経済低迷持続化でオバマ大統領が再選された理由
米国大統領選は現職の民主党オバマ氏と共和党ロムニー氏との間で戦われたが、オバマ氏の勝利で決着した。
失業率が7%を超えている状況下で再選を果たしたのはレーガン大統領だけで、米国経済が低迷を続けるなかで、オバマ氏は厳しい戦いを強いられたが、最終的に米国民はオバマ氏を選択した。
「大きな政府」か「小さな政府」か。
「支え合う社会」か「自己責任」か。
「協調外交」か「力による外交」か。
対立する二つの政治思潮のいずれが優勢になるかが問われる選挙でもあった。
これは日本にも共通することだが、一人一人の個人が対立する二つの思潮のどちらを選択するのかという決定ではなく、国民のなかのどれだけの比率がどちらの「陣営」に属するのかが焦点になっている面が強い。
人々が依って立つ基盤が明確に区分=分裂し始めている。
今回の米国大統領選を乱暴に図式化すれば、「99%運動」対「茶会」という見立ても成り立ち得る。
「99%運動」とは、市場原理だけに委ねる経済運営が、ごく少数の超富裕層と大多数の低所得者層への分裂を必然的にもたらすとの判断に基づき、この巨大な格差を是正することの必要性を唱える運動だ。
これに対して「茶会」の立場は、個人の自己責任を重視し、政府は経済活動の結果にできるだけ介入せず、「小さな政府」を目指すべきであるとする立場だ。
オバマ大統領の民主党が99%運動から支持された一方、ロムニー候補は茶会運動に強い影響力を持つポール・ライアン氏を副大統領候補に指名して大統領選を戦った。
世界経済のグローバル化が進み、中国などの新興国が世界経済の一大供給力として組み込まれた結果、主として先進国で結果における経済格差が拡大している。
経済のグローバル化が進展すれば、グローバルな規模で「一物一価の法則」が成り立ちやすくなるからだ。
工業製品価格の大競争が激化する一方、労働者に対する賃金もグローバルに競争が進む。このことが、必然的に先進国労働者の賃金引下げ圧力として作用する。
日本でも米国でも、そして中国でも、ごく少数の超富裕層と大多数の低所得者層とに国民が二分され始めている。
このなかで、少数の超富裕層は、自らの租税負担を増大させないため、「小さな政府」、「自己責任」を主張する。
米国で「茶会」運動に熱心に関わる人々は、概ねこの範疇に属する人々である。
米国建国以来の「自助」と「自由」、そして「小さな政府」を追求する人々が「茶会」運動に賛同し、共和党支持者になっているのが現実だ。
ところが、経済のグローバル化が進み、市場原理の荒波が米国の中間所得者層を襲い、多数の中間層が没落してきた。
グローバル化が進展するなかでITの飛躍的な進歩が、ホワイトカラー中間所得者層の低所得化を一気に推進した。
労働者の二極分化が急速に進展したが、数の上で圧倒的多数を占めるに至ったのは、言うまでもなく新たな低所得者層である。
失業率が8%すれすれという高水準であったにもかかわらず、オバマ氏が再選を果たした背景に、このような米国社会の構造変化があったことを見落とせない。
実際に、オバマ大統領第一期の米国経済は極めて厳しいものだった。
雇用を拡大し、財政赤字を半減することが目指されたが、雇用は拡大せず、財政赤字は倍増した。単に公約と結果だけを比較するならオバマ再選の可能性は極めて低かったはずだ。
それにもかかわらず、オバマ氏が再選を果たした背景には、オバマ氏登場以前の重大な問題の存在がある。
2007年から始動した「サブプライム金融危機」である。
米国住宅不動産価格は2000年から2006年にかけて暴騰した。空前の不動産ブームが米国経済を覆った。この後期に信用力の乏しい個人に巨額の銀行融資=サブプライムローンが提供された。
2006年以降、住宅価格が下落に転じ、サブプライムローンが焦げ付き始めた。
「サブプライム金融危機」の最大の特徴は、それが通常の融資の焦げ付きによるものではなく、資産担保証券を原商品として組成された、膨大な「金融派生商品」=「デリバティブ金融商品」の価格バブル崩壊によって生じた点にある。
組成されたデリバティブ金融商品の想定元本合計は600兆ドルにも達したと見られる。
不動産バブルが破裂してデリバティブ金融商品価格が暴落し、巨大な損失が生まれた。その規模は3兆ドルから6兆ドルに達すると見られる。
この問題が火を噴いたのが2008年から2009年である。
オバマ氏が大統領に就任したのは2009年の1月。まさにサブプライム金融危機の火山が爆発した局面でオバマ大統領が登場したのである。
続きは本日の
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