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2011年5月24日 (火)

『原子力神話からの解放』高木仁三郎著

高木仁三郎氏という原子力学者がいる。2000年10月に逝去されているから、いたとすべきかもしれないが、高木氏が残されたメッセージは、いまなお輝きを失っていない。私たちが最悪の原子力事故に遭遇したいまこそ、そのメッセージを丹念に見つめ直す時であるとも思う。
 
 高木氏が逝去される直前、2000年8月に発表された著書
 
『原子力神話からの解放-日本を滅ぼす九つの呪縛』
 
 

原子力神話からの解放 −日本を滅ぼす九つの呪縛 (講談社+アルファ文庫 G 227-1) Book 原子力神話からの解放 −日本を滅ぼす九つの呪縛 (講談社+アルファ文庫 G 227-1)

著者:高木 仁三郎
販売元:講談社
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が、文庫本として復刻された。
 
 人類史上最悪の原子力事故に遭遇した私たちは、原子力とのかかわりについて、根本から見直さねばならない。それが事故を発生させた日本の国際社会の一員としての責務でもある。
 
 ところが、原子力に関する話は単純には進まない。これまで、本ブログでも述べてきたように、日本における原子力事業は、巨大な背景を負い、そして巨大な利権事業として推進されてきた経緯がある。人類社会において巨大利権は一種のモンスターである。正義も公正も、真理も真実も、巨大利権の前には無力であることがしばしば観察される。
 
 これこそ、人類社会の最大のウィークポイントであり、より良い社会、社会を構成するすべての構成員にとって幸福な社会を作り出すためには、この巨大利権というモンスターを排除することがどうしても必要だ。
 
 スリーマイル島、チェルノブイリ、福島の経験を踏まえれば、「脱原発」の方向は、必然の流れであると考えるのが自然だろう。ところが、福島原発事故の直後から見られる言論誘導は、明らかにこの自然の流れとは異なっている。
 
 自然に湧き上がるであろう「脱原発」のムーブメントを、以下に先制して抑制するかに、すべての精力が注がれているように見えるのだ。
 
 その構造を私たちは冷静に見つめなければならない。そのうえで、未来に対して責任を負う立場にある者として、責任ある決断を示してゆかねばならない。

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『原子力神話からの解放』は、1999年9月30日に茨城県東海村JOCウラン加工工場で発生した「臨界事故」をきっかけに執筆されたものである。文庫版前書きには、著者である高木氏の事故に対するコメント

「この事故は原子力産業や政府はもちろんですが、原発反対派の私自身も含めて、根底から今までの原子力問題に対する態度の甘さを認識させられ、痛感させられる、そういう事故だった」

の言葉が紹介されている。
 
 高木氏は東京大学理学部卒業の核化学学者であり、1973年までは東京都立大学で教職にあった。73年に大学を退職され、原子力産業から独立したシンクタンクである『原子力資料情報室』の設立に参加し、代表を務めた。
 
「反原発運動の理論的指導者」として、原発の危険性について専門家の立場から警告を発し続けた人物である。
 
 現代社会のモンスターである「巨大利権」のちょうど対極に身を置き続けて、人類社会への貢献を続けた人物である。こうした良心派の正当な学者が学界では必ずしも正当な地位を得ないことは、学界そのものが「巨大利権」の一翼を担う存在であることを意味してもいる。
 
 今回、福島原発3号炉でもっとも激しい水素爆発が発生した。この爆発に伴い7名の負傷者が発生したことが報じられたが、その後の経過がまったく報告されていない。この3号炉ではMOX燃料と呼ばれるプルトニウム燃料を使用していた。プルトニウム燃料の各種放射性物質が飛散したと考えられ、その影響が強く懸念されている。
 
 高木氏は、このプルトニウム燃料の危険性を強く警告してきた。米国では3月11日の震災以降、高濃度のストロンチウムが米国上空で検出されたことを発表しており、福島原発からプルトニウム燃料関連の放射性物質が外部放出されたことは間違いない。これらの物質は通常の放射性物質と比較してはるかに強い毒性を有している点に特徴がある。
 
 ところが、日本政府はこうした情報を隠蔽し、一切外部公表を行っていない。
 
 また、高木氏は、「地震」の際の原発の危険性を強く警告してきたことでもよく知られている。東京電力や日本政府は、
「放射能を閉じ込める多重防護システム=五重の壁」を宣伝し、「『原子力は安全』という神話」を流布し続けてきた。小中学校の教材にも、巨額の国費が投入され、『五重の壁神話』が
子供たちの頭脳に植え付けられてきた。
 
 これに対して高木氏は、
 
「多重防護と言ったところで、発電所の停電が長期化するとか、原子炉で火災が起こってしまうとか、大地震に襲われるといったような一つの要素が働くと、すべてのシステムが一挙に共倒れしてしまう」
 
ことを的確に指摘してきた。

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本書には、私たちが解き放たれなければならない九つの神話が列挙され、そのすべてについて、極めて平易で分かり易い解説が示されている。列挙された九つの神話とは以下のものだ。
 
「原子力は無限のエネルギー源」という神話
 

「原子力は石油危機を克服する」という神話
 

「原子力の平和利用」という神話
 

「原子力は安全」という神話
 

「原子力は安い電力を供給する」という神話
 

「原発は地域振興に寄与する」という神話
 

「原子力はクリーンなエネルギー」という神話
 

「核燃料はリサイクルできる」という神話
 

「日本の原子力技術は優秀」という神話
 
の九つだ。
 
 それぞれについて、極めて平易に、しかし、専門性を失わずに記述が進められている。
 
 これからの日本の方向を考えるに際して、必読の書と言って過言でない。
 
 そして私たちがはっきりと認識しておかなければならないことは、原子力の平和利用と核兵器の開発との間に、いかなる遮断壁も存在しないことである。原発技術はそのまま核兵器技術に転用され得るのである。
 
 アイゼンハワー大統領が流布した「原子力の平和利用」は、言葉の魔法の一種に過ぎない。「平和」という言葉を用いることによって、「核兵器技術」が「平和」の衣装をまとっただけに過ぎないのだ。
 
 高木氏は本書で、原子力発電の基本的困難さを三つ掲げている。
 
 第一は、原子力発電が、非常に破壊的な性格を持つ放射性物質を膨大に作り出してしまうこと。
 
 第二は、原子力発電におけるエネルギーの電力転換効率が低いこと。このために原子力発電は大量の温排水を発生させてしまい、環境に高負荷をかけてしまう。
 
 第三は、巨大事故の可能性を否定できないこと。
 
 巨大事故の可能性はすでにチェルノブイリで立証済みであることを高木氏は記述しているが、今般、福島で同レベルの事故が発生したことを高木氏が知ったら、どれほど落胆するか、想像もつかない。
 
 人類は原子力利用というパンドラの箱を開けてしまい、原爆の使用、核実験、原発事故などのさまざまな災厄が広がってしまった。しかし、箱のなかには「希望」が残っているのかも知れない。高木氏は後世の人間に希望を託したのだ。
 
 明日の希望につなげてゆくには、人類の叡智、智慧が必要である。私たち日本人はその重大な責務を負っている。

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