民主党が民主政党なら復興増税は多数決で撤回だ
民主党の税制調査会が党内意見を集約するために開いた総会で、政府が目論んでいる11.2兆円の復興増税について反対意見が噴出したことが報道されている。意見が提示された。復興増税反対意見の噴出は当然のことである。
五つの重大な問題がある。
第一に、大増税の方針は、民主主義の正当なプロセスに反している。
直近の国政選挙は2009年8月総選挙と2010年7月参院選だ。
2009年8月総選挙で、鳩山由紀夫元首相は、2013年秋の衆院任期満了まで大型増税を行わないことを明言した。主権者はこの方針を示した鳩山民主党を大勝させた。
2010年7月参院選に際して、菅直人氏は突如、消費税率10%への引き上げ方針を提示した。主権者国民は菅直人民主党を大敗させた。
2011年3月に大震災が発生した。震災復興政策の財源を復興増税で賄うとの政府方針が浮上しているが、主権者国民は賛同していない。菅直人氏は大型税制改革を実施する場合には、必ず国民の審判を仰ぐと明言した。
野田佳彦政権がどうしても大型増税を実施しようとするなら、本年12月に解散総選挙を実施しなければならない。
第二に、経済環境を踏まえて、いまは増税を行うべき時ではない。
日本経済は昨年の10-12月期から、3四半期連続の大幅マイナス成長を記録している。完全に日本経済は景気後退局面にある。そのうえ、円高も進行している。
ここは、大型景気対策が必要な局面であり、景気抑制をもたらす大型増税を実施しようというのは、狂気の政策である。
ここで緊縮財政の急ブレーキを踏めば、日本経済は崩壊し、3度目の金融危機が表面化する。全面的に間違った政策路線である。
第三に、復興政策の主軸は政府によるインフラ資産の整備である。政府消費ではなく政府投資が震災復興政策の中心になる。消費と異なり、投資の場合には、支出に見合う資産が形成され、長期間価値を発揮する。したがって、その財源を短期間に調達することは、現在世代に過重な負担を押し付けることになり、経済に対する中立性を保てない。
震災復興政策の財源は、政府資産売却による資金調達か、建設国債の発行によるべきである。
第四に、政府提案の大増税案が一般庶民にすべての負担を押し付けるもので、公平でないことだ。
1990年前後と2009年前後を比較して、
法人税は4分の1に激減
所得税は2分の1に減少
消費税は5倍に激増
した。
政府は2007年11月の税制調査会報告書において、日本の法人税負担が国際比較で必ずしも高くはないとの結論を示した。
それにもかかわらず、法人に対しては減税を実施し、すべての大増税負担を一般庶民にだけ、負わせようとしている。
さらに、政府は2010年代半ばに過去5倍に激増した消費税負担をさらに2倍増させようとしている。消費税増税だけで年間10兆円にも及ぶ。
このような不正が許されるわけがない。
野田佳彦氏は松下政経塾出身らしいが、野田氏の政策は主権者である国民の意思を踏みにじり、米国と官僚と大資本の利益だけを追求するものであり、国民は一刻も早い野田佳彦氏の退場を求めるべきである。
第五に、官僚利権をまったく切っていない。野田佳彦氏は2009年7月14日の衆議院本会議で、次の発言をしたことを、まさかお忘れになったとは言わせない。麻生内閣不信任案への賛成討論を行った際の発言だ。
「一番国民が問題にしている天下りやわたりを実効性ある方法でなくしていこうという熱意が全くありません。
私どもの調査によって、ことしの五月に、平成十九年度のお金の使い方でわかったことがあります。二万五千人の国家公務員OBが四千五百の法人に天下りをし、その四千五百法人に十二兆一千億円の血税が流れていることがわかりました。その前の年には、十二兆六千億円の血税が流れていることがわかりました。消費税五%分のお金です。さきの首都決戦の東京都政の予算は、一般会計、特別会計合わせて十二兆八千億円でございました。
これだけの税金に、一言で言えば、シロアリが群がっている構図があるんです。そのシロアリを退治して、働きアリの政治を実現しなければならないのです。残念ながら、自民党・公明党政権には、この意欲が全くないと言わざるを得ないわけであります。」
大増税の前に完了すべき、官僚利権の根絶にまったく手が付けられていない。
私はハードルを大幅に引き下げて、まず、
財務省から日本政策投資銀行、国際協力銀行、日本政策金融公庫、日本銀行、東京証券取引所、日本たばこ産業株式会社、横浜銀行、西日本シティ銀行への天下りを根絶せよ
と言っている。
氷山の一角も一角、些細なことである。
これさえもやらないと言うなら、主権者国民は、1円たりとも増税を認めるべきでない。一般庶民に大増税を求めるのに、官僚機構が利権には一切手を入れさせないことを通用させて良いわけがない。
日本財政が深刻だと言うが、よく調べれば、財政危機は財務省が作り出している「虚偽」である。問題にすべきは391兆円の赤字国債だけで、他方、政府は簿価ベースで647兆円の資産を保有しており、財政危機は存在しない。
サブプライム危機の影響で財政赤字が拡大しているのは事実で、5年程度の視野で、この赤字の縮小を目指すべきだが、性急な増税は景気崩壊を通じる税収減をもたらし、財政赤字を拡大させるだけだから、これを行うべきでない。
野田政権は復興増税方針を直ちに撤回するべきである。
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