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2011年5月18日 (水)

SPEEDI情報を自分のためだけに利用した菅直人氏

原子力三原則は周知の通り「民主・自主・公開」である。
原発での放射能放出事故が発生し、発電所外部に放射能が放出される事態に立ち至れば、政府は直ちにその事実を国民に公開する責務を負っている。
 
 原子力災害対策特別措置法第15条が、内閣総理大臣に原子力緊急事態宣言を義務付けているのも、この「公開」の原則に基づいている。
 
 ところが、菅直人内閣の対応は、すべてにおいて、この基本原則に反するものである。
 
「民主・自主・公開」
ではなく、
「独裁・対米隷属・隠蔽」
が基本に置かれてきた。
 
 原発事故が発生して以来、政府は原発周辺の汚染予測調査結果を一切公表してこなかった。私は本ブログで、放射能汚染を考察する際に、原発所在地の風向および風力が決定的に重要であることを強調してきた。
 
 政府が発表するモニタリングデータなどの数値から、とりわけ、原発北西方向に位置する浪江町の放射線数値が突出して高いことを指摘し続けた。
 
 つまり、原発事故に際しての放射能汚染の実情は、原発からの同心円状の汚染濃度分布ではなく、爆発事故発生時点の原発所在地の風向および風力に大きく依存するのであり、この情報が公開されることが何よりも重要であった。
 
 枝野幸男氏は記者会見で、問題は発生していないが、万が一の事態に備えて予防的に避難措置などを実行すると発言してきたが、これは虚偽である。
 
 事実をありのままに公開することが、不安心理を増幅させることを恐れたなどの弁解が予想されるが、原子力政策の基本に「民主・自主・公開」の原則を置かれていることを忘れてはならない。
 
 原子力事故は、ひとたび発生すれば甚大な影響を及ぼすことが多い。そのため、事実関係については、主権者である国民にすべてを公開する責務を民主主義政権は負っているのである。

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この点に関して民主党衆院議員の川内博史氏が、極めて重大な情報を提供した。5月16日付のツイートである。
 
「もっと正確に言うと、11日から16日までの間、官邸に届けられたスピーディー予測図は、1枚。それは、総理がサイトへ視察に行く直前、ベントしたとしても、放射性物質は海側に流れる、と予測した図であった。ここでも、総理は自分のことだけ。」
 
 これが何を意味するのかというと、菅直人氏はスピーディーの予測情報を、自分自身の生命と健康のためだけには利用したということである。
 
 3月11日から12日にかけて、福島原発は重大事態で緊迫した状況下にあった。電源を喪失し、原子炉冷却不能状態に陥り、格納容器内の圧力低下措置=ベント実施が迫られた。
 
 菅直人氏のパフォーマンス優先の行動が、原発の非常事態対応に著しい障害となったと考えられることも極めて重大で、この点については今後の徹底した事実究明が求められる。
 
 だが、このなかで、菅直人氏はベントの必要性を知り、何らかの爆発の可能性を認識したうえで、福島原発に向かったが、その際に、自分自身の生命や健康に影響が出ないことを、スピーディー予測によって確認したうえで現地に赴いたのである。
 
 つまり、放射能放出の程度は、スピーディー予測によって、かなり正確に把握できるのであり、この情報が広く国民に公開されるべきことは当然のことだった。ところが、政府はこの情報を隠蔽し、一方で、菅直人氏は自分自身の保身のためだけには、この情報を利用していたのである。
 
 戦争が発生して激戦が繰り広げられるなかで、卑劣な司令官が、最前線の兵士を置き去りにして自分だけ安全な場所に逃げるのと同じ行動が取られていたのだ。
 
 原発北西部の高濃度放射線汚染地域では、原発事故から2ヵ月も経過してから避難措置が強制された。スピーディー予測情報が迅速に公開されていれば、これらの地域住民が過大な被曝を蒙ることはなかったはずである。

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また、原発3号機爆発の際に、原発作業員が多数負傷して病院に搬送されたが、この負傷者のその後の情報がまったく公開されていない。作業員は被曝していないとの情報が当初伝えられたが、この情報の信ぴょう性に疑いがある。
 
 政府はこの原発作業員のその後の経過について、速やかに情報公開するべきである。
 
 さらに重大な問題は、原発事故の事実そのものについて、隠蔽する行動が継続して取られてきたことである。
 
 国際原子力事象評価尺度に基く今回の原発事故の評価においても、レベル7の事故を政府は当初レベル4と公表し、その後レベル5に引き上げたが、レベル7という事実を公表したのは事故発生から1ヵ月も経過した時点だった。
 
 原子炉の炉心が溶融して溶け落ちる、いわゆる「メルトダウン」が発生し、しかも格納容器の底に穴が開くなどの破損が生じているとの指摘は、事故発生直後から存在した。
 
 原子炉外部への継続的な高濃度放射線放出は、格納容器に破損が生じていなければ説明がつかないこと、また、再臨界的な反応が生じなければ発生しない放射性物質が原発外部で計測されたことから、メルトダウンおよび格納容器の破損は、まず間違いのないこととして認識されてきた。
 
 菅直人氏は3月23日に大前研一氏と会談をしている。この時点で、原発事故の真相を正確に把握したはずである。さらに、菅直人氏は4月20日に鳩山由紀夫氏と会談し、格納容器に破損が生じている現実を踏まえれば、「水棺」方式の採用は、地下水や土壌への深刻な放射能汚染をもたらすから、他の方法によるべきだとの進言を1時間半にわたり受けている。
 
 それにもかかわらず「水棺」方式での収束を目指して、大量の注水を続けた。しかし、あげくの果てに、メルトダウンを公表して、「水棺」方式の修正に至ったのである。メルトダウンの事実開示など、2ヵ月前に行われていなければならないことがらである。
 
 ここでも、事実の公開が著しく遅れている。
 
 原子力を利用しようとしたその出発点で、日本政府は「民主・自主・公開」の三原則を決めている。重大な原子力事故が発生した時点でこそ、この原則を忠実に守る責務を政府は負っている。
 
 原発からの高濃度放射能汚染水の海洋投棄について、元内閣参与が、米国の指令に基づく措置であった事実を暴露した。なぜ、日本の原子力事故に対して政府は、米国の指令に基づいて対処するのか。「自主」の原則からも外れる対応が取られている。
 
 国民に対しては、直ちに伝えるべき重大情報を公開せず、同じ情報を、自分自身の保身のためだけには用いるような首相を国民は必要としていない。これだけで内閣不信任に相当する。
 
 野党は速やかに内閣不信任案を提出し、日本の未来を案じ、日本国民の意思を尊重し、日本国民の幸福を追求する与党議員は、正々堂々と内閣不信任案に賛同するべきだ。菅直人氏を更迭することが、日本再生の出発点になることを国民がしっかりと認識しなければならない。

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