「財政危機の経済学」知識がゼロの安住淳財務相
7月19日の参議院社会保障・税一体改革特別委員会質疑。
委員会室では小沢一郎代表も質疑を傍聴した。
中村哲治議員は、野田内閣が主張する「待ったなしの改革」に待ったをかけた。
格付機関が日本の国債の格付けを引き下げた際に、財務省は日本政府の見解として反論の文書を提示した。
そこで財務省が主張した日本財政を取り巻く状況は基本的に変わっていない。
日本の財政は危機的ではないと主張した財務省が、なぜいま、直ちに増税を実行することが必要だと叫んでいるのか。
到底理解できないと中村氏は語った。
2002年5月に財務省が格付会社に送付した意見要旨は以下のものだ。
いまも財務省ホームページに掲載されている。
1.貴社による日本国債の格付けについては、当方としては日本経済の強固なファンダメンタルズを考えると既に低過ぎ、更なる格下げは根拠を欠くと考えている。貴社の格付け判定は、従来より定性的な説明が大宗である一方、客観的な基準を欠き、これは、格付けの信頼性にも関わる大きな問題と考えている。
従って、以下の諸点に関し、貴社の考え方を具体的・定量的に明らかにされたい。
(1)日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。
(2)格付けは財政状態のみならず、広い経済全体の文脈、特に経済のファンダメンタルズを考慮し、総合的に判断されるべきである。
例えば、以下の要素をどのように評価しているのか。
・マクロ的に見れば、日本は世界最大の貯蓄超過国
・その結果、国債はほとんど国内で極めて低金利で安定的に消化されている
・日本は世界最大の経常黒字国、債権国であり、外貨準備も世界最高
(3)各国間の格付けの整合性に疑問。次のような例はどのように説明されるのか。
・一人当たりのGDPが日本の1/3でかつ大きな経常赤字国でも、日本より格付けが高い国がある。
・1976年のポンド危機とIMF借入れの僅か2年後(1978年)に発行された英国の外債や双子の赤字の持続性が疑問視された1980年代半ばの米国債はAAA格を維持した。
・日本国債がシングルAに格下げされれば、日本より経済のファンダメンタルズではるかに格差のある新興市場国と同格付けとなる。
財務省は
「マクロ的に見れば、日本は世界最大の貯蓄超過国」
「その結果、国債はほとんど国内で極めて低金利で安定的に消化されている」
「日本は世界最大の経常黒字国、債権国であり、外貨準備も世界最高」
だと主張し、したがって、政府債務危機が発生する恐れはないのだと主張した。
この状況は基本的に大きく変化していない。
中村哲治議員がこの点を安住淳財務相に質した。
安住氏の答弁は次のようなものだった。
「日本の個人は金融資産を多く保有しており、債務よりも多い。この個人金融資産が銀行に流れ、その銀行が国債を購入している。」
中村議員は、少し具体的に質問した。
「貯蓄超過の定義は何か」
安住氏が答えた。
「多分、債務よりも貯蓄の方が大きいことをベースに定義しているのではないか」
中村氏が次の質問を提示する。
「日銀の資金循環統計ではどういうことになるか」
安住氏が答えた。
「国民資産がそれだけ多いということだと思います」
中村氏「そこでいう国民資産とは誰を指すのか」
安住氏「個人です」
中村氏「貯蓄超過とは個人のことを指しているのか」
安住氏「そうです」
もうこれ以上は書かない。
要するに、経済学の基礎の基礎の理解も皆無で財務大臣をやっているのが安住淳という人物なのだ。
安住氏のちんぷんかんぷん、頓珍漢、デタラメぶりを三つだけ指摘しておく。
第一に、安住氏は経済のフローとストックの違いをまるで理解していない。
第二に、安住氏は「貯蓄超過」を金融資産が金融負債を上回っている状態と理解しているが、完全な間違いだ。「貯蓄」が「投資」を上回っているのが「貯蓄超過」なのであって、安住氏が主張しているのは、金融資産が金融負債を上回っている「資産超過」であって、零点の回答だ。
第三に、「貯蓄超過」は一国経済全体の状態を指す言葉であって、個人部門の状況を指す言葉ではない。
財政赤字が深刻なのか深刻でないのかを考える基礎的な知識、学識が皆無であることが明白になった。何も理解しないで、なぜ、財政状況が深刻だと判断できるのか。財務省が深刻だと言っているから、言われるままに、深刻だと言っていることがはっきりと分かる。
こんな無責任は存在しない。財政問題の本質をまったく理解しないで、財務省の振り付け通りに動いているだけである。
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