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2011年7月26日 (火)

究極のモラルハザードを創出する原倍法改正案

天下の悪法が制定されようとしている。

 原子力損害賠償法を改正して、電力会社に課してきた事故発生の際の無限責任を有限責任に書き換える法律改正案が自公だけでなく民主の同意を得て成立させられようとしている。
 
 中日新聞(=東京新聞)の「こちら特報部」がこの問題を取り上げたのは適正である。腐りきったマスゴミのなかで、唯一の異彩を放つのが、中日新聞の「こちら特報部」である。
 
 ドイツでは、過去に「有限責任」を「無限責任」に書き換える法改正を行った。原発事故に対する責任を重く課すことによって、原発事故発生を回避するインセンティブを高める取り組みである。
 
 今回、日本では絶対に起こしてはならない原発事故が発生した。この教訓を生かさなければ、原発周辺地域の犠牲は無に帰す。二度とこのような事故を引き起こさない万全の体制が整えられて、初めて失敗の教訓は生かされることになる。
 
 それでも、発生してしまった事故の傷は、半永久的に消えることがない。
 
 日本の原子力損害賠償法は、原発事故を発生させてしまったときに、事故を発生させた事業者である電力会社に、無限責任を負わせている。
 
 今回の福島原発事故に伴う損害はとてつもなく巨大である。原発周辺地域から避難を強制されている世帯では、膨大な損失が生まれている。これらの損害に対して、これまで、ほとんど補償が行われていない。
 
 農林水産物への影響も深刻である。消費者は自らの判断で購入する商品を選択する自由を持つ。より安全な商品を求めて、原発周辺地域産出の農林水産物を忌避することを誰も責めることはできない。
 
 このような消費者の自然な行動が広がれば、原発周辺地域の農林水産事業者は甚大な影響を受ける。これらの影響に伴うすべての損害を補償することが事故発生当事者に求められるのは当然である。

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事故が発生したのは、日本で定期的に発生する地震や津波に対して、東京電力が十分な備えをしていなかったからである。国の基準をクリアしていたと東電は反論するが、国の基準がどうであれ、事業を行う主体は東電であり、東電は国の基準と離れて、絶対に事故を引き起こさない万全の対応を取る責任を負っていたはずだ。
 
 今回の事故が発生する前に、例えば独立行政法人産業技術総合研究所が日本の過去の歴史に鑑みて、津波対策が不十分であるとの警告を発していた事実も明らかにされている。東電の対応がおろそかにされていたことは明白である。
 
 東電の過失により今回の事故が発生した。東電が責任を負うことは当然である。
 
 ところが、東電の資金力は損害賠償規模にまったく及ばない。このことは東電の代表取締役会長勝俣恒久氏が明確に述べている。
 
 このことは、東電が破たんを免れないことを意味している。厳しいけれども、法治国家の行政として、東電を法的に整理し、利害関係者に応分の負担を求めることは当然である。
 
 この処理によっても賄えない損害については、国が責任をもって補償することが法律に定めてある。東電の損害賠償債権が担保付社債よりも劣後するから、東電を法的整理すべきでないなどの理屈は、東電を救済するための屁理屈でしかない。
 
 東電を法的整理した上で、国の責任で損害賠償を行うことが法律には定められているのだ。
 
 また、東電を法的整理することが電力の安定供給を阻害するとの意見も誤りである。事業を継続させながら法的整理を行うのが会社更生法を適用する場合の通常の姿であるからだ。
 
 それでもこの場合、東電が負うことのできない損害賠償責任は国が負うことになる。国が負うと言うと、国民に負担が発生しないように感じる人がいるかも知れないが、国の負担と言うのは、すなわち国民の負担である。納税者の負担によって原発事故の損失が処理されるのだ。

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こうした、現行の原子力損害賠償法の規定を踏まえれば、電力会社は原発事業に対して、極めて厳しく、慎重な姿勢で臨まなければならなくなる。一歩誤れば、会社を破綻させてしまうのが原発事業なのである。
 
 絶対の安全性を確立できなければ、良識ある電力会社経営者は、原発事業に自らブレーキを掛けることになるだろう。
 
 つまり、価格メカニズムが働くことによって、脱原発が誘導されることになるのだ。
 
 現在の技術水準では、こうした価格メカニズムに人為的な手を加えない限り、原発事業は推進されないのだ。原発事業が推進されているのは、いざ大事故が発生しても、その損害賠償責任を誰も負わず、国民に転嫁してしまう構造があるからなのだ。
 
 これを「究極のモラルハザード」と呼ぶ。
 
 もし、原発事故の損害賠償責任を当事者が完全に負うことを覚悟して事業が行われてきたと言うなら、事故発生後に、電力会社経営者も、財界幹部も、揃って電力会社による無限責任を主張するはずである。そして、資金が不足することが判明したなら、自ら率先して会社更生法の適用を申請したはずである。
 
 ところが、事故が発生すると、資金が足りないと言いながら、まったく会社更生法の適用を申請しようとした形跡は見られない。国民に負担を転嫁することを画策し続けてきたのではないか。

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今回の事故発生後の損害賠償問題処理が原子力損害賠償法に則って行われるべきことは当然だ。ところが、菅政権はこの法律を無視する東電救済スキームを提示し、これをごり押ししようとしている。
 
 日本は法治国家ではないとの前提に基づく行為が取られている。この重大な事実を主権者国民は明確に認識しなければならない。
 
 東電の経営者、株主、債権者、従業員を救済して、これらの関係者が負うべき負担が一般国民に転嫁される。このような不正が白昼堂々と進められているのだ。
 
 これを推進しているのは自民党、公明党、そして現在の民主党だ。
 
 民主党の現在の執行部は、米官業政電の利権複合体による日本支配維持を目指す勢力である。これまで日本政治を支配してきた自公勢力と同じ穴の貉(むじな)である。
 
 東電を救済し、さらに、今後、原発事故が発生した場合には、電力会社に有限責任しか求めないことを法律改正に盛り込もうとしているのだ。
 
 このような言語道断の暴挙を許して良いはずがない。自民党で、いつも偉そうにものを話す石破茂氏も、子が東電に勤務していると伝えられている。悪徳の東電救済策に賛成し、原発事故を誘発する原賠法改正に賛成なのだろう。
 
 日本が今後も利権にまみれ、利権複合体による政治支配構造下に置かれたままで進むのか、今回の原発事故を契機に、新生日本の活路を見出してゆくのか。その岐路にある現在。東電と原賠法の取り扱いは、日本の方向を定める重要性を帯びている。

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