]
アルジェリアの人質事件は、予想したケースの中の最悪の結末で終わった。 一体、彼の地で何が起こったのか。なぜ、日本人がこんなにも多く殺されなければならなかったのか。 私たち日本人は今まで、中東やアラブ世... [続きを読む]
» アルジェリア人質事件と自衛隊の海外派兵 [みなと横浜みなみ区3丁目]
人質事件を奇貨とする安倍政権 (社旗を半旗に掲げる日揮5号館・ 横浜市港南区・1月25日写す) アルジェリア人質事件に関連し、安倍政権内部では案の定、自衛隊の海外派兵を本格化する動きが出てきている。... [続きを読む]
» 【第422号】アメリカが尖閣の棚上げを要求していることの背景には覇権主義の衰退があるわけだが、これを機に日本国は対米自立を果たし、自主防衛中立化に徹するべきなのだ。 [高橋央の『日本社会白書』]
!--
/* Font Definitions */
@font-face
{font-family:Arial;
panose-1:2 11 6 4 2 2 2 2 2 4;
mso-font-charset:0;
mso-generic-font-family:auto;
mso-font-pitch:variable;
mso-font-signature:3 0 0 0 1 0;}
@font-face
{font-family:" ... [続きを読む]
» 広報機関として、権力に阿ねる新聞社 [高橋敏男のブログ]
植草一秀氏の『知られざる真実』ブログにある、 [続きを読む]
« 新生「生活の党」は旗幟鮮明に躍進すべきである | トップページ | 「本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」」 »