「対米隷属」派と「自主独立」派のせめぎ合い
孫崎享氏の新著『戦後史の正体』がベストセラーになっていることの意味は極めて大きい。
米国の対日占領政策は1947年に大転換した。
終戦直後のGHQによる対日占領政策においては、日本の徹底した民主化が指向された。
財閥解体、農地解放、労働組合の育成などの措置が一気に実施され、軍国主義国日本は民主主義国に生まれ変わることになった。
この流れのなかで日本国憲法が制定された。
主権在民、戦争放棄、基本的人権の尊重を柱とする、戦後日本の背骨が構築されたのである。
ところが、この憲法が施行された1947年の前半に、日本の新しい方向を定めた米国が、外交の方針を大転換してしまった。
誠に皮肉なことではあるが、日本国憲法の基本を定めた米国自身の方針が大転換してしまったために、日本国憲法の規定、精神と、その後の米国の対日占領政策とが根本的な矛盾をはらむことになった。
日本の民主化は中断され、日本に対する思想統制が一気に強められたのである。
米国の対日占領政策の基本は、「徹底した民主化」から、「日本の反共防波堤化」に大転換した。
同時に、米国は日本を実効支配する意志を明確に保持し、その後、そのスタンスを維持し続けてきた。
このなかで、日本の外交が苦闘し続けたことは言うまでもない。
孫崎氏は次のように指摘する。
「戦後の日本外交を動かしてきた最大の原動力は、米国から加えられる圧力と、それに対する「自主」路線と「追随」路線のせめぎ合い、相克だった」
そして、戦後日本を象徴する「対米追随」=「対米隷属」の路線を代表する人物が吉田茂であり、「自主」=「独立」路線を代表する人物が重光葵(まもる)であり、石橋湛山である。
重光は1945年9月2日に東京湾内の米国戦艦ミズーリ号上で降伏文書に調印した外務大臣である。降伏直後、米国は日本に米軍による軍政を敷き、日本の公用語を英語にするなどの方針を聞かされる。
この事態に対して、体を張った外交を展開し、この方針を見事に撤回させた人物でもあった。
その重光は、米国に対しても「言うべきことを言う」姿勢をとったために排除されることになる。重光の代わりに要職を得たのが、「米国の言うことには隷従する」姿勢を示した吉田茂であった。
そして、GHQによる占領時代、米軍に対する巨額の駐留費を減額しようとした蔵相が石橋湛山であり、石橋を排除して米国の言いなりになったのが吉田茂であった。
この石橋湛山について、政治学者の渡邉良明氏がブログ
に、シリーズで論評を掲載されている。極めて貴重な記述が記されているので、ぜひご高覧賜りたい。
シリーズ第7回記事のタイトルは「湛山と吉田茂」である。
渡邉良明氏は次のように指摘する。
「彼らにとって、湛山は、“最も注意すべき存在”だった。なぜなら、彼が、真の「愛国者」だったからだ。
彼らの“意志”を体して、吉田は、湛山を排除することに尽力したと言え」
る。
(中略)
寡頭勢力と吉田が、いかに湛山を警戒し、彼の言動を封じ込めたかが、よく理解できよう。
湛山の言動を封じる上で、まさに、アメリカの忠実なポチだった吉田は、米国にとって、最も好都合な人物だった。
因みに、吉田は、大の「愛犬家」で有名だった。だが、彼自身が、まさにアメリカ金融資本の忠実な”愛玩犬”だったのである。」
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人の生き方はさまざまだ。
しかし、突き詰めて考えると、人の生き方は、大きく二つに分けることができる。
ひとつは、「自分の利益」を軸に動くこと。正義、公正、真理、善悪、仁義、などには目をつぶる。ひたすら、「自分の利益」になるか、ならないのかを考える。
世の中をうまく渡ってゆくのは、明らかにこちらの種族である。
もうひとつは、「自己の利益」を犠牲にしてでも、正義、公正、善悪、仁義などを優先する生き方だ。明らかに「自己の利益」に反することでも、その方向に進んでしまう。
はたから見れば、この種族に属する者は、厳しい現実に追い込まれることが多い。
実際には、この二つの軸の間を揺れ動くのが人間である。どちらがすべてでどちらがゼロというわけではない。しかし、傾向として、「自己の利益」に軸を置く人と、「公の利益」に軸を置く人は、明瞭に区分されることが多い。
為政者には本来、「公の利益」に軸を置く人物に位置してもらいたいが、残念なことに、現実には逆であることが圧倒的に多い。「自己の利益」を軸に行動する人物が、奸計をめぐらし、巧妙に立ち回るからである。
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