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2011年4月15日 (金)

やはり浮上した税金投入による電力事業者救済策

震災を悪用する悪魔の蠢(うごめ)きが活発化しているので、最大の警戒が必要である。
 
 三つの重大な問題がある。
 
 第一は、今回の福島第一原発による人類史上最悪の区分に入る放射能放出事故について、事故発生当事者である東京電力に適正な責任を求めない方向に政治が動いていることである。
 
 第二は、この機に乗じて、「国民すべてが復興のために力を注ごう」とのキャンペーンを張り、その流れに乗って、庶民大増税をなし崩しで導入する動きが本格化し始めていることだ。
 
 第三に、「増税よりも前に政府の無駄を省け」、「目先の財政収支よりも国民生活の救済に全力をあげろ」、「原発政策を根本から見直せ」の声を発する主権者国民とその声を吸収する真の政治家の動きを封殺することが目指されていることである。
 
 ここでは、一番目の問題を考える。
 
 今回の事故は津波の発生に伴って生じた。予め備えておくべき津波への備えを事業者が怠っていたために事故が発生したのかどうかが焦点になる。
 
 津波の規模は1896年に発生した明治三陸地震津波と同等であったことが推察される。この事実が正しいなら、事業者の津波への対策が適正でなかったとの指摘は正当である。いまからわずか115年前に発生した津波規模への備えを十分に取ることは、安全対策に万全を期せねばならない原子力発電所の対応として、基本中の基本であるからだ。
 
 他方、原子力発電所の耐震構造、対津波構造については、政府が基準を定めていた。このなかに、明治三陸地震津波規模の津波への対応を義務付けていなかったとすれば、政府も責任を免れない。
 
 東電と政府は、原子力事故発生に伴って発生しているすべての経済的な損失に対して全面的な損害賠償の責任を負っている。
 
 支払いの手順としては、まず、東電が事故を発生させた民間の事業者として全責任を負うべきである。この東電が会社更生法等の適用を含めて、有限責任を完全にまっとうしても、なお損害が上回る場合には、政府がその残余について、責任をもって賠償する必要がある。
 
 この点につて、東電に可能な有限責任のすべてを求めずに、政府が賠償に乗り出すとの方針が、一部で報道されているが、これは問題処理として間違いである。
 
 電力事業は公益性が高く、電力の安定供給は極めて重要な事項であるが、このことと、民間事業者としての責任、自己責任は別である。海外ではエンロン社の経営破たんなど、電力事業者の破たんが生じている。東電が自己責任によって経営に行き詰まるのであれば、経営体としては、通常の資本主義のルールに従って処理を行う必要がある。
 
 なぜかと言えば、絶対に起こしてはならない原子力事故ということがらで重大な善管注意義務違反があり、その結果として事故を発生させたのであるから、その事故の損害賠償の責任を厳しく負わせることが、今後の安全対策への原動力となるからだ。
 
 重大な事故を起こしながら、いざ事故を発生させてしまったときには、政府が税金を投入して事業者を救済するというのでは、今後も、真剣な安全対策など求めようがない。
政府が安易に救済して、企業倫理が破たんすること
「モラル・ハザード」
と呼び、政府の政策はこの「モラル・ハザード」を引き起こしてはならないとされている。

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大手金融機関について、大手金融機関は非金融機関と役割が異なり、大手金融機関が破たんすると金融システム全体を不安定化させるから、大手金融機関は倒産させられないとする、
「トゥービッグ・トゥー・フェイル=(おおきすぎてつぶせない)」政策
の是非がかつて真剣に論じられた。
 
 内外の金融危機から得られた結論は、正しい政策は、
「トゥービッグ・トゥー・フェイル=(おおきすぎてつぶせない)」政策
ではなく、
「トゥービッグ・トゥー・クローズ=(おおきすぎて閉鎖できない)」政策
であるとされている。
 
 つまり、経営体としての事業者は会社更生法や連邦破産法などで破たん処理をする。しかし、事業そのものを閉鎖してしまうことの社会的コストが大きいから、事業そのものは継続させる、というものである。
 
 電力会社の経営責任は厳しく問うが、電力事業そのものは継続させるという選択肢は存在し、必要に応じてこの方式を採用するべきなのだ。
 
 政府がいち早く東電救済に動いているのは、霞が関と永田町が東電と癒着しているからである。
 
 電力業界には、多数の天下り利権が植え込まれている。事業者から巨大な利権提供を受けているから、行政が歪むのである。これが、「政治とカネ」の問題の本丸である。実質的な贈収賄の基本構図である
 
 永田町の癒着の中心は民主党ではなく自民党であったが、現在の民主党執行部はかつての自民党の癒着構造をそのまま引き継ごうとしている。電力業界から巨大な献金等の利権提供を受けるから、政治が中立公正な処理ではない、東電救済に突き進むのである。これも「政治とカネ」問題の本丸である。
 
 まず、二点を明確にする必要がある。
 
 ひとつは、電力業界全体として、今後、一切、天下りを受け入れないことを明確にすることだ。枝野幸男氏が質疑応答で天下りが望ましくないと述べたが、述べるだけでは何の意味もない。天下り全廃を明確に法制化すべきだ。
 
 第二に、政治家が電力業界から一切、政治献金を受け取らないことをやはり法制化することだ。
 
 個人献金に偽装して企業献金が行われている現実を踏まえて、企業献金に加えて個人献金も禁止するべきである。
 
 また、原発放射能を回避するために避難した罹災者に一時金の支払いが検討されているが、一人当たりの金額を設定して支払うべきである。二人世帯と十人世帯では必要資金がまったく異なる。単身世帯を七十万円とするなら、すべての罹災者に対して一人当たり七十万円を仮払いするべきだ。
 
 また、十年も二十年も居住不可能であるとの見解が流布されているが、十分に考えられることである。重要なことは、実態に即した十分な補償を行うことである。風評被害も当然に補償の対象に含めねばならない。
 
 東電は株式市場に上場する100%民間事業者であるから、民間企業の自己責任原則を軸に損害賠償のあり方を決定しなければならないことは当然だ。

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