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2011年7月 3日 (日)

電力不足集団ヒステリーを脱原発原動力に転換

原発の安全性に根本的な不安が高まったために、原発の稼働が低水準で推移する。その結果として電力会社の発電能力が狭隘になり、国民が電力利用圧縮を要請されている。夏場の電力使用ピークに向けての「節電」の動きである。
 
 電力会社の発電能力だけを考えれば、本来、原発を停止しても電力の安定供給に支障が生じることはないというのが現実である。原発を除く発電設備による電力供給量は、過去の夏場の電力使用量ピークを大幅に上回っているとの数値が明らかにされているからだ。
 
 それにもかかわらず、電力不足が喧伝(けんでん)されている理由として、次の三つが考えられる。
 
 第一は、原発を推進するために、原発の稼働を停止すると、私たちの暮らしは大混乱するという、事実に反する意図的な演出が行われているというものである。
 
 民主党の川内博史衆議院議員は、これを「ないない詐欺」と表現する。本当は大きな心配がないのに、原発を推進するために、国民に対していたずらに危機を煽っているというものである。
 
 実際にテレビなどの電波業界は、この流れに沿う、国民の不安心理を煽る番組プログラムを積極的に編成している。マスゴミも、いわゆる原子力村と呼ばれる原発推進利権複合体の一角を占める存在であるから、原発推進のための世論操作に協力するのは当然のことである。
 
 3月11日の原発事故発生直後に電力会社は無計画な計画停電を実施し、国内の大混乱を引き起こしたが、この計画停電こそ、必要性の乏しい悪質なものであった可能性が高い。

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第二の仮説は、電力会社がこれまで原子力発電に過度に依存してきたため、原子力以外の発電設備のメンテナンスを怠ってきたこと、および、震災の影響で、原子力発電所だけではなく、火力発電所などの設備も損傷を受け、電力供給力が大幅に低下してしまった可能性である。
 
 今回の震災では、多くの発電設備が震災の影響を受けた。しかし、ほとんどの発電所における地震規模、津波規模はそれほど大きなものではなかったはずである。それにもかかわらず、発電設備が重大な損傷を受けたということであれば、電力会社の震災への備えが欠如していたことになる。
 
 また、原発に過度に依存する体質が強まり、火力発電所などの発電所の設備整備がおろそかにされていたことが推察される。
 
 第三の仮説は、発電能力が低下しているにもかかわらず、なお、発電コストの高い電力供給をできるだけ圧縮しようとする行動が、電力会社によって取られている可能性が高いことである。
 
 BSフジの報道番組である「プライムニュース」に出演した元東大総長で東京電力監査役の小宮山宏氏は、コスト面からすべての発電能力を電力会社が稼働しようとしていないことを示唆する発言を示した。
 
 このような現実を踏まえると、いたずらに電力不足危機を煽ることには問題が多く含まれていることが分かる。少なくとも、電力会社は、本来は原発が稼働しなくとも安定的な電力供給を実現することが可能であるはずだから、原発以外のすべての発電能力を活用することを前提に置いた、万全の対応を取ることが求められる。
 
 また、節電を求める場合には、割安な価格が設定されている大口電力契約者に対する特約を十分に踏まえた対応が不可欠である。
 
 大口電力契約者に対しては、大幅に割安な電力料金が設定されているが、電力不足の事態に対しては、事前通告による送電停止措置を行うことができる特約が付けられている。
 
 電力供給不足のしわ寄せを一般国民が受けて、熱中症などによる死亡事故を引き起こすことは許されない。電力利用を制限するなら、まずは、大口電力利用者を優先して、その対象に設定するべきことは当然である。
 
 現在の電力不足キャンペーンは、これこそまさに「集団ヒステリー」と呼ぶべきものであり、電力会社、政府、マスゴミの冷静で現実的な対応が強く求められる。

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とはいえ、今回の原発放射能事故を契機に、社会全体で節電の動きが強まることは好ましいことと言える。
 
 一般の市民には十分に周知されていないが、電力設備と電力需給ひっ迫の関係を正確に把握しておくことが不可欠だ。
 
 電力不足は、真夏の午後などの電力利用が全体として最大を記録する「瞬間的な」問題だということだ。真夏の、「ある瞬間」の電力使用量が発電能力の上限を超えてしまったときに、電力不足の問題が表面化するということだ。
 
 だから、昼も夜も、気温の低い日も、年がら年中、節電と騒ぐ必要は乏しいということだ。一般的には真夏の午後、全国で高校野球中継が視聴されているようなタイミングで夏場の電力使用ピークが発生することが多い。
 
 したがって、このピークをいかに低くするのかが問題になるのだ。その意味では、高校野球の実施時期をずらすとか、午後のピーク時間に重なる時間帯は試合を行わないなどの対応が重要なのだ。また、製造業などによる土日への操業シフトなども有効な対応になる。
 
 電力会社は単位発電量当たりの燃料コストが最も低い原子力をフル稼働し、この原子力で賄えない電力需要を、順次、発電コストの低い方式から適用してきた。
 
 ところが、原発を停止すると、もっとも利益率の高い発電方式の利用が制限され、コストの高い方式の発電方式を利用することを強制される。電力会社としては、コストの高い発電方式を利用したくないため、いたずらに電力不足が煽られているというのが、上述した小宮山氏の発言の含意である。
 
 電力不足を煽るマスゴミ情報操作には、こうした背景があるということを、国民はよく知る必要がある。そのうえで、現実に対処するべきだ。

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電力不足キャンペーンにはこのような問題点があるとは言え、節電の動きが強まり、夏場の電力使用ピークを引き下げることが実現すれば、それはそれで、新しい大きな効果を生み出すことになる。
 
 原発を稼働させずに夏場の電力使用ピークを乗り切ることになれば、「脱原発」に向けて、大きな一歩を印すことになるからだ。
 
 今後、原発以外の発電設備の整備を強化し、場合によっては発電能力そのものを設備投資により強化する。そうすれば、現在稼働している原発の稼働を順次停止しても、電力不足の事態を引き起こさずに済む
 
 節電の動きのなかから、必要性のない電力使用が見直され、社会全体の省エネルギー体質が強化されることになる。
 
 また、電力供給量引き上げの主因である夏場のピーク時電力の水準を引き下げるための、製造業などにおける製造時間シフトなどが進めば、発電能力の引き上げそのものが不要になる。
 
 燃料コストとの関係で電力料金が上がるとしても、これを「脱原発」という、大きな収穫を得るためのコストと考えれば、十分に納得できる。
 
 もっとも、コストについては、原子力の場合、燃料コスト以外のコストが膨大であり、総コストでの比較では、安価な発電方式ではない。政府の補助金、地方自治体への現金給付は、すべて税金などのかたちで国民負担になっているのであるから、発電方式の選択に際しては、この「総コスト」を基準にすべきことは当然である。
 
 大きな歪みを内包する節電運動であるが、この節電運動を逆手に取って、「脱原発」実現への大きなステップとして活用することが重要である。

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