分裂するアメリカで二つの政治運動が激突する
三つのトップ交代が行われる。
米国では11月に大統領選挙がある。
バラク・オバマ現大統領と共和党のミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事による一騎打ちになる。
世界経済のグローバル化が進展するなかで、「格差拡大=社会の分裂」の先頭を行くアメリカ。
かつての大統領選挙が、中間層の奪い合いであったのに対して、今回の選挙は様相を異にする。
ひとことで表現すれば、「99%運動VS茶会」の大統領選である。
99%運動とは、社会の1%の富裕層が、米国の富の半分以上を支配している現実に対して、格差是正を訴える大衆の運動である。「反ウォールストリート運動」と呼んでもよい。
新自由主義の政策を突き進めれば、結果における格差は際限なく拡大する。
とりわけ、中国などの新興経済大国が台頭し、グローバルに価格破壊=大競争が展開されることに伴い、先進国では、労働コストの断層的な切り下げが広がってきた。
ITの進化は事務労働を担ってきた中間層の存在を不必要にしている。
中間所得層であったホワイトカラー労働者が激減し、ごく少数の資本家層=富裕層と圧倒的大多数の低所得労働者層とに、米国民が分裂する傾向が一段と強まっている。
「99%運動」は社会の下層に追いやられた大多数の一般大衆が、「分配の公正」を求めて生じた社会運動である。
これに対して、米国では独立以来、自由主義的な思想、小さな政府を求める思潮が極めて根強い。
1773年マサチューセッツのボストンで、イギリス本国議会の植民地政策に憤慨した植民地人の急進派が、アメリカ・インディアンに扮装して、港に停泊中のイギリス船に侵入し、イギリス東インド会社の船荷の紅茶箱をボストン湾に投棄した。これがボストン茶会事件である。
18世紀、イギリスとフランスは各地で植民地争奪戦争を繰り返していた。北アメリカでも激しい戦争が繰り広げられ、イギリスが勝利を収めた。
イギリスは戦争債務を処理するために植民地アメリカに税負担を求めた。
植民地側は「代表なくして課税なし」の原則を理由にこれに反対したが、
ボストン市民5人が駐留英軍に射殺される事件も起こり、イギリスに対するアメリカ植民地の反発が強まった。
イギリス本国は植民地側に譲歩し、茶税以外の植民地税負担を撤廃した。
しかし、イギリスが1773年に茶法を制定し、イギリス東インド会社に植民地での茶の販売独占権を与えた。
これに対し、イギリス本国の課税権を認めるものだとしてアメリカ植民地で反対運動が展開され、1773年12月、ボストン港で茶を積んだ東インド会社の貿易船が襲撃され、茶箱が海に投げ捨てられた。
これが「ボストン茶会事件」である。イギリス政府は翌年、強硬な「抑圧的諸法」を出してボストンを軍政下に置いた。植民地側はこれに反発して本国議会の植民地に対する立法権を否認し、イギリスとの経済的断交を決議した。本国と植民地の緊張が高まって、ついに独立戦争が勃発した。
ボストン茶会事件は、イギリス本国のアメリカ植民地に対する課税への反発から発生したもので、税金の無駄遣いを批判し、「小さな政府」を求める考え方がアメリカ建国の理念であるとして、これを尊重する政治運動が「ティーパーティー運動=茶会運動」と呼ばれるようになった。
経済思想としては、市場原理を重視し、政府の介入を嫌うものであり、いわゆる新自由主義の思想と重なる部分が大きい。
「99%運動」が、結果における格差拡大を是正するべきとの、「大きな政府」指向であるのに対し、「茶会運動」は、結果における格差は容認されるべきとの判断を内包する。
ミット・ロムニーは副大統領候補にポール・ライアン下院議員を指名した。
ライアン議員はティーパーティー運動を実行する米国保守層の支持を集めている。
2010年の中間選挙では、ティーパーティー運動がフル稼働し、これによって共和党が勝利を収め、民主党は大敗北を喫した。
この勢いを維持するために、ロムニーはポール・ライアンを副大統領候補に示したのである。
しかし、米国における格差拡大は激烈さを増しており、低所得者層の困窮は熾烈を極めている。民間医療保険を購入できない低所得者層は、医療からも排除されている。
2008‐2009年のサブプライム金融危機において、米国政府は公的資金を金融機関救済に無制限に注ぎ込んだ。
他方で、不動産バブル崩壊で家を失った多数の低所得者層に対する救援措置は何も実行されなかった。
この結果として、反ウォールストリート運動が生じたのである。
今回の大統領選挙は、この意味で、分裂したアメリカの主導権を富裕層が握るのか、それとも大多数の低所得者層=一般庶民が握るのかという側面を有している。
残り二つのトップ交代とは、中国と日本のことである。
そのひとつ、中国の次期トップの姿が急に見えなくなった。
巨大な変動が生じている可能性が出てきた。
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