« 邪悪な消費税増税謀略1Rダウンの財務省をKOせよ | トップページ | 電力不足集団ヒステリーを脱原発原動力に転換 »

2011年7月 2日 (土)

ストロスカーン氏事件と国策捜査・国策裁判問題

性的暴行容疑で逮捕、拘留され、NYで軟禁状態に置かれているIMF前専務理事で次期フランス大統領の有力候補であったストロスカーン氏に対する軟禁が解かれたことが報道されている。訴追自体が取り下げられる可能性が高まっている。
 
 被害を訴えた女性の供述に不自然なことがあり、事件全体が謀略であったとの疑いが浮上している。
 
 事件発生当初から、仕組まれた謀略ではないかとの憶測が存在したが、真実は当事者でなければ分からない。第三者は事件捜査およびその後の公判、そして当事者の説明を聞いて判断するしかない。
 
 日本でも痴漢事件で、まれに被疑者が無罪を獲得できることがある。しかし、それは、基本的に奇跡に近く、いかに被疑者が無実を訴えても、警察、検察、裁判所は、被害者とされる人物の供述だけを信用して、確実な証拠が存在しない中で、流れ作業のように有罪判決を示してゆく。
 
 ストロスカーン氏が無実であり、同氏の名誉が回復されるなら、極めて喜ばしいことだが、この種のニュースに接したときに、私たちが考えなければならないことがある。
 
 それは、ストロスカーン氏が仮に冤罪であるとして、その冤罪の事実が、今回仮に明らかにされるとしたとき、それは被害者とされる女性の通信等を捜査当局が傍受するなどして、「被害者」女性の疑わしい行動がたまたま浮かび上がったからにすぎないからだ。
 
 逆に言えば、被害者側がより注意深く行動し、謀略のしっぽをつかまれるようなことをしなければ、このままストロスカーン氏は犯罪者として、記録に刻まれてしまう可能性が高かったということだ。

人気ブログランキングへ

国内の痴漢事件で冤罪を公式に認められたケースでも、それは、奇跡に近い偶然の産物であることが多いのが現実だ。
 
 犯人として捕らえられ、刑罰も執行された後で、たまたま真犯人が別の人物であったことが判明したケースもある。
 
 痴漢として逮捕、拘留されたが、その後、被害者とされる側の人物が、狂言を演じていたことが判明して、疑いが解かれたこともある。
 
 被疑者が無実を主張し、再現実験を行ったところ、物理的に犯行を実行することが不可能であるとの立証が実現した場合に、裁判所がこの立証を認めるケースがまれにある。
 
 それでも、ほとんどの裁判官は検察の僕(しもべ)であり、検察官の主張を覆そうとはしない。ごくまれに、正義感のある裁判官が事件を担当することになったときに、このような奇跡が生じるだけなのだ。
 
 つまり、とりわけ日本では、有罪だとされ、制度上はその有罪が確定している場合でも、本当は冤罪である事件が多数存在しているのである。
 
 逆に言えば、ケースは少ないかもしれないが、本当は罪を犯しているのに無罪とされるケースがある。また、これよりははるかに多く存在するのは、犯罪が成立しているにもかかわらず、警察や検察が罪を問わないことだ。被疑者の所属する機関や会社と警察、検察当局が癒着しているケースでは、犯罪が不問に付されることが少なからず存在する。
 
 刑事司法では、
「10人の真犯人を逃しても、1人の無辜(むこ)を処罰するなかれ」
という、「無辜の不処罰」が重視されるのが、そもそもの大原則だ。基本的人権根の尊重の視点から、無実の人間が犯罪者に仕立て上げられることは、絶対にあってはならないことなのだ。
 
 このことを、明文の規定としてはっきり示しているのが、1789年の「フランス人権宣言」である。罪刑法定主義、無罪推定原則、法の下の平等、Due Process of Law(適法手続き)の厳格な適用、基本的人権の尊重、などが明確に規定されている。

人気ブログランキングへ

明治維新後、日本の新しい法体系と行政制度が構築された。このなかで、巨大な影響力を発揮したのが大久保利通と江藤新平である。詳述はできないが、「国権」を重視した大久保に対して、江藤は「人権」を重視した。「国権」の巨大な力から人民を守るための制度の重要性を、的確に理解したのが江藤だった。江藤は、行政権から独立した司法権の確立を目指した。
 
 大久保にとって江藤は最大のライバルであり、明治六年政変に伴う江藤新平の下野の機会に乗じて、大久保は江藤惨殺の暴挙に進んだのである。このときに大久保が用いたのが、秘密警察的手法、行政権力による、警察、司法権力の独占である。
 
 結局、明治を支配したのは大久保利通になった。大久保が構築した人権軽視=国権重視の思想は脈々と現代日本に引き継がれている。現代日本の警察、検察、裁判所制度は、大久保利通による権力独裁の流れを汲んでいる。人民の権利擁護、人権尊重の概念は極めて希薄である。
 
 その発想は、
「10人の無辜を処罰しても、1人の真犯人も取り逃がすなかれ」
というものだ。
 
 警察、検察がこの姿勢で活動する限り、冤罪は今後も発生し続ける。

人気ブログランキングへ

さらに重大な問題は、警察や検察に、犯罪が成立しているのに、その犯罪を処罰しない裁量権が付与されていることだ。このことは既述した。警察、検察の権力の源泉がここにある。
 
 刑事事件が発生したときに、犯罪が存在するのに、これを不問に付す権限が警察、検察に付与されているのだ。これを「起訴便宜主義」と呼んでいる。
 
 この巨大裁量権が警察、検察の権力の源泉であり、これが警察、検察の天下り等の巨大利権と直結している。
 
 さらに、警察と検察には、犯罪が存在しないのに、犯罪をねつ造する裁量権も付与されている。警察、検察、裁判所が連携すれば、よほど決定的な反証が示されない限りは、無実の人間を犯罪者に仕立て上げることができる。
 
 検察と裁判所がくるになって、防犯カメラ映像の隠滅容認や、法廷証人の決定的証言無視を、平然と実行する。
 
 政治的な目的の下で、こうした警察、検察、裁判所権力が活用されることを、「国策捜査」「国策裁判」と呼んでいる。
 
 だから、私たちは、警察、検察、裁判所を、絶対に絶対視してはならないのだ。最近の多くの事例により、ようやく、この重大な真実が、一般大衆に少しずつ知られるようになってきたが、まだまだ十分に浸透しているとは言い難い。
 
 政治に絡む人物の刑事事件問題は、常に、こうした醒めた視点からの再吟味が不可欠である。
 
 日本が近代国家になるためには、どうしても、この警察、検察、裁判所制度を、根底から刷新しなければならない。警察、検察、裁判所制度の近代化なしに国家の近代化はあり得ない。

人気ブログランキングへ

FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン (朝日新書) Book FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン (朝日新書)

著者:広瀬 隆
販売元:朝日新聞出版
Amazon.co.jpで詳細を確認する

原子力神話からの解放 −日本を滅ぼす九つの呪縛 (講談社+アルファ文庫 G 227-1) Book 原子力神話からの解放 −日本を滅ぼす九つの呪縛 (講談社+アルファ文庫 G 227-1)

著者:高木 仁三郎
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

日本の独立 Book 日本の独立

著者:植草一秀
販売元:飛鳥新社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

誰が日本を支配するのか!?政治とメディアの巻 Book 誰が日本を支配するのか!?政治とメディアの巻

販売元:マガジンハウス
Amazon.co.jpで詳細を確認する

売国者たちの末路 Book 売国者たちの末路

著者:副島 隆彦,植草 一秀
販売元:祥伝社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

知られざる真実―勾留地にて― Book 知られざる真実―勾留地にて―

著者:植草 一秀
販売元:イプシロン出版企画
Amazon.co.jpで詳細を確認する

« 邪悪な消費税増税謀略1Rダウンの財務省をKOせよ | トップページ | 電力不足集団ヒステリーを脱原発原動力に転換 »

警察・検察・裁判所制度の近代化」カテゴリの記事

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ストロスカーン氏事件と国策捜査・国策裁判問題:

» 古賀茂明氏は、国策逮捕される危険もある [ニュースを読まねば]
24日、とうとう経済産業省は、これまで民主党の公務員制度改革などを批判してきた同省の古賀茂明氏(55歳)を退職させる方針を決め、本人に通達した。 既に古賀茂明氏は、大臣官房付という閑職に追い込まれている。 ともかく古賀茂明氏は、憂国の士というか珍しくまとも…... [続きを読む]

» 【原発問題】関東各地の自治体 2~3か月すると放射能汚泥で満杯に 自治体「国の基準じゃどうにもならん」 [政治経済ニュース・今私の気になる事]
福島第1原発事故による、下水汚泥・焼却灰の放射線汚染問題。国は2011年6月16日、汚泥の埋め立て、およびセメントなどへの再利用に関して、基準となる放射線量を示した。しかし汚染された汚泥の引き受け先は、ほとんどないのが現状だ。 処理の見通しが立たないまま…... [続きを読む]

» ドミニク・ストロスカーン氏を巡る陰謀説 [ニュースを読まねば]
ホテルの従業員に性的暴行を加えたとして逮捕、起訴されていたIMF(国際通貨基金)前専務理事のドミニク・ストロスカーン被告(62歳)が1日、州裁判所によって自宅軟禁を解除された。これは、被害者のホテル女性従業員の供述の信憑性に疑問が出てきた、という理由による。今後の調査によっては、訴追取り下げの可能性も出てきた。このニュースを受けて、フランスでは、ストロスカーン氏の大統領選出馬を期待する声も出ている。この辺りの同氏の人気が、陰謀説の根拠の一つになっているようだ。なにせIMFのト..... [続きを読む]

« 邪悪な消費税増税謀略1Rダウンの財務省をKOせよ | トップページ | 電力不足集団ヒステリーを脱原発原動力に転換 »

有料メルマガご登録をお願い申し上げます

  • 2011年10月より、有料メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」の配信を開始いたします。なにとぞご購読手続きを賜りますようお願い申し上げます。 foomii 携帯電話での登録は、こちらからQRコードを読み込んでアクセスしてください。

    人気ブログランキング
    1記事ごとに1クリックお願いいたします。

    ★阿修羅♪掲示板

主権者は私たち国民レジスタンス戦線

  • 主権者は私たち国民レジスタンスバナー

    主権者は私たち国民レジスタンスバナー

著書紹介

サイト内検索
ココログ最強検索 by 暴想
2023年3月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

関連LINKS(順不同)

LINKS1(順不同)

LINKS2(順不同)

カテゴリー

ブックマーク

  • ブックマークの登録をお願いいたします
無料ブログはココログ