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2011年4月30日 (土)

住民の命守る金出さぬ菅直人氏を内閣参与が糾弾

東京電力福島原子力発電所の放射能放出事故は、人類史上最悪のレベル7に区分された。原発原子炉は水棺方式で冷温停止に向かわせる方針が取られているが、放射能汚染水の原発地下への漏出の可能性が遮断されておらず、今後、重大な土壌汚染および地下水および海洋水汚染を引き起こす可能性がある。
 
 鳩山由紀夫前首相は菅直人氏にこの点を指摘したと考えられるが、現状ではこの提言が無視された形になっている。水棺方式では、原子炉格納容器の絶対的な強度が求められるが、この点に不安が残されており、早期にこの問題を全面的に解消することが求められる。
 
 福島原発放射能事故の処理に関しては、以下の三点を改めて確認しておく必要がある。
 
 第一は、近隣住民および近隣地域に居住する子どもの生命と健康を確実に守ることである。菅直人氏が今回の原発放射能事故への対応について、専門的見地からの助言を求めるため内閣官房参与に起用した小佐古敏荘・東京大教授が29日、30日付の辞表を提出した。
 
 Photo 小佐古氏は東京大工学部卒。東大助手などを経て05年に同教授。放射線の健康影響について勧告する国際組織、国際放射線防護委員会(ICRP)の委員を務めた経験があるほか、国の原子力政策を担う内閣府原子力委員会の専門部会でも委員を務めている。原子力の安全確保への貢献が評価され、08年に経済産業省から原子力安全功労者表彰を受けた。
 
 小佐古氏は、放射能に関する安全基準を設定するうえで専門的見地からの助言を受けるために、菅直人氏がわざわざ内閣官房参与に任命した学者である。
 
 小佐古氏は29日に行った記者会見で、なかでも福島県内の小学校や幼稚園などの利用基準で、被曝(ひばく)限度を年間20ミリシーベルトと設定していることを「とても許すことができない」と非難した。特に同県内の小学校などの校庭の利用に際し、この基準を使用することを問題視し、見直しを求めたが、政府はこの危険な基準を適用することを強行した。
 
 この点に関して小佐古氏は、「(小学生らに)無用な被曝をさせてはいけないと官邸に何度も言った。(このままだと)私の学者としての生命が終わる」と述べた。
 
 基準を厳しく設定すると、学童などの避難措置が必要になる地域が福島県伊達市や福島県福島市にまで拡大する。両市は人口密集地帯を含んでいるため、児童の健康被害を回避しようとすると、大きな財政負担が発生する。
 
 つまり、菅直人政権の基本スタンスは、国民の健康・安全と政府の財背負担を天秤にかけて、政府の財政支出負担を軽くするために、国民の健康や安全を犠牲にするというものである。この基本スタンスが改めて鮮明に示された。

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第二の問題もこれと密接に関わる問題であるが、東電福島原発で作業をしている労働者の被曝量管理が極めて杜撰であるとともに、その被曝量上限が場当たり的に撤廃されていることだ。小佐古内閣官房参与の辞任の原因のひとつでもある。
 
 原子力関連事業に従事する労働者の年間被曝量上限は100ミリシーベルトに定められている。一般個人の年間被曝量上限は10ミリシーベルトであるが、専門産業従事者には10倍の被曝が認められてきた。
 
 この基準が、今回、一気に250ミリシーベルトに引き上げられた。これも何ら明確な根拠のない暴挙である。
 
 菅直人政権は今回、さらにこの基準を撤廃して、年間500ミリシーベルトまで基準を引き下げようとしている
 
 そこまで、安全だと言い切るなら、少なくともまず、菅直人氏、枝野幸男氏、東電役員、原子力安全・保安院幹部、原子力委員会委員が全員、現場で作業して500ミリシーベルトの被曝をして、これだけ浴びてもまったく問題がないことを示してからにするべきである。
 
 事故を引き起こした責任ある者が安全な場所から命令を出すだけで、生命の危険を伴う作業を末端の名もなき労働者に強制することが許されるはずがない。
 
 枝野幸男氏は、原発から20キロの地点を視察する際に、防護服に防毒マスクで完全防護した姿でいたにもかかわらず、たった5分で現場をあとにした。腰ぬけである。
 
 政府と東電はこれだけの大惨事を引き起こしてしまったのである。すでに引き起こしてしまった過去を変えることはできないが、せめて、これ以上、原子力被害を出さないための万全の対応を取るべきではないのか。

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第三の問題は、東電の賠償責任である。原子力損害賠償法第三条には、「損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるとき」は、賠償責任が軽減されるとの規定があるが、今回の事故は、わずか115年前に発生した津波と同規模の津波によって発生したものであり、当然に求められた備えを怠っていたために発生したもので、100%の人災であるとしか言えない。
 
 したがって、東電に可能な限りの責任を求めるのは当然である。東電の能力を超える損害賠償責任は一般国民が肩代わりせざるを得ないが、一般国民に負担を求める限りは、資本市場のルールに基づく事故発生当事者の応分の責任処理が不可欠である。
 
 経営責任は厳しく問うが、事業そのものは継続させるのが
“too big to close”

(=大きすぎて閉鎖できない)
の原則である。
 かつての
“too big to fail”
(=大きすぎて倒産させられない)

では、責任追及が実現しないために構築された、新しい規準だ。
 
 責任ある当事者に応分の責任を問わず、救済してしまうと自己責任原則が崩壊してしまう。これを「モラル・ハザード」と呼ぶ。資本主義における企業責任処理においては、この「モラル・ハザード」を引き起こさないことが鉄則になる。
 
 財界首脳のなかに、「モラル・ハザード」を奨励する意見を示す例が散見されるが、そのような時代錯誤の発言を示す人物は、直ちに財界から身を引いて、企業経営を一から学び直すべきだ。財界そのものの見識が疑われる。
 
 政府は東電の免責を否定しているが、そうであるなら、その基本方針と整合的な問題処理スキームを提示する必要がある。
 
 同時に、国民の生命と健康を守ろうとしない菅政権を退場させることが先決である。

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