誰が、何を目的に、誰を救済しようとしているのか
魚の卸業者が腐った魚を売ってしまったとしよう。この腐った魚を仕入れた料理屋は腐った魚を調理して客に提供してしまった。
この事実がニュースになって、腐った魚料理を食べた客は、大丈夫かどうかを心配し始めた。
すると、政府と魚の卸業者が一斉に、腐った魚を食べても、
「ただちに健康に影響を及ぼすとは考えられない」
と言い始めた。
それでも、多くの客は、腐った魚を食べたら食中毒を起こしたり、さまざまな弊害があるのではいかと心配に思う。
この国にはさまざまな安全のための基準があって、この腐った魚は、この国の安全基準を満たさないものであった。このことも客は知っている。だから、腐った魚を食べて本当に大丈夫なのかを心配に思っている。
ところが、
「腐った魚を食べたくない」、
「腐った魚を食べたら危ない」
と発言することは、腐った魚料理を出した料理店の営業を妨害することになるから、あまり大声で言うなとのお達しが出た。
「腐った魚料理を出す」との評判が広がって、料理店の客足が減ることを
「風評被害」
というのだそうだ。
客は料理店が悪いのではないことを知っているから、
「腐った魚を食べたら危ない」
と言うことは控えなければいけないのかという気持ちになってきた。
社会全体で、
「腐った魚を食べたら危ない」
と発言することは、料理屋のことを考えない悪者であるとの空気が生まれてきた。
結局、腐った魚の出荷は放置され、客は、心配に思いながらも料理屋が出す腐った魚料理を食べ続けることになった。
ところが、この「腐った魚料理」は、食べても、
「ただちに健康に害をおよぼすこと」
はなかったが、
「長期間、継続して摂取すると、重大な健康被害を生む」
料理だった。
この腐った魚料理を食べ続けた人々が住む地域では、やがて、がんの発生率が急激に上昇し、出生率は低下し、奇形の胎児が発生する確率が異常に高まった。
こんなことを防がなければならない。
周辺地域の放射能濃度は、一部地域では、明らかに高い。
100マイクロシーベルト/時の放射線量が観測され続けている地点は、本当に何の問題もないのか。
放射能汚染の基準値を上回る食物を摂取し続けて、本当に何の問題もないと言い切れるのか。何の問題もないというのなら、そもそも基準値など意味のない数値であるということになる。
「腐った魚を食べても何の問題もない」
との情報を流布しているのは、政府と魚の卸業者である。彼らがこうした情報を流布するのは、さまざまな影響に対してこの業者と政府が賠償責任を負うからだ。
今回の重大な原子力事故の責任は政府と電力会社にある。放射能汚染地域が広がり、農産物にも被害が広がることは、政府と電力会社の賠償責任を膨大なものに拡大する。この賠償責任を可能な限り小さくするために、
「この程度の放射能を浴びてもただちに健康に害を及ぼすことはない」
「この程度の放射能汚染の野菜を摂取し続けてもただちに健康に害を及ぼすことはない」
と言い続けているのだ。
本当は、消費者も農家も、ともに被害者であるのだ。だから、消費者と農家が結束して、放射能汚染を生み出した政府と電力会社に適正な責任を求めるのが筋なのだ。放射能汚染そのものを批判することが罪悪であるとの空気が生み出されることは、政府と電力会社の思うつぼである。
本当に安全だというなら、雨が降っているからといって現地視察を急きょ中止するようなことはするべきでない。菅氏も枝野氏も、公開の場で、基準値を上回る野菜と牛乳を毎日食べ続ける場面を放送するパフォーマンスを演じるべきだ。住民には安全だと言いながら、本人は雨降りには現地に近付かないのでは、誰も政府発表情報など信用しないだろう。
農家は加害者ではなく被害者である。放射能汚染問題が生じたとしても、責任を負うのは農家ではなく、政府と電力会社なのである。
「ただちに健康に害をおよばすことはない」
との情報が流布されているのは、政府と電力会社が、政府と電力会社の賠償責任を最小化することを目的に、政府と電力会社を救済することを狙ったものなのだ。
このことを、私たちは明確に認識しておかねばならない。
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