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2011年12月15日 (木)

東電「実質国有化」と「一時国有化」の天国と地獄

経産相を務める枝野幸男氏の暴論を国会は責任を持って糺(ただ)すべきだ。

 12月6日の衆議院震災復興特別委員会での暴論である。
 
 枝野氏は「福島のような事故が再び起こる可能性はあるとの前提の下に再稼働を許可する」方針を明言したのだ。
 
 
 
 しかし、国民の多くは福島のような核暴走事故を二度と起こしてはならないと考えているのではないか。
 
 枝野氏は二度と起こしてはならないと希望はするが、現に福島で事故が起きてしまった以上、今後も起こらないとは言い切れない。したがって、福島のような事故は発生し得るとの前提で原発再稼働を進めていくとの考えを述べた。
 
 
 選択肢はふたつにひとつだ。
 
 福島で起こしてはならない事故が起きてしまった以上、絶対安全が確立できない限り、原発を利用できないと考えること。
 
 事故を起こさないように努めるが、福島で事故が起きてしまった以上、絶対に事故は起こらないとの前提は撤回せざるを得ない。そのうえで、事故は起こるかも知れないとの前提を置いて原発利用を推進する。
 
 国民の生命と健康、日本の運命と直結することがらであるから、国会が基本方針を定める必要がある。
 
 国民的論議なく、事故が起こり得ることを前提に原発再稼働を進められてはかなわない。

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事故を起こした東電であるが、事故を引き起こした以上、適正な責任処理が不可欠である。適正に責任を問うことが、事故を繰り返さないための基本になる。
 
 人類史上最悪レベルの放射能事故を引き起こした。取り返しのつかないことを起こしてしまったと言える。かけがえのない大地と水脈、そして海洋が汚された。この大地と水脈と海洋が原状を回復するには気の遠くなるような時間が必要だ。
 
 かけがえのない故郷を離れざるを得ない住民がどれほど生み出されたことか。
 
 損害賠償規模は東電の純資産額を優に超える。したがって、東電は実質債務超過状態にある。すべての損害賠償債務を現段階で時価評価しなければならない。
 
 厳しいと思う人がいるかも知れないが、法治国家には法治国家のルールがある。資本主義には資本主義のルールがある。
 
 原子力事故が発生した場合の損害賠償のあり方について法律が存在し、そこに問題処理の方法が示されているなら、その法に従う以外に道はない。
  
 東電を法的整理しても、重大な支障は生じない。
 
 これが、唯一の問題処理方法だろう。
  
 
 会社更生法による東電の再建か、一時国有化による東電の再建か、処理方法はふたつにひとつしかないだろう。
 
 原子力事故を引き起こせば、電力会社は破綻する。これが、原子力事故の重みである。それほどの重みのある事故であることは、すべての日本人が実感したところである。
 
 このような適正な責任処理を行うことによって、電力会社は安易に原子力事業に携わることができなくなるのである。価格メカニズムを通じた企業の自己抑制、ディシプリンの利いた企業経営が実現することになる。
 
 ところが、これだけの重大事故を引き起こしながら、政府が安易に当該事業者を救済したらどうなるだろうか。事故を発生させたことに対する責任意識は希薄になり、原子力事業に対する安易な姿勢は正されないだろう。
 
 適正な責任処理を行わないために、問題を引き起こした当事者の倫理感覚が崩れてしまうことを「モラル・ハザード」と呼ぶ。倫理の崩壊だ。
 
 自由主義経済・資本主義経済においては、自由な企業活動が認められているけれども、問題を発生させたときには、発生させた当事者に適正な責任を負わせることが根本ルールになる。自己責任原則と呼ばれたりもする。
 
 東電が実質債務超過状態にあることは明らかであり、この東電を法的整理せずに、政府が公的資金を投入して救済することには、正統性がまったく存在しない。
 
 
 政府は東電に公的資金をひとまず1兆円投入して東電を救済する意向を示しているが、まさに倫理の崩壊、モラル・ハザードを引き起こす政策対応だ。
 
 この施策は実質国有化などと表現されているが、誤った用語法である。
 
 これは、実質国有化ではなく、公的資金による救済である。
 
 
 実質国有化と対称の位置にある措置が一時国有化である。
 
 しかし、一般の人は、この二つの言葉が使われると、両者が似たものであると勘違いしてしまう。
 
 この二つは、まさに対、正反対の意味を持つ処理方法なのだ。「一時国有化」と「実質国有化」ではなく、「破綻処理」と「公的資金による救済」と称するのが正しい用語法だ。
 
 
 90年代から2000年代にかけての金融危機局面において、二つの処理方法が用いられた。
 
 北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行は破綻処理された。しかし、りそな銀行は公的資金で救済された。
 
 小泉-竹中政治は、「退出すべき企業は市場から退出させる」と宣言しておきながら、りそな銀行を最終的に、公的資金で救済した。
 
「退出すべきは退出」と宣言し、「大きすぎるからつぶせない」との考えは取らないと大見得を切った小泉政権が、とどのつまりは「公的資金で救済」では、あまりにもばつが悪い。そこで、「実質国有化」などという、「真っ赤なうそ」用語が作り出されたのであると思われる。

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破たん処理と公的資金による救済と何が違うか。責任処理がまるで違うのだ。
 
 破たん処理の場合、利害関係者がルールに則って責任処理を求められる。
 
 株主、経営者、債権者が法律に沿って責任を問われる。従業員も法の定めによる責任を問われることがある。
 
 これに対して、公的資金による救済の場合は、株主、経営者、債権者の責任が問われないことになる。
 
 りそな銀行の場合には、小泉-竹中ラインが、りそな銀行の経営者を嫌っていたから、経営者だけが追放された。小泉-竹中ラインがりそなの経営者を嫌った最大の理由はりそなの経営者が小泉竹中政治を公然と批判していたからだ。
 
 逆に言うと、この理由でりそな銀行が人為的な自己資本不足に追い込まれたのだと考えられるのだ。
 
 
 りそな銀行の新経営陣には、小泉-竹中近親者だけが送り込まれた。小泉政権によって救済された新銀行は、その後、自民党に対する融資を激増させていった。
 
 他の銀行が自民党への貸出残高を急減させるなかで、りそな銀行の対自民党融資だけが激増したのである。
 
 これ以上の不正が世の中に存在するか。
 
 この事実を2006年12月18日付朝日新聞朝刊がスクープした。しかし、スクープした朝日の敏腕記者は、記事が掲載された日の前日に、東京湾で水死体で発見されたと報道された。
 
 
 一時国有化と実質国有化は天と地ほどに異なる政策である。東電は実質国有化ではなく、一時国有化の道を選択するべきだ。

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