活断層存在の可能性で大飯原発は運転中止すべき
関西電力大飯原発の敷地内を走る「F-6断層」が活断層であるかどうかを判断する原子力規制委員会の調査チームが現地調査を終えた。
北側の海に近い試掘溝では関西電力が存在を否定していた断層が確認された。
原子炉に近い山頂の溝では、過去に断層が動いたことを示す粘土が確認された。
この粘土ができたのが40万年前よりも新しい年代であることが確認されれば、活断層である疑いが濃厚になる。
F-6断層の上には原子炉の冷却に使う海水を引き込むための重要な主水路があり、F-6断層が活断層であると判断されれば、原発の耐震設計審査指針に反することになり、大飯原発は運転停止を求められることになる。
ところが、関西電力は再調査の中間報告で活断層であることを否定しており、同社の基本姿勢が問われる。
活断層であるかどうかの判断基準の時間的尺度は40万年である。気の遠くなるような時間である。しかし、これが地殻変動の時間単位なのだ。
大きな地殻変動があるのは今日かも知れないし、1万年後かもしれない。しかし、リスク管理というものの鉄則は「最悪に備える」というものである。英語では、”be on the safe side”と言う。もっとも安全な道筋を進めと言うものだ。
福島の教訓というのは何か。
原発がひとたび重大な事故を引き起こせば、取り返しのつかない事態が生まれるということだ。
福島第一原発事故は、起こり得た経路のなかでは、奇跡的に軽微な事故に留まっている。それでも、日本、そして世界は、未曽有の苦しみに打ちひしがれているのだ。
原発周辺地域に居住する子供たちの甲状腺には明らかに著しく高い比率での異常が確認されている。
底知れぬ巨大な恐怖が周辺地域を覆った状態は、いまもまったく変わっていない。
つまり、原発事故というのは「発生を最大限防ぐ」種類のものではなく、「絶対に発生させてはならない」種類のものなのだ。
「絶対に発生させてはならない」事故であるなら、例えば立地の近く調査にあたっては、40万年基準での断層活動調査に基づき厳格な対応を取ることが必要不可欠なのだ。
この重大な事項に関する関西電力の対応には唖然とするしかない。
活断層が存在するとの疑いが存在するのに、その疑いに真剣に対処してこなかったとの疑いが濃厚である。
そこには、ある種の「差別の構造」がある。
以前にも紹介したが、核廃棄物の「最後の処分地」について、斑目春樹元原子力委員会委員長が放った言葉がある。
「「最後の処分地の話は、最後は結局お金でしょ。
あのー、どうしても、そのー、えー、みんなが受け入れてくれないって言うんだったら、じゃあ、おたくには、これ、その、じゃあ、えー、いままでこれこれと言ってたけど、その2倍払いましょう。それでも手上げないんだったら、じゃー5倍払いましょう、10倍払いましょう。どっかで、国民が納得する答えが出てきます。」
これに対して京都大学助教の小出裕章氏が語った言葉は次のものだ。
「私が原子力に反対する根本の理由は、自分だけがよくて、危険は人に押し付けるという、そういう社会が許せなかったからです。電力を使う都会には原発を作らないというのもそうですし、原子力発電所で働く労働者はほんとに底辺で苦しむ労働者であったりするわけです。こういう社会を私は認めたくないので、原子力に反対してきています。」
二人の人物の言葉をよく吟味して欲しい。
電力会社は原発を推進するが、なぜ、社長が原発を立地する場所に居住地を定めないのか。
あるいは、社長が居住する場所に原発を立地しないのか。
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にも記述したことだが、この構造は戦争も同じだ。
批評家の沢木耕太郎氏は映画「父親たちの星条旗」を制作したクリント・イーストウッド監督が伝えたかったメッセージは次のものであると述べた。
「戦争を美しく語る者を信用するな。彼らは決まって戦場にいなかった者なのだから」(朝日新聞2006年11日6日夕刊「銀の森へ」)
戦争で傷つき、かけがえのない命を失うのはいつも前線の兵士、そして罪のない一般市民である。指揮を執る者は安全な場に身を置き、前線の兵士と戦地の市民だけが犠牲になる。
現代の戦争では最新鋭の兵器が大量に使用される。他方で、この兵器の使用により巨大な利得を手にする大資本がある。
戦争は前線の敵と味方の間で戦われるものではない。
「安全な場に身を置いて指揮する指令者、金融資本、軍事産業」
と、
「前線の兵士、戦地の市民」
との間で繰り広げられるのが戦争なのだ、と私は考える。
そして、犠牲になるのは決まって戦地の兵士と市民である。
世界最大の地震国である日本が原発を保持することは、リスク管理の視点から見て間違った選択だ。
大飯原発についても、活断層が存在する「恐れ」が確認された時点で運転を中止するのが適正な対応である。
このような、「理」に適った対応を取るというのが「中庸」の考え方である。
続きは本日の
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