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2011年4月24日 (日)

原発災害に伴い発生した損害のすべてが原発被害

福島原発で人類史上最悪の区分に分類される放射能放出事故が発生した。大気、土壌、海洋、地下水に極めて深刻な放射能汚染が広がっている。
 
 放射能に汚染された食物を摂取することを体内被曝と呼ぶが、外部被曝と比較して体内被曝は影響が深刻である。とりわけ、子どもの放射能摂取には十分な警戒が求められる。
 
 国民の生命と健康を守る政府であるなら、直ちに危険情報を十分に提供し、国民にリスク回避行動を呼びかける必要がある。
 
 リスクのある食物を摂取しなければリスクは封じ込めることができるが、リスクのある食物を摂取すれば、リスクを封じることはできないからだ。
 
 念には念を入れて、リスクを排除する行動を取ることが望ましい。リスクのある行動を取れば、取り返しのつかない事態を招く恐れがあるから、リスクのない行動を取るように国民を誘導するのが政府の役割である。
 
 ところが、菅-枝野体制は、当初から、「食べても直ちに人体に影響を与えない」の言葉を繰り返してきた。安全のために国民が知りたいのは、「直ちに影響が出るかどうかではなく、最終的に影響が出るのかどうか」なのだ。直ちに影響が出なくても、20年後にがんになる確率が高まるのなら、普通の国民はその行動をあえて選ぼうとはしないだろう。
 
 ところが、菅-枝野体制は、「食べても問題はない」を積極的にアピールし、「できるだけ食べないように」の表現を用いなかった。ハードルを大幅に引き下げて、放射線濃度が一定の水準に達しない食物は、摂取可能であるとして出荷も容認し、国民に摂取を呼び掛けた。
 
 テレビは原発災害発生地の農産物販売の模様を中継し、こうした農産物を購入する人から、「被災地を応援するためには、このような野菜をぜひ購入して、被災者たちに勇気を与えたい」などの感想を話させて、これを繰り返し報道してきた。
 
 子どもに放射能汚染食物を摂取させたくない親は、一定の水準まで放射能に汚染されている食物の購入を控えているが、原発事故被災地の野菜を積極的に買おうとする消費者がいるとの報道が繰り返されると、非常に肩身の狭い思いを感じることになる。
 
 まるで、放射能汚染食物の摂取を回避しようとする行動を取る者は、被災地の人々のことを思いやる心も持たない、冷血な人間であると、非難されているような気分になってくる。
 
 菅-枝野体制の狙いはまさにここにある。出荷制限、摂取制限をかける対象をできるだけ小さく設定し、ある程度放射能に汚染された食物は出荷も認め、摂取も奨励するスタンスが採用されている。

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その理由が明らかになった。推察通りの腹黒い計算がそこにはあった。
 
 すべては、政府や東電の損害賠償金額を最小化するために取られている行動なのだ。国民の生命や健康を守る視点とは逆の方向の動きである。
 
 原発事故の損害賠償が今後の最重要のテーマになるが、政府は出荷制限のかかった品目を損害賠償の対象にしようとしている。ある水準以下の放射能汚染食物については出荷も摂取も容認する。ハードルを引き下げた結果、ハードルを越えられない対象食物が限定される。政府はこの限定された品目に限って、出荷制限のかかったものだけを損害賠償の対象にするのである。
 
 損害賠償の対象になる農林水産生産物を極力縮小されれば、政府や東電の支払い負担金額は小さくなる。この点だけが重視されている。
 
 放射線被曝が人体に影響を与えるには長い時間を要し、いざ、がんを患ったからといって、その因果関係の立証は容易でない。政府が政府と東電の損害賠償金額をできるだけ小さくしようとするうえでは、損害賠償の支払い対象をできるだけ小さくしてしまうのが得策なのだ。
 
 出荷制限や摂取制限はかけられなかったが、一定程度は放射能に汚染された食物を摂取し続ければ、健康被害も発生する確率は高くなるだろう。しかし、いざ健康問題が発生したとしても、因果関係の立証は容易でなく、政府は際限なく逃げの一手で、損害賠償の支払いを拒否する可能性が高い。
 
「風評被害」という言葉が多用され、
「放射能に汚染された食物は危険である」
と言わないようにするべきだとの空気が作られて、実際に、政府はある程度放射能に汚染された食物の出荷と摂取を解禁している。
 
 一見すると、これらの行動は原発事故被災地の農林漁業関係者を支援する行動であるように見えるかもしれない。 
 
 しかし、よく考える必要がある。
 
 政府の行動は、こうしたプロセスを経て、ある程度、放射能に汚染された食物の出荷と摂取を容認するものである。したがって、出荷制限と摂取制限がかけられる対象は小さくなる。そして、重要なことは、政府は、出荷制限をかけたものだけを損害賠償の対象とすると言っているのだ。
 
 ところが、実際の消費市場で何が起きているのか。大多数の消費者は問題が放射能汚染であるだけに、やはり安全策を取る傾向を強く示している。
 
 武田邦彦氏が指摘するように、安全宣言は、野菜などをよく洗ってから放射線量を計測しており、安全宣言を出しているところほど、注意が必要である。武田氏は福島、茨城、栃木、宮城、群馬産を基本的に警戒するべきだとアドバイスしている。理にかなったアドバイスである。
 
 安全策を取る消費者は多いと思われる。そして、放射能問題では、安全策をとる者が賢者であり、危険策を取る者が愚者であるというのが常識的な判断である。
 
 このとき、何が起こるのかをよく考える必要がある。
 
 農林漁業の生産者は、政府から出荷制限を解かれたとしよう。ところが、消費者の選択により、生産物の売れ行きが大幅に落ちたとする。売り切るには、価格を大幅に引き下げて、赤字覚悟の値をつけなければならなくなるかも知れない。
 
 しかし、東電からの損害賠償は得られない。
 
 政府が「風評被害」だと騒いでいるのは、出荷制限などを可能な限り限定的にして、損害賠償の支払い金額を1円でも節約したいからなのだ。農林漁業生産者の立場を慮って騒いでいるなどというのは、見せかけの虚偽のポーズに過ぎない。
 
 放射能に汚染された食物の摂取を禁止し、その代わり、農林漁業生産者に対しては、生産物をすべて政府が買い取れば良いのだ。
 
 低レベルでも放射能に汚染された食物が消費者から敬遠されるのは、生産者が悪いのでも消費者が悪いのでもない。原発事故を引き起こした東電と政府が悪いのだ。
 
「風評被害」ではなく「原発被害」なのだ。
 
 損害賠償はまず、東電が責任を果たすべきである。東電の支払い能力が不足するなら、東電を法的に整理し、債務処理を行う必要がある。電力事業を継続する必要があるから、政府が全株式を取得し、一時国有化する必要がある。
 
 原発事故でキャンセルになった観光に関する収入なども、すべて、損害賠償の対象に含めるべきである。農林漁業生産物について、出荷制限の対象になった分だけを損害賠償の対象にしようというのが間違いであり、消費者が安全性の視点から消費しないために売れ残った農林漁業生産物のすべてを、損害賠償の対象に設定するべきなのだ。
 
 政府の狡猾な言動を注意深く監視しなければならない。

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